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第27話 3分間で、お前に勝つ

 前回間違えてガソリンオイルと表記しておりました。重油の類が取れない、という設定にも関わらず。……浮かれるな、という天罰ですかねぇ。

 ~ギルド【ガン・ホー・ガンズ】本部第10階層~


「くぅっ」

「ふん」


 ターレットの放った弾丸はローゼの左肩に突き刺さり、ローゼの放った弾丸はターレットの胸に当たると同時に起こった爆発により弾かれる。


炸裂装甲(リアクティブアーマー)か……面妖な」

「ご明察だぜ。作るの大変だったんだぜ? これがな」


 ローゼはひと目でその爆発の正体を看破し、ターレットはその洞察力に賛辞の言葉を贈る。


「まあだからといって特にボーナスもやらんがな。魔法詠唱(チャントオブマジック)『炎よ花を咲かせろ。【ファイアフラワー】!』」


 ターレットが指を弾きながら魔法を唱え終わるとローゼのすぐ横で爆発が起こり、ローゼはその爆発に吹き飛ばされ壁に叩きつけられる。


「な……!?」

「タネはあるが明かさんよ。(フラワー)だけにな!」


 ターレットはそんなつまらないジョークを言いながら爆煙を振り払うように左腕を振り、右手で銃を構え、狙いをつける。


「ちぃっ」

「うおっ、あっぶね」


 ローゼは壁に打ち付けたせいで痛むこめかみを左手で押さえながらG・リボルバーを放つが、苦し紛れのその攻撃はターレットの袖を掠めるに終わる。ターレットは何故か少し慌てたが。


「あっぶねー、浅いか」

「そりゃあ袖は浅いだろうさ」


 ローゼはそう言いながら立ち上がる。ガンガンと響き、今もなお痛みを増す頭を押さえながら。


「(……この鉄の匂い、邪魔だな……嗅覚潰すし、頭の痛みに響くから思考もまとめられん……)ゲホッ! ゴホッ! 魔法詠唱(チャントオブマジック)!」


 痛みでボーっとする頭を必死に動かし、ローゼはバックルを叩きメダルを精製、振りかぶる。


「(詠唱……無理だ。まともに考えられん)『【メタリック・エクスプロージョン】!』」


 そして遅延魔法(マジックスイッチ)を仕込みながらメダルに魔法をかけ、投げ飛ばす。そしてターレットの近くまで飛んだところで条件を満たし、爆発するも、ターレットは無理やり前に出て回避する。


「っとぉ! あっぶねぇなぁ! 魔法詠唱(チャントオブマジック)!『炎よ紅い花を咲かせろ!【ファイアフラワー】!』」

「くぅっ!?」


 また唱えられた魔法によりまたローゼの横で爆発が起こる。それをローゼは左腕を盾にすることで頭へのダメージを回避するも、バッグドラフトを起こした部屋へと叩き込まれる。幸いまたバックドラフトが起こるという事態は回避されるが、それでも部屋の中が炎に包まれている事実は変わらない。

 ローゼは全身を焼かれながら部屋の中を数度転がり、壁にぶつかって勢いを殺し、腕をついて立ち上がる。


「いってぇ……それにしても熱いな。バックドラフト現象が起こるほどの高温だから仕方がないが……」


 思考している最中にとある事にローゼは気付く。

 それは、鉄の匂いがしないこと。頭の痛みが何故か引いたこと。焼かれた(というか今現在進行形で焼かれている)体の痛みはあるが、頭に響くような痛みは引いているのだ。


「まさか……!?」


 ローゼは自分の鼻の頭を手でこすったあとにその手を壁に擦り付ける。その後に髪を撫でてその手のひらを壁に押し付ける。

 炎というのは一般的に温度が低いとされるあまり酸素が取り込まれていない不完全な燃焼ですら結構温度が高い。冷炎という炎ですら400度は行く。そしてローゼの感じていた鉄の匂いは勘違いだった。いや、正しいが間違っていた。鼻腔がとても小さな粒子で刺激され続けていたのを、鉄の匂いと勘違いしていたのだ。

 壁にへばりついたのは薄黄色の融解した結晶。融点を超え、亜硝酸カリウムと化した硝酸カリウム。その融点は大凡335度。ちなみにこの亜硝酸カリウム、れっきとした毒物である。ローゼは飲み込んで余計なダメージを負わないように手を喉に突っ込み刺激することにより自らえづくことにより無理やり吐き出す。そして片側の鼻の穴を押さえ鼻から思いっきり息を吹き出すことを二回ずつ繰り返すことにより鼻の中の亜硝酸カリウムを取り除く。この物語はフィクションだしゲームの中である。あまり気にしないように。少なくとも普通の人間は毒物体の中に入ってて取り乱さない方がおかしい。

 そしてへばりついた亜硝酸カリウムを見てローゼは確信する。


「タネは黒色火薬の粉末か……!」


 一応念の為に言っておくが、この部屋の中に入ってからターレットにはえづく音しか聞こえていない。炎が燃える音でかき消されるような音量で独り言を発しているのだ。器用である。


「ミラーの腕が良くて助かった……これ、そういえば火炎耐性があるとか言ってたもんな……」


 そこまで言ったところでローゼはとある作戦を思いついた。健常な精神を持った人間は絶対に思いつかない奇策が。


「……魔法詠唱(チャントオブマジック)『大地の恵みたる木よお前を育てる土となれ。地属性魔法【ウッド・エクスチェンジ・マッド】』」


 銃をホルスターに収めたあと、小声で魔法を唱え、ターレットに気づかれない程度に壁や床を泥に変えて服の表面に塗りつけていく。まるで土壁を作るように、塀を塗り立てるように。関節は動かせるように薄く塗る。顔以外は全て塗りたくった。そしてインベントリからあるものを取り出す。火炎瓶を作った余りの粘性オイル。わりと浸透性が良いためにガソリンがわりに使ったものだ。それの瓶の蓋を開け、頭から被る。そしてそのオイルは泥へと染み込み、周りの炎に炙られ発火する。そして壁のかろうじて無傷な所から板を無理やり剥ぎ取る。それによってようやくターレットはローゼがまだ戦えるくらい意識があることを確認する。

 ローゼはそれが狙いなので特には気にせずバックルをトントン、と叩きメダルを取り出し、持った板と合わせて、呪文を唱える。ちなみに板が左手、メダルが右手である。


魔法詠唱(チャントオブマジック)『木よ、鉄よ、同じ大地から芽生えしものよ、和合し、俺を守る剣となれ。地属性魔法【ウッド・プロセス・メッキソード】」


 木の板とメダル1枚づつを素材とした剣は、ローゼの体格にはいささか不釣合なものであったが、急造品とは思えないほどの品格を醸し出していた。


「へぇ。馬鹿にしてくれるな。3分間の間だけの剣で俺に挑もうって? 銃士が?」

「フッ、あぁ。宣言しよう。俺はこの3分間で、お前に勝つ」


 そう言いながらローゼが飛び出るとターレットは拳銃を撃とうとするがローゼはそれを回し蹴りで拳銃を弾き飛ばすことによって阻止。そのままの回転で首を刎ねようとするが、ターレットはそれを上体を逸らすことによって回避。魔法はローゼが纏う炎により種の黒色火薬がローゼのまわりにないため断念。蹴り上げによってローゼの顎を捕らえるが、ローゼは当たった瞬間にバック宙をすることによりダメージから逃れる。そしてカウンター気味に放たれた逆袈裟によりターレットの左腕は飛び、繋がりを失った肩口からは黒色火薬が舞う。


「ッ、がぁぁっ!」

「っぐぅっ」


 痛みのまま放たれた前蹴りはローゼの腹を捉えてローゼを弾き飛ばす。ローゼは弾き飛ばされながらも剣をターレットに投げる。


「無駄だァッ!」


 しかしそれをターレットは回避。そして二人は同時に勝ちを確信した。ターレットはローゼが徒手になったことにより。そしてローゼは、ターレットが剣と自分を挟む位置に入ったために。


「「魔法詠唱(チャントオブマジック)!」」


「『烈火よ目の前の敵を燃やしつくせ!【エヴォリュード・バースト】!」

「『破裂せよ、金よ!敵の体を吹きとばせ!地属性魔法【メタリック・エクスプロージョン】!』」


 二人はほぼ同時に唱え終わり、魔法の効果はほぼ同時に現実に力を及ぼし始める。

 ローゼの目の前が炎に包まれ今までよりも強い爆発が巻きおこる。そしてローゼの体を包み込むが、ローゼは拳を握り締め腕を目の前で交差することにより体にまとった泥を身代わりにするだけでほぼ無傷に終わる。

 そしてターレットの後ろで爆発した剣のメッキは中身の木剣をかなりの勢いで射出し、射出された木剣はターレットの背中を捉え、その勢いを伝え、ターレットはローゼの方向へと弾かれる。

 そして待ち構えていたローゼは掌底を打ち込む形でターレットに右手の手のひらを押さえつけ、呪文を唱える。魔法名だけの、簡易詠唱。威力は低いが、素早い発動が可能なそれを。


魔法詠唱(チャントオブマジック)!『【メタリック・エクスプロージョン・ランス】!』」


 右掌に泥に埋まる形で仕込まれていたメダルが炸裂し、ターレットの無防備なカラダを貫き、ターレットを光の粒子へと変える。それを見届けたローゼはこう呟いた。


「……ちゃんと最初に名乗ったじゃないかぁ。銃士、ってさぁ。しかも金属を爆発させる魔法使った後でメッキした剣なんてもんを用意した時点で疑えよぉ。全く、勝ち誇るなってんだぁ。まあ、お前の敗因は一つだよぉ……」


 そしてこう締めくくる。


「俺がお前よりも強かったぁ。単純なことだねぇ」

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