第23話 厄介者には気をつけな
ローゼの沸点が作者の自分にもわかりません。割と本気で。
~オネスト~
大学から帰ってきた葉楽は浪士と朱莉に挨拶した後部屋に戻り、パラムスからログインする。ちなみに晩御飯は作っておいたものを温めて食べろと言われた。久しぶりに昔からの友人と食べに行くらしい。
「……しかし、どうしたものかねぇ」
レイヴン・クロウと戦うためには本拠地まで行かなければいけない。コロナ・フェンサー、カラード・トールに至ってはどこに行けばいいのかさえわからない。コロナ・フェンサーの方はPvP大会にでも行けば簡単に出会えるであろうが、どこで開催しているかわからない。ちなみにゼミのメンバー3人組はレポートに追われててゲームしてる余裕なんてない。むしろしてたら怒鳴り散らす。そんな時、後ろから背中を叩かれて振り返ると、銀髪灼眼のちっこいのがいた。
「いよぅ、おにーさん。お暇?」
「キミは……ケイトの兄さんの、イルムくんだっけぇ~?」
「覚えていてくれてよかったよ。マジ感謝。装備はどう? 気に入ったか?」
イルムは先日、というか昨日渡した装備のことを聞く。ちなみに中身はATK+9のブロードソードでした。最初の町ではなかなかの強さ。
「多分投げて使うけどぉ?」
「おぉっとあの剣投擲用じゃねぇぞ?」
「いやちょっとサイズが中途半端だからァ」
「……俺にゃあ十分大きいんだけど」
「ちっこいもんねぇ。140?」
「一応143」
「変わらないでしょぉ?」
「あんたから見たらそうだろうよ! 全く。弟が心配してたから次の目的地でも教えてあげようかな、と思ってたのにさ!」
「次の目的地?」
ローゼの言葉にイルムはフン、と鼻を鳴らす。身長にコンプレックスを持っているようで、「鍛えてなければ……」とか呟いていた。もしかして筋肉で伸びなくなるとか信じてるのだろうか。
「次は北の草原を突っ切ってセントウォルフに行くのがいいんじゃねぇかな。あそこにはガン・ホー・ガンズの本拠地があったはずだし」
「そこってぇ、確かリボルバーのギルドだっけぇ?」
「銃を全般的に取り扱ってる生産系ギルドだよ。 まぁ、色々ときな臭ぇ噂はあるが……まっ、気にするこたァない。うちは一切関わってねぇし、対岸の火事ってやつだ。あぁ、これ、地図だ」
「おっと」
ローゼはイルムから妙に綺麗に織られ、ポスターのように丸められた紙を受け取る。ローゼはその紙、地図にさっと目を通すと、あることに気づいた。
「これ……日本地図じゃん」
「日本サーバはそういうマップ。アメリカは南北同じで最大規模はユーラシア。最少は……あれだあれ。なんか諸島だらけの場所」
「曖昧だねぇ。じゃあ今の場所は日本で言うとどこら辺? 北が草原、東が森、西が鉱山南が荒野なんて場所聞いた覚えがないんだけどぉ」
ローゼのその言葉を聞いたイルムは盛大にため息をついた。
「あのなぁ。環境はまるで違うっつーの! 環境までまるで同じだったらゲームじゃなくてリアルで事足りるだろーが! これ物理法則とかマジでほとんどリアルと同じなんだぞ!?」
「そうなの? でも、十数メートルとか普通にジャンプしてたり……するか。普通に」
「だろ? なんかそっちの常識に囚われちゃダメな気もするが。で、ここが日本のどのあたりか、だっけ?」
「うん」
「運営会社の本社がある埼玉あたりだな。東南辺りに行くと海に出るぞ?」
「へぇ、パないねぇ。作り込みぃ」
ローゼは感嘆したような声を上げると、イルムは不敵に微笑んだ。
「だろ? あぁそうだ、ひとつ忠告」
「忠告ぅ?」
イルムの言葉にローゼは首を傾げた。
「厄介者には気をつけな」
「ブラックシープぅ? ……まぁ、頭に入れとくよぉ」
ローゼはインベントリに地図を入れながら応える。……イルムの口から笑が漏れていることにはローゼは気付かなかった。
―――――
~レイツォ草原~
「ブラックシープって……マジで羊ィィィっ!?」
今現在ローゼは黒い羊の群れに全速力で追われている。別に攻撃したわけではない。しかし、なぜか近くを通りがかると目の色を変えてローゼを追ってきたのだ。
「く、そぉっ!」
ローゼは回転しながら跳び、G・リボルバーから何発か羊の群れに向かって射撃した後、回転の勢いを和らげながら着地する。
「き、効き目は!?」
ローゼは振り向いて成果を確認するが、全く変わっていなかった。むしろ悪化していた。
「嘘ォっ!?」
ローゼはあまりの事態に叫ぶ。周りを確認するが、他のプレイヤーたちには一切被害はいっていないようだ。むしろ何故かローゼだけを頭がおかしい奴のような目で見ている。
ローゼは走りながら目から溢れ出しそうな悲しみの心を抑える。なんで俺だけこんな目に? とか考えながら。
「くそぉっ! 魔法詠唱!『渦巻け泥よッ!固まりて壁となれッ、我の元へ飛ぶ矢を止めろぉっ!【クレイウォール】!』」
ローゼは呪文を唱え、背後に大きな泥の壁を作り上げる。
「こ、これでもう追っては……!」
これまい、と言いかけたところで泥の壁がだるま落としのように崩される。つまり、上の部分に一切倒れたりなどの動きはなく、下の部分だけはじき飛ばされたのだ。
「まじぃっ!?」
再びローゼは走り始める。北へ、北へ。
カウボーイハットを押さえ、コートを翻らせ、踵の鋭い歯車のような戦輪をシャリシャリと鳴らしながら、ただひたすらに走った。
しかし残忍、獰猛な羊たちは走るのをやめない。少なくとも愚かで哀れな迷える子羊なんぞどこにもいない。摂理と道理は弁えてはいないが。
神様に祈ろうと今この状況は変わらない。だからローゼは走る。街が見えるまで。
「……見えたっ!」
ローゼの目に街の門が映る。しかし門の番人はローゼを、後ろの羊たちを見た瞬間に素早く動き、その大きな門を閉めた。
しかし、ローゼ的には都合が良かった。
「とっ」
まず跳んで踵落とし気味に戦輪の鋒を刺さらせる。そして反動だ浮かび上がったあとにインベントリからブロードソードを取り出し思いっきり突き刺し足場にしてさらに高く飛び上がる。そして空中で振り返ると、始まりの拳銃をホルスターから引き抜き、斜め下に向かって構える。
「スキル発動、ブラストキャノン!」
10レベルの時に覚えていた(らしい)スキルの反動を使って勢いをつけるとホルスターに収め、近くに着けていた鞭を取り、壁のポールへと巻きつけ、腕力で自分の体を壁の上へと登らせた。
そして登って安心したところであることを思い出した。
「あ、あの武器サイズ合ってないけど性能はそれなりに良かったな……置いてきちまった畜生。ま、いいか」
ローゼはそう言って頭を掻くと西部劇のような街の中へと飛び降りる。背の高い建物の屋根に一度足をつけある程度落下の勢いを和らげるとまた飛び降りて下の建物の屋根に着地しながら降りていき、路地裏の壁を蹴って勢いを殺して地面に着地すると、そこには悪役ヅラの不良どもが歩いてきていた。しかも一人はモヒカンにするならいっそ突き抜ければいいのに、ソフトモヒカンという中途半端さだ。
「だ、誰だてめぇ!」
「……逆に聞きたいんだけどぉ」
どもる中途半端な不良にローゼは冷ややかな目を送りながら返す。そんなローゼに不良の一人が怒鳴る。
「俺たちは今から上納金取立てに行くんだよ! この街の住人なら邪魔すんなボケ!」
「上納金……?」
「知らねぇのか田舎モン! 俺達ガン・ホー・ガンズの下っ端は上に上納金を払わなきゃ潰されるのさ! その取立てだ!」
不良の一人の言葉でローゼの眼光が鋭くなったことに不良たちは気づかない。いや、気付けなかった。元々鋭いし。
「……やめたい時にやめられるのか? そのギルド」
「はぁ? やめられるわけねぇだろう!? 金蔓をそう逃がすかよ!」
「ふぅん」
ローゼはそう無表情で嘲り笑うとホルスターからG・リボルバーを引き抜き怒鳴っていた不良の頭を撃ち抜いた。
「君たちの間違いは二つ。まず俺をこの街の住人と勘違いした事」
コツン、と踏み出しながらローゼは二発目を撃つ。今度は縦に並んでいた二人を撃ち抜く。残された中途半端な不良は慌てて逃げ去ろうとするが、ローゼが素早く振るった鞭に足を取られヘッドスライディング気味にこける。
「そしてもう一つ」
ローゼは起き上がろうとしていた不良の後頭部に銃口を突きつけながら告げた。
「俺の目の前で弱者を嘲るようなことを言ったことだ。おいベッキンガム。トリガー引かれたくなければ詳しいこと話せ。VR強制ログアウトしない程度の激しい痛みを与えられたくなければな」
「は、はいぃ」
中途半端な不良はただ頷くことしかできなかった。




