第45話 度胸あるねぇ?
ローゼがスァッカを見逃した理由は別に他人を利用したわけではなくただ嫉妬が暴走した結果だったからです。ギャラリー? そもそもは真正面から戦うつもりがあったわけでもありませんから。ローゼ的にはカツアゲあたりからギルティです。現実だと強制的に気絶まで持ってかれます。……現実と同程度でよかったですね。
~宿屋【ストリングス】~
長屋が立ち並ぶ時代劇のような町並みの中、雰囲気をぶち壊しにする近代的日本式屋敷。違う、そうじゃない! と言いたいが、泊まるためにグッとその言葉を押さえ込んだ3人は、たまに目に入るカタカナの宿名の書かれた看板を出来るだけ見ないようにしながらロビーで話し合う。
「~ってなわけでぇ。撃退したから大丈夫だよぉ~?」
「……待ちなさい、なんで返り討ちにしなかったの?」
のほほんとスァッカに襲われたときの顛末を話すローゼに、セリオが目を細めてローゼをなじる。
「返り討ちにするまでもないからねぇ」
「二度とそういう気にさせないのも立派な自衛の手段よ?」
「無為な殺生は嫌いだよぉ」
過激なセリオの意見にローゼはため息をつく。そこ、セント・ウォルフの一件は? とか聞くな。ローゼには一応『GHGの横暴を止める』と言う大義名分があったのだ。あったといったらあったのだ。
「でもね、ローゼ。これはゲームなの。いくら痛めつけても分からない馬鹿も居る、殺しても生き返ってくるゲームなの。それどころか私たちみたいに“感覚に違和感あるから”って痛覚を100%にしてるのが珍しいくらいなのよ?」
「あぁ、通りでベッキンガムがバックドラフトのトラップに気付かなかったわけだ」
セリオの言葉にローゼはターレットのトラップを思い出す。あれに気づけたのは痛覚設定を100%にしていたからこそ、肌で熱気を感じ取れたから、と言うのが大きい。それよりもローゼはとあることに気付いた。
「あれ? 俺そんな機能つけたっけな?」
「つけないと安全性に引っかかるでしょうが馬鹿なのあんた」
実際、雷撃とかの麻痺系統の攻撃、ローゼがよくどこか体の一部が使用不能になっているが、んなもん普通の一般人が度々食らって痛覚も現実まんまだったらそのゲームをやめる。そういうものだ。というよりもこの学者、自分の素性を隠す気はあるのだろうか? 度々迂闊な発言をするが。
「あぁ、あったんだそんなの。知らなかったな」
この馬鹿には気付かれていないようだが。そんなことよりも、セリオはローゼにある事を聞く。
「って言うかベッキンガムって誰よ?」
「ソフトモヒカンのガンマァン」
「……本名?」
セリオは目を細めてローゼに問う。たまに自分勝手なあだ名をつけることがあるためだ。
「確か違ったような。俺が勝手につけたあだ名だしぃ」
「……由来」
「デイビット・ベッカム」
「何世紀前の人物よ!?」
セリオの突っ込み混じりの問いにローゼはこともなげに答える。
「ざっと5世紀前かな」
「え? 4世紀前じゃなかった?」
「暗黒皇帝との最終決戦頃の人物だから5世紀前だよぉ?」
「そうだっけ?」
「とにかく!」
話がかなりずれてきた気もするのでセリオはパン、と手を叩きながら軌道を修正する。
「明日は火山に行ってみるんだから余計な問題を……」
「あれ? あいつ……」
「ローゼ!?」
セリオの声も気にせず、ローゼはとある人物の背後へと移動し、D・G・マグナムのブレードを収めてその人物の背中に突きつける。
「……ターレット、ここで何をしている?」
「んげっ、その声はローゼ!? 止してくれよ、俺はしてないぜ? 何もな」
奇抜な髪形をした男は住を突きつけられてるのも気にせずに体ごと振り返る。
「ま、撃てないさお前にはこの俺は。なんたってここは宿屋の中だ。騒ぎ、起こしたくないものなぁ?」
「訳の分からない喋り方しやがって。何の目的だ? GHGがまだ動いているとでも?」
「ハン……」
ターレットが短く笑い、ローゼの銃を突きつける手に力が篭る。しかし、そこにセリオが割り込んできた。
「ローゼ。この変な前髪の男の言う通りよ。騒ぎは起こせない。銃を下ろしなさい」
「チッ」
ローゼはセリオの言葉におとなしく従いホルスターにD・G・マグナムを収める。そんなローゼにターレットはヘラヘラと笑う。
「ハッハー、ローゼェ。こんなちっちゃなお上ちゃんに頭があがらねぇのかい? 情けないなぁお前もっ……!?」
ターレットが言い切る前にセリオがターレットの足の甲を踏みつけターレットに激痛が走る。
「あら? 痛覚100%なのね。見直したわ、そんな尻も頭も軽そうな見た目しておいて」
「こ、このアマ……!」
「おいおい、騒ぎは起こせないんじゃなかったノォ~?」
「てめぇ!」
意趣返しのローゼの言葉に激昂したターレットはローゼに殴りかかるがローゼはその拳を受け止め、手首を帰して捻ることでターレットの腕を固める。
「うぐっ!?」
「好きなんだよねこの技ぁ。軽い力で簡単に相手の腕が取れるからさぁ。でもまぁ」
ローゼは固めていたターレットの腕を放し、右手の人差し指を突き出しターレットを指差す。
「俺としては目的を話してもらえればそれでいい。他人に迷惑を掛けないならな」
「……ちっ、別にガン・ホー・ガンズが動いてるわけじゃない。潰れたよ。そもそもあの組織は。ギルマスが消されちまったんだ。アカウントをな。別物だよ。新生したってまったくの」
「へぇ」
苦虫を噛み潰したような顔で話すターレットにローゼは感心したような声を上げる。
「なんだよ、悪いってのか? 素直に話しちゃ」
「べっつにぃ? 俺は言ったとおりに目的を話して欲しいだけだと言ったはずだけど。度胸あるねぇ?」
ローゼはターレットの襟元を右手で掴み物陰まで引きずり壁に押し付ける。
「関係無い事話すなんて。これはゲームだぜ? つまり……」
ローゼは左手で首を絞め始めながらまるで有名人のゴシップでも話すかのように軽く告げる。
「まともに話さない。それならこちらの仲間に危害を加える可能性ありと見て殺したっていい。殺し合いした仲だもの。俺に集中するならいいけどねぇ」
声色も口元も明るく笑うような雰囲気を醸し出していたが、ターレットはローゼの目を見た瞬間に寒気を感じた。
「(こいつっ、『やると言ったらやる』って目ぇしてやがるッ!? 殺意が篭った目だ! 一般人じゃねぇだろっ、どうあがいたってマフィアだ!)……レベル上げだよ。知ってるだろ? PKはあまりEXPが入らない。だから火山に行って火炎耐性を持ったモンスター相手に武者修行さ」
「……それならいいけどねぇ」
ローゼがターレットを開放するとターレットは右腕を押さえて背後の壁に寄りかかる。心労と息苦しさで息を荒げ、ターレットのHPバーはMAXなのが信じられないほどだ。
「……あぁ、そうそう。明日は俺達も火山に行くからぁ。出くわしたらよろしくねぇ?」
「んだとぉ!?」
ローゼは最後に爆弾を投下した後にセリオとともに元いたテーブルあたりに戻ると、ハルはもう眠気がやばいのか椅子に座ったままコクリ、コクリと船を漕いでいた。すぐ近くで荒事があったとは思えないほどの油断っぷりだ。
「……ハルゥ?」
「はっ、ね、寝てないからな!? 空はおちねぇし、地には引っ張られない!」
「あぁうん。眠いなら宿屋にチェックインしてからねぇ? 明日は時間があけばでいいから」
ローゼは首筋を掻きながらハルを引き起こす。そしてそれぞれ別の部屋を取り、ログアウトし、眠りに着く。現実の月も、満月だった。
50話ではなく45話でした。修正しました。




