第21話 そこはかとなく悪意を感じる
そろそろロボゲ成分を出さなければタイトル詐欺になってしまうかもしれない……
~ギルド【エレメンツ】 オネスト支部~
「教授ーっ! 大丈夫……ですよね、教授だし」
「なんだろうそこはかとなく悪意を感じるぅ」
チェリッサの言葉に不満げに返しながらローゼはすたすたと歩き、チェリッサはその後ろをついていく。二段構えだ。
「スァッカさん、おもてなしって何ですかぁ?」
「料理スキルを持った人の料理フルコースに、それなりの性能の装備だそうです。なんでトップに楯突くって人にそんなことするんでしょうね?」
「さあ? そのトップに聞いてみたらぁ?」
じとぉっと睨んでくるスァッカに対してローゼはしれっと言い放つ。それを見たチェリッサはローゼのもとへと近寄ると、ヒソヒソと耳打ちした。
「教授、今度は何やらかしたの?」
「ある意味君んちんときと同じことぉ。まぁ、今回は自発的だねぇ」
ヒソヒソと話す二人を訝しげな目で見ながらスァッカは玄関ロビーにつながる扉を開けた。
その瞬間にざわめきの声が広がる。別にローゼ達に反応したわけではない。
ケイトと銀髪灼眼のちびっこいのが取っ組み合いの喧嘩を、ミラーと銀髪に深い黒の目の男が得物を取り出しての喧嘩をしていて野次馬が騒いでるだけだった。
「兄さんはいっつもそう! いつもはヘタレなくせしてこういう時だけ兄貴風!」
「ケイトォ、お前いつからそんなに毒舌キャラになった!? お兄ちゃんそんな子に育てた覚えはないよ!?」
「トォール、手前のその仏頂面、いい加減うっぜんだよ!」
「知らないよ。僕だって笑うときは笑う。あんたの前で笑ってないだけ」
「えー、ただいまのオッズ、兄弟喧嘩は兄1.3、弟5.1! オカルト対決はミラー4、トール2だぁ! さぁ、張った張った!」
「兄とトール5口ずつ!」
「こっちは弟にミラー10口ずつだァ! 一攫千金!」
「……なんか、イギリスにいた頃を思い出すなぁ。よく賭けの対象になってたっけぇ」
「あ、そっちに懐かしさ感じるんですね」
「……私、そんな青春ヤです……」
大きさ反転してんじゃないかという体格差の兄弟、表情豊かなのと無表情の対比、騒がしく賭け事をする周りの野次馬。
その姿にローゼはイギリスのキャンパスを思い出し、チェリッサとスァッカは呆れた顔でローゼを見て呟く。
「さて、フレンドだし俺もミラーとケイトに賭けてきますかねぇ」
「あぁ、大丈夫です。あなたが来たのでもう終わります」
「えぇ?」
スァッカの言葉にローゼは疑問符を浮かべる。
ローゼが惚けている間にスァッカはパチン! と手を一回叩いた。
その音が聞こえるのかどうかは不明だ。いや、聞こえているのだろう。ずぁっ、と一斉に騒いでいた野次馬たちは壁際へと移動し、直立状態。
喧嘩していた四人もスァッカ達の方へと向き直り横一列へと並んだ。まるで軍隊のような統制力だ。4大ギルドの称号は伊達ではない、ということなのだろう。
「ローゼさん、ログインし直したんですね。セリオさんは?」
「まだ寝てるぅ。しかし……流石だねぇ、4大ギルド、って奴は。まるでアンドロイドか、っていうくらいに息が合ってたよォ?」
「そいつぁ光栄だ! 教育マニュアルとかは俺に任せられているんでな、俺が褒められたような気持ちになるぜ」
「……君は、誰?」
ローゼの問いにはっ、とした銀髪ショタ(仮)は、「すまないすまない」と仕切り直しながら片手を自分の胸元に、片手を腰に置きながら高らかに告げる。
「自己紹介が遅れたな。俺の名はイルム。そこのケイトの兄だ。背丈の件については……ま、色々と事情があるんだ、聞かんでくれると助かる。メイン武器は弓、メイン魔法は風。ギルド【エレメンツ】教育係。……まぁ、直接指導なんざしたことねぇが。そしてエレメンツの幹部の例に漏れず……」
イルムと名乗った少年は右腰に取り付けられた翠のメダルケースを見せながら告げる。
「賢者の使徒だ。よろしく、大地の使徒さん?」
「うん、よろしくぅ」
ローゼは差し出された手を迷わず取る。
「いいのかい? トップに宣戦布告した状態で幹部にそう易々と無防備に腕渡しちゃって」
「いいよぉ? 君はそこまで礼儀知らずには見えないしぃ」
「ははっ、済まない。むしろ取らなかったら風で切り刻んでやろうと思ってた」
「礼儀、って、大切だよねぇ~」
あはははは、とローゼとイルムの二人は笑っているが、目は二人とも笑っていなかった。そこにローゼよりかは小さく、イルムよりは大きい、中肉中背と呼ばれる人間が中1あたりから鍛えたらこうなるんだろうな、というような姿の少年が二人のあいだに割り込んだ。
「トール、どうした?」
「僕がまだ自己紹介が済んでない。談笑されて仲間はずれは困るよ」
トールと呼ばれた少年はローゼの方へと向き直り、頭を軽く下げてから話し始める。
「お久しぶりです、ローゼスさん」
「君は……カラードだっけ」
「はい。ランク5です」
ローゼは何故かトールと会話している時、とてつもない気持ち悪さを感じた。まるで、話してはいけないものと話しているような、そんな感じの。
「大会の時は……無口だったよねぇ? キミ」
「人見知りですから」
目を合わせて喋らない。それは普通マイナス点になるべき部分だ。しかし、今のローゼはそれが今とてつもないプラスに感じる。目を合わせたらなにかとんでもない事態を引き起こしそうで。
「まぁ、トールは一年間かけてようやく目を見れるレベルだからなぁ」
「イルム、うるさい」
トールがイルムを睨みつけると、イルムはわざとらしく肩を竦めると、思い出したかのように革袋をテーブルの上に置いた。
「おーこわ。迅雷の使徒の雷が落ちちまう。あぁそうだ、ローゼスさんよ、これ、うちの弟預かっといてくれた報酬だ。暫くのあいだ戦力ダウンになるかもしれんがこれでしばらくのあいだレンタルっつぅことで。こっちも一つでも戦力を足したい時なんだ、超大型レイドボスが出てくるっつう通告があってさ。ギルドに入ってるやつしかできねぇんだけど。ま、うちの弟いたらレベリングきついだろ。34もあったらマイナス補正効くし。レイドボスが終わったら返すからさ。すまんね」
「兄さん!? ……すみません、ローゼさん。そういうわけなので僕とミラーさんはしばらく別行動させてもらいます」
「ま、そっちの都合もあるしねぇ。仕方ないさぁ」
「本当にすみません! レイドボスの素材余ればいくつか都合してもらうので……」
「いいよいいよ。気にせず行ってきな~」
「ありがとうございますっ! では、少ないですけど僕からもお礼を……」
ケイトはウィンドウを操作して古ぼけた鞭を取り出しテーブルに置いた。
「これは?」
「β時代にソロで踏破したダンジョンの宝箱にあった物です。あんまり僕の趣味に合わなくて。ローゼさんなら使いこなせますよ」
「……カウボーイコスでもかなりアレなのに鞭までつけたらどっかの考古学者みたいになると思うんだけどぉ」
「大丈夫です、そこまで渋くありませんよ」
「……そこはかとなく悪意を感じるよ。本当今日」
ローゼはそうごちりながらもRPを消費して鞭スキルを習得する。そして古ぼけた鞭を腰の横のベルトを通すやつに通して持ち歩けるようにする。
「ま、ありがたく使わせてもらうよぉ」
「では、失礼します」
ケイトはそそくさと立ち去っていく。ローゼはしばらくそれを見送ったあと、席に着いた。
「お食事はどうします?」
「セリオたちが起きてくるまで待ってるよ」
スァッカの言葉にそう返しながらテーブルに肘をついてローゼは考え事を始める。時間潰しの、たわいのない事を。




