第25話 俺がしたいからそうするだけだよ
ローゼは基本的に思い込みが激しいです。一応最終的な判断はそれまでに手に入った情報を総合して結論を出しますが、一面しか見えていない場合それが正しいか間違っているかを自分の主観だけで判断したりします。
まだまだ、成熟しているわけではないので仕方がないんですけどね。
~セントウォルフ~
「さて、と」
ガンショップ【AIMEN】から出てきたローゼは近くのソフトモヒカンの姿を見つけ、歩み寄った。
「逃げてないとは感心感心。じゃぁ、本部の場所がどこか案内してくれるぅ?」
「……だから、一番でかい建物だって、言ってるだろ?」
そうソフトモヒカンが返すとローゼははぁ、とわざとらしくため息をつきながら人差し指を突き出す。
「わかってない。ぜんっぜんわかってないよベッキンガム。君が案内をした、という事実が欲しいんだぁ。ただでさえ警戒されているだろうしねぇ。さっきのPKで。だからこそ、君の利用価値だ。身内を容赦なく切り捨てるならそれはそれでもっと本気になれるし、見捨てないなら盾にできる。君は必要なんだよぉ」
「……ド外道が」
「うぅ~ん、君たちには言われたくないねぇ~。ヤクザ紛いの手口は仁義がなくっちゃただの恐喝だからねぇ」
「チッ」
ソフトモヒカンは舌打ちをしながら後ろ手でローゼに気づかれないようにサインを出す。監視員がこの街の中でいたるところで見張っているはずだ。サインに気づいてくれることを期待してサインを出そうとした瞬間にローゼは腰の銃を引き抜き虚空へと放つ。そうすると断末魔と共に何かが上から落ちてきた。監視員のうちの一人だ。黒づくめの格好がわかりやすい。
「なっ……」
「ずぅっと前からつけられててねぇ。面倒だなぁ、って思ってたんだけど……ずぅッと多人数で見張られてるのも威圧感あるし減らしちゃった」
こともなげに言うローゼだが、その呆気なさにソフトモヒカンは恐怖を覚える。その恐怖のままにホルスターから銃を抜こうとするが、ローゼに押さえられてその試みは失敗する。
「あのねぇ。そんなゆっくり銃に手をかけちゃダメだよぉ? ゲームだから死んでも復活できるけどさぁ。現実じゃあこうやって銃を抜かれて」
「あっ」
ソフトモヒカンのホルスターから銃を引き抜き、逆さだった銃を片手だけで持ち直し、グリップを素早く握って銃口をソフトモヒカンの眉間に突きつけた。ソフトモヒカンの目が見開かれる。
「眉間に置かれちゃ一巻の終わりなんだからぁ。俺もこれ食らったときは死ぬかと思ったねぇ。訓練でよかったよかった。……なんで大学入ってあんな訓練しなきゃいけなかったかは謎だけど」
「防衛大にでも入ってたのかよ……!?」
「それなら訓練して当然でしょう? 普通の研究したりするところだよ。外国のだけどねぇ。まぁ、良かったと思ってるよ。守りたいものを守れる力がついた」
ローゼはほぅ、とため息をつくと銃をホルスターに戻す。
「……なんで戻す?」
「君のでしょう?」
「だけどさ」
「俺がしたいからそうするだけだよ。いつだって」
「……そうかい」
ソフトモヒカンは戻された銃を摩る。
「……それ、いつ、どうやって手に入れたの? それによく手入れされているし、君、今さっき眉間に突きつけられたことよりも銃を取られたことにショック受けてたでしょう?」
「……大切な人に作ってもらった。それだけだ」
「ふふっ、それだけで十分だよぉ。何か大切なものがある奴は強くなれるさぁ」
「今さっき、あんたに手も足も出なかったがな」
「強くなろうとしてなかったんじゃない? 大きな壁、って思っちゃってさ」
そうローゼが告げ、歩き出すと、路地裏から悲鳴が聞こえてきた。
「っ」
「おい、あんた、何処に!?」
走り出すローゼとそれを追うソフトモヒカン。
悲鳴の元は、暴漢たちに襲われる少女だった。このゲームは全年齢向けなので性的な意味ではない。衣服が乱れているが掴みかかられた時のものだろう。
「っらぁ!」
「うばぁ!?」
その襲っている暴漢に不意打ちの飛び蹴りを食らわせるローゼ。そして壁にもたれて座り込む少女を庇うような位置に着地し、暴漢たちに向き直る。
「貴様! 取立て部隊をやった奴!」
「……ここまで外道か、貴様ら」
暴漢のうち一人の言葉でローゼは静かに怒りを燃やし始める。そして追いついたソフトモヒカンの言葉がさらに火に油を注ぐ。
「ちょっと……!? ライム!? どういうことだ、俺が取立ての仕事していれば手を出さないんじゃなかったのか!?」
「ベック! 来てくれたの!?」
「……ベッキンガム、どういうことだ?」
ローゼがソフトモヒカン、ベックに問うとベックは憤りを表情に浮かべながら怒鳴り気味に答える。
「βテスト時代この街を拠点にしてたらライムの店を取り潰そうと無理やり入ってきたんだ、GHGの奴らが! 俺の力じゃ適わなかった、だからどうにか続けさせて貰うために交換条件で!」
「もういい、わかった」
涙さえ浮かぶベックの言葉をローゼは遮り、暴漢のうち一番近かった一人のこめかみにハイキックを入れる。蹴りを入れられた暴漢はベックの足元まで飛び、ベックは素早くホルスターから銃を抜き暴漢の額を撃ち抜く。
「GHGってのはガン・ホー・ガンズのことだな?」
「あぁ……!」
「そんな悪徳ギルド、許しちゃおけねぇなぁ……ッ!」
暴漢は銃を引き抜き突きつけようとするが突きつける前にローゼの掌底によって銃口が真上に跳ね上げられ、銃声が響き、縦断は空を裂く。
「なっ」
「遅い」
呆気にとられている間にローゼはG・リボルバーとS・ファランクスを引き抜き暴漢二人の頭を撃ち抜く。光の粒子となりかけている二人の体を殴り飛ばし残り二人の体に被せて倒す。
「ベッキンガム! 君はどうしたい!?」
「俺は……っ!」
[俺がしたいからそうするだけだよ。いつだって]
ベックの脳裏に先程ローゼが言った言葉が浮かぶ。
「(俺は許せない! あの時無理矢理押し入ってきたGHGも! 簡単に屈した俺自身も! だから……)俺も戦う、あんたと、一緒にっ!」
そう言ってベックが暴漢のうち一人の頭を撃ち抜くと、ローゼはもう一人の首を踵についたカッターで斬り飛ばした。
「よく言った。じゃあ、案内、頼む」
「あぁ……」
「ベック!」
「ライム」
ベックにライムと呼ばれた少女が駆け寄る。
「そういえば、どうしてお前が襲われてたんだ」
「なんでかはよくわかんない。でも、ベックにこれを渡そうと思って」
そう言ってライムはとても綺麗に織られたバンダナを取り出した。それをベックの手に渡す。
「バンダナ……なんで奴らはこれでお前を襲おうと思ったんだ……!?」
「嫉妬じゃないかなぁ。妬み、嫉み。それだけあれば人は凶行に出るよぉ?」
「……どこまで腐ってやがったんだ、奴らッ」
ローゼの言葉で納得してしまったベックは手渡されたバンダナを握り締める。
「……ライム、この街から出よう。こんな腐った街で商売する必要なんてない」
「でも……」
「その必要はない。俺が奴らを潰す。それで万々歳だろう?」
「出来ると思ってんのかあんたは! あのギルドは4大には及ばないにしてもかなり大きなギルドだぞ! もしも戦闘側のプレイヤーを呼び寄せていたらただでさえ多勢に無勢なのにさらに戦力差が大きくなる! しかもトップの近くに化け物じみた魔法使いがいる! それなのにっ」
「出来るさ。俺だって魔法使いだ。化け物じみたのが魔法使いなら、それより上を行ってやる。それに君、ついてきてくれるんだろ? なら戦力差は半減だ。ほら、勝ち目が見えてきた」
そう断言するローゼにベックは一瞬呆気にとられ、溜息をつく。
「あんたな……わかったよ。自分の発言にくらい責任とるさ」
「フフフ、じゃぁ行こっかぁ」
そう言うと二人は歩き出す。歩くベックの後ろ姿にライムが声をかけた。
「ベック! 帰ってきたら、また一緒にお店を……!」
「わかってるさ。必ず勝って、帰ってくる」
立ち止まって振り返ったベックはそうとだけ言うとまた歩き出す。
「やってやろうぜ、大番狂わせ」
「大物殺し? フフ、俺の得意分野だ」
心を決めた二人はガン・ホー・ガンズの本部へと向かって歩く。それぞれを思いを抱いて、それぞれの正義を背負って。
あれ? 内容、前書きと何か矛盾している気がする。……気にすまい。




