第44話 要するに嫉妬か
ローゼはあまり過去のことを引きずりません。良くも悪くも。
~フォーリン・カーズ~
「ちぃっ!」
「……」
忍者刀の一撃をEx-Sのブレードで受け止めたローゼは前蹴りで忍者を吹き飛ばす。吹き飛ばされた忍者が廃材の山に突っ込んだのを見たローゼはそのまま左手でD・G・マグナムを抜き両手の銃の銃口を忍者に突きつける。
「何故俺を狙う!? ガンホーガンズの生き残りか!?」
「……」
忍者はローゼの問いに答えようとせず、左手を懐に伸ばす。しかし、伸ばした瞬間に間髪入れずにローゼの手の中のD・G・マグナムから銃弾が放たれ、忍者の左手を貫く。
「……!」
「FREEZE(動くんじゃねぇ)! 怪しい動きをするな! 目的だけ話せ!」
ローゼが忍者に怒鳴っていると月を隠した雲が晴れ、忍者の細かい格好が月明かりに照らされる。その黒い夜闇にまぎれるための衣装に包まれた体は、顔は頭巾で隠されており確認できないが、体の稼動域を確保するためか薄手に作られた衣装に映るからだのラインは、やわらかい女性のそれだった。
「……女か? 何故俺をっ」
その瞬間だった。ローゼの近くの建物の屋根の瓦が突然崩れ落ちてきたのだ。ローゼは当然それを回避するためにわずかながら体制を崩す。その隙を見計らって忍者は忍者刀を建物の壁に立てかけ、広いつばに足を乗せ、一気に屋根の上へと飛び移る。そして腰にくくりつけた紐で忍者刀を回収する。
「逃がすものかよっ」
ローゼもその後を追い、己の脚力だけで屋根に飛び移り、瓦を踏み砕きながら追いすがる。言っておくが不可抗力である。忍者は足裏に綿を詰め込んであり、足音が出ないように、あまり地面に衝撃を与えないようにしてあるが、対するローゼは底の硬いブーツ、さらにローゼは高身長な上に鍛え抜いてある。実際運動するとして体脂肪率一ケタ台は逆に持久性に難があるので多少脂肪もつけ、筋肉もつけてあるので195cm、110キロという巨体である。踏み砕かないほうが難しい。
「……」
忍者は負傷した左手を押さえながら走り、ローゼはそれを追跡する。屋根が途切れれば隣の建物に飛び移り、できる限り天井を壊さないようにしながら銃で牽制を入れる。
「……」
「笑ったッ!? 何が目的なんだよ、本当にっ」
頭巾で完全に顔が隠れているはずなのにローゼは忍者が笑ったような感覚を覚える。その瞬間、周囲に対する注意が急激に取り戻される。
「そこのカウボーイ! 人の家の屋根に上ってないで降りてきなさい!」
「瓦壊したのおまえかぁ!」
「屋根崩れたんだけど!?」
「ギャ、ギャラリーで包囲されている!?」
気付けばローゼの居る建物の周りはギャラリーで囲まれていた。
そう、忍者の目的は。
「俺の評判落としか! なんて悪質な!」
気付いてしまってからでは遅い。暴徒と化したギャラリーはローゼの居る建物の壁をよじ登ろうと押し寄せてくる。さらにこの混乱に乗じて忍者は人ごみにまぎれようと飛び降りた。しかし、それを見逃すほどローゼは甘くない。
「スネイク・バインド!」
鞭を振るって、落下している最中の忍者の足を捉え、一本釣りのように腕を振り上げ、忍者を自らの元へと引き寄せる。そして引き寄せた忍者の手を掴んで捻って固め、床に押さえつけた状態でギャラリーに叫ぶ。
「すまない! 襲われたからそいつを追っていたら迷惑を掛けてしまった! お詫びはするのでここはどうか引いてくれ!」
よじ登ってきた民衆も、急に熱が冷めたように散らばっていく。熱しやすく冷めやすい性質のプレイヤーばかりが集まっていたのだろう。大体が野次馬根性だったのかもしれない。それでも被害受けそうになった奴らくらいは残ってもいいはずだが。
「顔、見せてもらうぞ」
ローゼが頭巾に手を掛けた瞬間。ローゼの耳にとある言葉が聞こえてきた。
「……魔法詠唱」
「っ、やらせるものかよ!」
魔法を唱えようとする女性の声。
ローゼは頭巾を外す事を諦め、頭を屋根に押し付けようとするが、それよりも先に詠唱が完了した。
「『豪乱牙【龍炎】』」
唱え終わると同時に忍者を中心に炎の竜巻が発生し、ローゼはたまらず飛び退き、忍者はゆっくりと立ち上がり、自ら頭巾を外す。
「どうも、ローゼさん、スァッカです」
「スァッカ!? エレメンツの!? 何故俺の評判を落とそうとした! 何故襲い掛かってきた! 答えろ!」
ローゼは銃を突きつけながら叫ぶが、スァッカは答えない。それどころか、背中の忍者刀に手をかける。
「攻撃など!」
ローゼはすばやくスァッカの右肩めがけて銃弾を放つ。しかし、スァッカは上体を少し揺らすだけでそれを避ける。
「何ッ!?」
「正直、納得行っていないんです。あなたは何の苦労もなく、あの人と知り合って、あの人に認められて、あの人に必要とされて……! 挙句の果てにもう、イルムさんを倒して!」
イルムに迫るほどのスピードの踏み込みで、スァッカはローゼへと迫る。そして忍者刀を引き抜き、ローゼめがけて振り下ろす。しかしローゼは、左手を振りかぶった腕に当てることで振り下ろすのを阻止する。
「何を!?」
「あなたは私に殺されるべきなんだッ! 慈悲も無く!」
激情でスァッカの腕力のリミッターが外れ、ローゼの右手だけでは押さえきれなくなるほどの力が発揮され、ローゼは横に受け流し、距離を取った。
「要するに嫉妬か!」
「あなたに……何が分かるっていうんだ!」
スァッカが取り出したものは鎖分銅。鎖の先についた分胴をぶつけたり、分銅の遠心力を使って敵に巻きつけて拘束したりする武器だ。スァッカはそれを使って戦うつもりのようで、分銅をまわし始める。
「……言っても分からないなら!」
「どうすると!?」
スァッカの叫びとともに投げられた分銅をローゼは鎖部分を掴むことにより無力化し、無理やり振り回すことによりスァッカを待ちの広い場所へ投げ飛ばし、自分も奪った鎖分銅を持ったままスァッカを投げ飛ばした所へと降りる。そしてそのときに銃を両方ともホルスターに収めた。
「完膚なきまでに叩き潰す。銃を使うまでも無い」
「舐めた口をぉ……ッ!」
ローゼはただでさえ鋭い目をさらに鋭くし、スァッカを射抜く。しかし嫉妬心から激情に駆られたスァッカに効果は無い。
「……(多少怯んでくれたらやりやすかったんだが……)」
「たぁっ!」
ローゼが内心でごちっていると、スァッカは飛び上がり、ローゼの真上を取る。
「撒き菱をぉっ!」
「いやそういう武器じゃないよ!?」
真上から散布された撒き菱をローゼは鎖分銅を回し、鎖部分で弾く。しかし周囲に撒き菱は散らばってしまう。
「四方が囲まれたらいくら攻撃が読めようとッ! 魔法詠唱!『豪乱牙【水点】!』」
スァッカが呪文を唱え終わると、スァッカの目の前の虚空から水の球が現れ、ローゼを襲う。
「狙いが甘い!」
しかしローゼは鎖分銅を使い襲い掛かる水球を潰し、撒き菱をものともせずにスァッカに向けて走り出す。
「な、なんで撒き菱をッ!?」
「確かに撒き菱は有用な武器だ! 逃げる際には敵を躊躇させ逃げやすくさせる! しかし!」
ローゼはスァッカに廻し蹴りを入れながら叫んだ。
「それは! 敵が! 草履で! 底の堅い靴でないときの話だぁぁぁっ!」
「うわぁっ!?」
そして吹き飛ぶスァッカに向けて鎖分銅を振るい、スァッカの首に巻きつける。そして一瞬鎖部分が青白く光り、バヂン! と弾けた音がするとスァッカの体から力が抜け、重力に引かれて落ち、地面に叩きつけられる。
「落ちたか……金属製の鞭、ミラーに頼んでみるかなぁ……? いや、『知らん、それは俺の専門外だ』で済まされそうな気がする。まあいいや。とりあえずほっとくか。世話を焼くのも面倒だ。……メッセージカードでも置いとくかな?」
そしてローゼは適当に紙とペンを取り出しさらさらと何かを書いた後、倒れたスァッカに向けて投げつける。その時セリオから指定コールがかかってきた。
『ローゼっ、今何処!?』
「大通りぃ」
『今大きな炎の竜巻があったのよっ、それで……!』
「あぁそれぇ? もう終わったよぉ」
セリオはあわてた様子でローゼへと放すが、ローゼはそれに事もなく答える。
『終わった……? まさかあんた、これに関わったって言うか、起こした張本人じゃ』
「で、見つけたのぉ?」
『え? うん。見つけたけれど』
やけに平然としたローゼの様子にセリオはいぶかしむが、ローゼはそれを無視してセリオに質問し、セリオはそれに答える。
「じゃあマーカーお願ぁい」
『分かったわよ……じゃあ宿屋で話し聞かせてもらうわよ? ハルと一緒に』
「分かってるってぇ」
ローゼはそういうと指定コールのウィンドウを閉じ、マップウィンドウを表示して、マーカーの表示されたポイントへと歩き出す。ちなみにこのとき既にイルムから言われたことを忘れていた。
しかしローゼは気にせずに鼻歌交じりで歩いていく。襲われた割に暢気なローゼなのであった。
まきびしって撒き菱で良いんですかね? よくそう書いたりしますけど。




