第37話 仮説は当たっていたか
あけましておめでとうございます。ところでご存知ですか? 元旦とは一月一日の午前のみを指し、正月は一月全てを指します。一月一日を指すのは元日なのですが、テレビでは正月特番、元旦特番とは言っても元日と九番とはあんまり言いません。語呂の問題でしょうか?
そんな関係ない正しいのかも微妙な知識ばっかりで文才が微妙な作者ですが、今年もよろしくお願いいたします。
~ワム鉱山~
ハルは槍を突き出しディアヴォロ・ワイバーンの胸を貫こうとするが、その目論見は阻まれる。
「んなっ!?」
いつの間にか再生していた両腕によって。しかしハルは動揺を最小限にし、左腕を振りかぶる。
「魔法詠唱! ……あれ」
振りかぶったところでハルの頭に疑問が浮かぶ。闇って、何ができる? 今さっきは無我夢中で使ったけど、と。
そんな迷っているうちにディアヴォロ・ワイバーンは拳を握りハルを殴り飛ばす。
「うおぉう!?」
ハルは殴られる瞬間に殴られる方向に跳びダメージを軽減するがそれでも少なくないダメージが蓄積する。
「ちっ、しゃあない! スキル発動! オーラスピア!」
ハルは素早く槍にオーラを纏わせ、坑道の壁を使った三角飛びでディアヴォロ・ワイバーンの背に回りこむ。
「飛べなくなれば!」
黒きオーラを纏いさらなる漆黒に染まった槍を振るい、ディアヴォロ・ワイバーンの背に生えた蝙蝠のような翼を切り飛ばす。
「これで……!?」
飛べなくなるはず、その言葉は声にならず、吐息となって掻き消える。何故なら、ディアヴォロ・ワイバーンは相変わらず宙に浮かび、振り向きざまに拳を振るい、ハルを弾きとばしたからだ。
「キャルキャルッ!」
「っがァ……! (何故!? 奴はまだ、飛んでいられる!? わからない、わからない! 生物は苦手なんだ、畜生!)」
生物とかは関係ない気がするが、ハルの頭の中でめぐるましく思考が回転する。そして、結論。
「もぉ面倒くさい! とりあえず回復できなくなるぐらいに擂り潰してミンチにすればいいんだろっ!」
いや、思考停止だった。ハルはインベントリからドリンクポーションを取り出し一気に飲み干し、空瓶を投げ捨てる。そして槍の穂先をディアヴォロ・ワイバーンに向け、スキルを発動する。
「スキル発動! ストレング・アーム!」
腕力強化のスキルを発動し、そのまま突撃。そしてディアヴォロ・ワイバーンの数歩先で更にスキルを発動する。
「スキル発動! キック・ブースト!」
足裏から推進力が発生し、ハルの体が宙に浮く。その瞬間に足首を伸ばし、爪先で大地を蹴り出す。要するに、肉薄突貫。槍が巨大な大砲ならば尚良し。下方向から突き上げる場合、基本的には相手が重ければいくら相手が飛んでいようと浮かんでいようと、その自重で槍の穂先に深く深く埋まり込む。
「いっけぇ!」
しかし、またその考えは裏切られる。当たりはした。手応えもあった。しかし、少し凹んだだけで跳ねたのだ。
「はぁ!? 重いはずだろ!? あんな威力!」
そもそも、ハルがこういう手段をとったのは腕を振り回しただけでハルの体を簡単に吹き飛ばしたからだ。威力とは、質量、密度、速度を掛けて求められる。その他にも細々とした要素が絡むが基本はこの三つだ。速度がそこまででもないのなら、質量、密度が重要。つまり、重く、中身も詰まっているはず。そして重ければ重いほど骨格はそれを支えるために固く、重くなる。ならば、重いはず。
しかし現実は厳しく、跳ねたディアヴォロ・ワイバーンは気味が悪くなんともないかのように笑っている。それがハルの神経を逆撫でる。
「キャキャキャッ!」
「うざってぇ……!」
ならば、細いところなら。太ければ衝撃、威力は分散する。ならば、一点集中。関節を狙う。ハルは手荒く槍を振るい、ディアヴォロ・ワイバーンの腕を狙う。しかし、槍は甲高い音を立てて弾かれる。先程は簡単に斬り飛ばせていたのに。ハルの頬に冷や汗が流れる。
「なにぃっ……!?」
無造作に振るわれる必殺の腕。ハルは頭を逸らし、腰を捻り、足で跳ね、辛うじて全て躱す。だが、最後に空中に逃げたのがいけなかった。
「キャルルゥ!」
「まっず、逃げられ……!」
最上段から振り下ろされるハンマーパンチ。どうあがいても地面と拳のサンドイッチ。まるでホットサンドの具のように押しつぶされてしまうだろう。
「(時間……稼げたかな……)」
ハルの脳裏にそんな言葉が浮かぶ。きっと。憧れの恩人のあの人なら。そんなことを思いながらハルは目を閉じる。デスペナルティはどんな感じだっけな……なんてことを考え、衝撃を待つ。しかし、予想する衝撃はいつまでたってもやってこない。ふと、目を開く。そこには拳を振り上げたままで固まっているディアヴォロ・ワイバーン。そしてそれを捕らえている鞭。その鞭を持っているのは。
「空に逃げるのは短時間、もしくは空中での推進力を確保している時だけ、そう教えたはずだけどぉ?」
「ロゼぇ!」
ローゼス・ノブレス。自称:薔薇の銃士。傭兵。様々な名を持つ男、ローゼ。腹に大きな穴があいていたはずだが、そこはゲーム、軟膏ポーションを塗ったらすっかり治ったようだ。流石にシャツは穴が空き、見事に鍛えられた筋肉が見えているがそこは仕方がない。
「よいっしょぉ!」
全力全開、鞭を振るってディアヴォロ・ワイバーンを投げ飛ばす。そして坑道の壁に叩きつけたあと素早く駆け寄りディアヴォロ・ワイバーンの頭を掴み、まるで大根を摺り卸すかのように擦りつける。
「っらぁ!」
「キャルゥ!?」
初めての悲鳴。復活したローゼはまるで弱点がわかっているかのように叩き込む。こすりつける勢いのまま反対側の壁に投げ飛ばすと渾身の前蹴りをディアヴォロ・ワイバーンの腹に放つ。ギィゴン! と凄まじい音が鳴り響き、ディアヴォロ・ワイバーンの腹が凹む。
「冷やせはしないが……そらっ!」
続け様にインベントリからガンオイルと松明を取り出し、ガンオイルをぶちまけ、松明で火をつける。これのどこが銃士の戦い方なのだろう、とか考えてはいけない。とにかく、ディアヴォロ・ワイバーンを炎上させ、頭部に全体重を掛け踏みつける。
「仮説は当たっていたか……いやこれはこれで口内爆発平然としてた理由が説明つかないが……体内の方が強化されていた……ということでいいのかなぁ?」
「え? ちょっと待ってロゼ、どういうこと?」
「簡単な理屈……いや、これ生物学に真っ向からケンカ売ってる気がしないでもないけど……」
ハルの問いにローゼはディアヴォロ・ワイバーンを踏みつけながら答える。
「恐らくこいつは最初は人を食べず、坑道の鉱石を食らっていた。そして、その鉱石の特性を得たんだ」
「なんの?」
「オリカルクム。……オリハルコン、って言った方がいいかな? ドワーフはその金属を使って強力な武器を作っていたんだ……はいここで問題だ! オリハルコンの特性は!?」
「とかく固い!」
「だけじゃない! さらに羽毛のように軽く、宙に浮かぶ、という性質もある! かの有名なガリバー旅行記のラピュータの大陸はほぼすべてがこのオリハルコンだった、なんて話もあるほどだ! 昨今のJRPGではオリハルコンはただのかったい石なんて……」
「話ずれてるずれてる。で? それの何が弱点になるのさ」
踏みつけながらなんかうっとりした顔になってきたローゼに危機感を感じながら、ハルは結論をせかす。
「あぁそうだった。いやぁゲームで攻略法を見つけたら下らない薀蓄を披露したくなるよねぇ。まぁ、俺だけだろうけど。とりあえず、特性を得ているということは! 体の皮膚が金属に擬似的になっているも同じ! つ・ま・り! 圧倒的質量には敵わないしプレスにもめっぽう弱い! 自己進化能力があるみたいだが、熱せば柔らかくなる!」
「無茶がないかその理屈!?」
自信たっぷりのローゼにハルは思わず突っ込む。割と論理が飛躍しているし。そもそもオリハルコンの特性を説明した理由はどうした。
「そりゃあ物理も生物も専門じゃないしねぇ。そもそもこれ、ゲームだし。実際自分でもないわーって思ったけどね? 実際試してみたらそれっぽいし、いいじゃん。ところで、だ。君、魔法、何を習得した? できれば水、闇のどっちかがいいんだけど」
「え? なんで魔法習得したって」
「落ちたのにこんな短時間で戻れるかよ。落ちた先で何らかの干渉、この場合は賢者の誰か、と考えるべきだな。で、どれだ!?」
「闇!」
「ブラックホールは光をその多大な重力で抑え込むから闇となる! 重力をかけて押しつぶせ!」
「あいよっ!」
ローゼが飛びのいた瞬間にハルは詠唱を始める。
「魔法詠唱!『深き闇よ、その光をも吸い込む圧で、押し潰せ!【ダークネス・スピァー・ダヴィィニ】!』」
唱え終わったその瞬間、見えない圧がディアヴォロ・ワイバーンを押し潰し拘束する。
「でも、どうすんだよ! 決定打に欠けるぞ!? ずっと重力にかけるわけにもいかねぇ!」
「何のために顔やらなんやら凹ませたと思ってる。鏡面にしないために細かい傷つけるためだよ。セリオォ! 渡すぞっ!」
ローゼは始まりの拳銃をホルスターから引き抜き、銃倉に弾を入れないまま撃鉄を起こす。そして無造作に後ろに放り投げる。そして受け取ったのはセリオ。どれだけ長い間詠唱していたのだろうか、その体を白き魔力が覆っていた。セリオはディアヴォロ・ワイバーンの頭部のほんの少し上に銃口を向け、準備を済ませる。
「『……つまり、この一撃は、あらゆるものを貫き、引き裂く裁きの光線。ブラストマジック【フェジウム・ブラストレーザー】!』」
唱え終わると同時に引き金は引かれ、細い一条の光の線がディアヴォロ・ワイバーンの真上を通る。
「Phantom to Phantom!」
そして掛け声とともに銃は振り下ろされ、ディアヴォロ・ワイバーンは二つに割断される。
「キャ、キャルルゥ……」
「Gかてめーはっ!」
「魔界に堕ちな、悪魔竜」
まだ立ち上がろうとするディアヴォロ・ワイバーンの頭部を男二人が踏み潰し、完全に青き光の粒子と消えた。
「……貸しだぜ? ロゼ」
「……練習のLevelを引き上げようかい? パルス」
ローゼとハルは顔も合わせずに軽口を叩く。心を許した師弟の会話、それはまるで年の近い兄弟のようだった。
「とぅっ」
「あいたっ」
「あらら」
そんなローゼの背中に飛びつくセリオ。
「私にも貸し、一つだから。お勧めの酒、持ってきなさい」
「はいはい、ちっこいお嬢様」
ローゼは目をつむり、なんか妙な感覚がしたのでホルスターに手を伸ばす。そのホルスターには、武骨な銃の銃身だけが残っていた。
「え?」
そのローゼの言葉は虚空に消える。目標は達成したのに更なる悩みの種が生まれてしまった。




