第46話 俺は不愉快だからさ
久しぶりの現実話です。珍しく葉楽以外にスポットが当たります。
~葉楽自室~
科学者、荒戸葉楽はけたたましい音を鳴らして響く携帯電話の着信音で目を覚ました。寝ぼけ眼で枕元に置かれた携帯電話を取り、通話状態にして耳に当てる。
『やぁ、こんばんわラック。いや、おはようだっけ?』
「……あぁ。こっちは朝5時だな。8時の夜と違ってなジョニー」
電話の主はSOEGメンバー化学担当のイギリス人、【ジョナサン・アレクサンダー】。因みのこの二人の会話は全て英語で行われているが、翻訳が面倒くさいため全て日本語で表記させていただく。
「って言うかどうしたんだジョニー。めったに連絡とらない癖して」
『……君、人の事言えた義理? エルミーラ寂しがってたよ? 今度強行軍で日本言ってやろうかとか言ってた』
「ありがとう兄弟。その情報は結構重要だ。大学の研究室にデータ移せるからな」
葉楽はその情報を聞いた途端にパソコンを起動し、そのパソコンでの作業データを外付けのハードディスクへと移していく。
『良いって事さ。お礼はそうだねぇ。コークのワサビ1ダースで』
「わかったけどさ。お前の味覚ほんっとにわかんねぇわ」
ジョナサンの笑い混じりの声に葉楽はげんなりとした声で答える。
『テンション低いね。何か嫌なことあった?』
「そうだな。早朝に電話でたたき起こされたことかな」
データを移し終わったパソコンの電源を落としながら葉楽は不機嫌そうな声で返す。冗談交じりだが。
『そうかい? 酷い事する奴も居たもんだ』
「あぁ。いたんだよ。所でさ。なんでエルと連絡とってるの? 聞かせて欲しいんだけどさ。島国住まい」
『おいおい。浮気とかじゃないぞ? エリーとエルミーラは髪色から何まで違うさ。仕事で共同研究しているだけだってば』
「そうか。いや、良かったよ。友達の悪事を友人の恋人にばらす、なんて真似せずに済んでさ。チェルシーは元気?」
『あぁ。今も僕の横で……』
葉楽とジョナサンの間に沈黙が流れる。その沈黙を打ち破ったのは葉楽。目いっぱいの高い声で処刑宣告を告げた。
「ハハッ、懺悔はエリザベスにな~?」
『よせ! ラック! 次はナイフ持ち出さ「バァイ」ラァック!?』
葉楽は断末魔を聞きながら通話を切り、ジョナサンの恋人、エリザベスに浮気相手の名前、住所、風貌が事細やかに書かれたメールを綴り、送信した。そして刃傷沙汰にならなければ良いな等と白々しいことを思いながらまた眠りに着くのであった。この後目を覚ますと葉楽の携帯にはエリザベスの端的なお礼のメールと、ジョナサンからの大量の着信履歴が届いていたことは言うまでもない。
―――――
~私立蛍函仁羽高校:校門~
長野県、諏訪市。初代理事の名が一文字ずつ入った結構巨大な高校、蛍函仁羽高校。通称、蛍高。
夏に入ったばかりの強い日差しが照りつける日の中、とある少年が歩いていた。横紙を赤い髪紐で纏めた金色の髪、整った端正な顔。だらしなく前が開いた黒い学ランに、そこらへんのファッションセンターで買ってきたのであろうベルトが締められた黒いズボン。開いた学ランから見える無地の白いシャツ。昼で終わった授業を簡単に振り返りながら帰路を歩くこの少年は、何を隠そうパルス・イーター、ハルの現実での姿。名を、水橋 春史と言う。その少年の肩をたたく人物が一人。
くすんだ茶色の癖毛に気の強そうな明るい茶色の目。不敵な笑みをたたえた口の中性的な顔に、青みが強い紺色のブレザー、白いカッターシャツに真っ黒なネクタイ、ズボン。ボーイッシュな少女と言われれば信じてしまえそうなこちらの少年はレイヴン・クロウ、レイヴンの現実での姿、水野輝だ。
ジョナサンと比べて説明だらけになるのは仕方ない。だってジョナサンは声だけだもの。そんなことは置いておいて、春史は不機嫌そうに肩を叩かれたほうを向くと頬にさく、と指が刺さる。
「……おい、ヒカル? そういう冗談はユウキのやつにやってくんないかな? もしくはお前の恋人。俺は不愉快だからさ」
「フフ、あの二人は引っかかってくれませんから。君と比べて面白くないんですよねぇ」
青筋が浮かぶ春史の言葉を輝は笑って流す。これは春史が面白くない。
「……何? それ、俺が馬鹿だって言ってる? 女顔」
「ウフフ、言わないと分からないんです? クロワッサンヘアー」
「いや、俺のこれ巻いてねぇし。せめてブラシヘアーと呼べ」
「お前はそれで良いのか」
どこかずれた突っ込みに、思わず輝は真顔になり、はっとした後に、咳払いして取り繕う。
「……コホン。ところで、ローゼはどんな感じなんです? イルムは機嫌悪かったですけど」
「あー、お前の信者がロゼ襲ったって。叱っといて」
「あらー、滅多な事はしないように言い含めておいたんですがねぇ。まあ実力差から言って、返り討ちだったんでしょう? 言って分からなくても、やったら分かるでしょう。まあ説教するにしても明日ですかねー」
春史の言葉に輝は頬を掻きながら答える。というか春史にはあれで通じたことのほうがショックであったが、それは置いておいて、とあることを輝へと問う。
「そんなことより。今日は通常授業の予定だったのに急遽昼までだ。バイトは休みだったから良いけどさ。何か知ってんだろ?」
「……どうしてですか? 理由を」
輝の表情に影が差し、笑顔のまま春史へと問い返す。春史はその威圧感を意に介さず、睨み付ける様な目つきで理由を述べる。
「お前はバイトをしていると言うが、それにしては遊んでいる時間が多すぎるし、あまり金に困っている様子もない。だとしたらやばい仕事だが、お前は外道に落ちようとはしない。プライド、高いしな。つまり残りは体張った仕事、と言う面が強いが、不定期、つまりすべき時と出来ない時がある。バイトがあるんでー、って言ってるときは単発だしな。で、今日の予定変更の理由は教えられなかった。だがお前はそれが何故かを心配する様子もない。新二ですら心配していたほどだ。ナナセン見たくせにナナセンの病気を疑ってたしな。ていうか教務主任の急病程度で全学年で予定が変わるかよ。つまりお前は知ってる。証明終了だ」
「……長い、三行で」
「あなたを
犯人
です」
「無理やりすぎるでしょー」
春史の言葉に輝は指を下唇に当ててフフ、と笑った後、敷地外にある駐輪場に足を向けながら春史に話す。
「確かに知っていますよ。ですがそれを話せるのは貴方がユウキかトオルと互角になれたときですね」
「好感度?」
「そのままの馬鹿で居てくださいなー。この馬鹿野郎ー。んじゃ、おやっさんが待ってますんでー」
輝は手をヒラヒラと振りながら駐輪場へと向かう。輝の言っている意味が分からず春史は腕を組んで首を傾げていた。




