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第19話 言われなくてもわかっているわ

 実は前回のローゼの行動は判断ミスです。ケイトを選択していたら大した苦戦もなく勝っていました。奥義とかあるし。まあ知らないから仕方ないんですけどね。

 ~ナラツ湿地帯~


「……この、大馬鹿」


 割れた泥の殻から出てきたセリオは触手の壁に囚われたローゼを見ながら呟く。


「自分の身、犠牲にして他人を守っても、守られた方は嬉しくもなんともないのよ。ただ、辛いだけだわ……」


 セリオは向き直り、俯きながら剣を構え、身を屈める。まるでバネのように。力を貯めるため。


「だから、帰った後で思いっきり馬鹿にして鬱憤晴らすために、目の前のモンスターは絶対に倒す。負けたりしないわよ」


 そのままモンスターをギンッ! と睨みつけると足のバネの力を解放してモンスターへと吶喊する。

 しかしモンスターもそのままの勢いでこさせるほど馬鹿ではなく、地面から生やした触手を使って進路を塞ぐ。セリオはそれを上へと飛び跳ね勢いを殺さぬまま躱す。

 触手は上へと逃げたセリオを貫くように追撃するが、セリオはそれを剣で弾くようにして勢いを増しながら凌ぐ。

 そしてそのままモンスターの花を縦に両断した。

 モンスターは体を高速で振動させることにより甲高い悲鳴のような音を上げる。


「――――――!」

「声帯もないくせに無茶しても何も聞こえないわね。知っているかしら、『弱い犬ほどよく吠える』という格言を。まあ、あんたは犬じゃなくて草だけど」


 セリオはその悲鳴を意にも返さず着地し、間髪入れずにモンスターへと突撃する。

 今さっき花を両断できたのは花が柔らかかったからだ。一応店で一通り装備を揃えたとは言え、まだ火力不足は否めない。実際、先程ローゼに助けられなかったら脱出できていなかった程だ。なぜ自分を助けた、とセリオはローゼを責めたい気持ちでいっぱいになったが、あれにはあれの考えがあった、と無理やり納得する。後で酒でも飲みながら責めればいい。『何でもっと一緒に戦ってくれなかったのか』と。倒した後で。デスペナルティで全員帰還は、ローゼの信頼に背くことになる。

 それだけは嫌だ、とセリオは思う。あれが自分みたいなのに笑って付き合ってくれているのは信頼されているから、それだけだとセリオは考える。恋愛感情は持っていないのは見ていて気付く。無論こちらも親愛の情を持っていても恋愛感情はない。

 あの花の名前の二人組のように盲目的なまでにローゼの事を信じていない。慕っていない。別に強いものに惚れる戦闘民族的な思考回路も、助けに来てくれたから王子様なんて少女漫画の読みすぎた感じの思考回路も持ってはいない。あれだって人間な訳だし、間違えることもあるだろう。実際、常識人のようで常識外れな行動を平然と取る。大学の実験程度で人体実験しようとして全力で止めたことは記憶に新しい。どうにかして方向逸らした結果ある意味解剖よりも酷いことになったが、まあ、PTSDレベルにまで入っていないわけだし、よしとする。

 自分の役目は、あれが間違えた時にそれが原因で破滅しないように支えてやることだ、とセリオは思っている。それが、一度外の世界は窮屈だ、退屈だと自らさらに狭い世界に引き篭っていた自分に外の世界の広大さ、不可思議さを教えてくれたローゼへの恩返しだ。あれの機構を眺めるのも退屈しないし。


 右から触手、上へと弾き、上からの触手の迎撃にする。

 左からの触手、後ろへ流し勢いの元にする。

 下からの奇襲、踏みつけて高く飛び上がるための糧とする。

 近づいたので上段から降り下ろす。落下エネルギーを使い、思い切り叩き切ろうとするが、半端に刺さったところでその動きは止まった。


 まずい、そう思ったところで横殴りの衝撃がセリオを襲う。地面を削り、HPバーも削れていく。なんとか壁に囚われる前に手を鉤爪のようにして地面に押さえつけて止まる。泥だったのが幸いして引っ掛けやすかった。頭を振るい、大きな泥を落とし、手櫛で小さな泥も落とす。後は帰ってからでも遅くはない。

 セリオは立ち上がりモンスターを見据える。刺さっていた剣を触手で引き抜き、無造作に放り捨てているところだった。だが、拾いにはいけない。触手の壁近く、拾いに行けばすぐさまその隙を突かれて全滅コースだ。だが、このままでは倒せるわけもないので同じことだ。詰み、だ。


 しかし、セリオは諦めなかった。インベントリから始まりの剣を取り出す。いざという時のために持っていた物だ。そしてスキルウィンドウを立ち上げ徒手空拳スキルを叩くように選択。その姿はまさしく窮鼠。手負いの獣。せめて一太刀。クリティカルはきっと狙えない。そもそも脳で思考しているわけでもないし、心臓も存在しない。コアはあるだろうがどこにあるのかまるでわからない。タコのようならタコの急所を狙えばよかった。だが目の前のモンスターは茎を太くしたそこらへんの花が大きくなったようにしか見えない。同あたりを付けるものかまったくもって思いつかない。

 良くて相打ち、悪けりゃ玉砕。勢いのまま突っ込んで、深々と突き刺す。切り裂けないなら、貫いてみせる。勢いが足りなければ剣を釘に見立てて叩いて深く突き刺せばいい。狙いは茎の中心部。花が違ったからヤマカンを貼るしかない。そう思い構えた時だった。


「―――少女よ、力が欲しいか」

「うっさいわね、今取り込み中よ爺。まぁ、力は欲しいけれど」


 頭の中に威厳のある老人の声が響いたのは。セリオの返答を聞いた老人はそのまま続ける。


「爺とは……まぁいい。我は、七賢者の一人、光のレイシェント。少女、お前は条件を満たした。お前には古の契約に則り魔法の力を与える。そしてその不屈の精神、気に入った。この二つの魔具を使うがいい。魔力を消費し、魔力伝導に優れた物質を生み出す箱……魔力伝導にすぐれた物質で作られた剣……鈍らではないはずだ。試練は目の前の魔物を倒すこと。合言葉は……」

「言われなくてもわかっているわ」


 天から舞い降りてきた白いメダルケースと、白く透き通った剣を掴み取りながらセリオは天からの声、レイシェントの言葉を塞ぐように告げる。

 メダルケースは左足の太腿に紐で括り付ける。穴がある方を上にすることは忘れずに。使い方はなんの変哲もない箱にしか見えないことから叩くか使用する、という意思を持つことが必要なのだろう。特殊な方法が必要ならば知らない。

 そして括りつけて思い出すはさっきローゼ、ケイト、ミラーが魔法を使うために唱えていた言葉。三人それぞれ違う様式の呪文だったが、一つだけ同じ言葉が文頭についていた。その、魔法の起動キーとも呼べる言葉。


魔法詠唱(チャントオブマジック)!」


 何も言われなかった。普通なら基本魔法の一つでも説明するのが筋だ。普通なら。だが、何も言われなかった。何も説明されなかった。普通ならなんて不親切設計だ!と喚いていたかもしれない。だが、もしもそんな不親切な設計だとして、そんなモノを扱えるローゼがありえないほど単純なスキルの仕様に(あまり限定的すぎる補正をかけるタイプのスキルはプログラムの手間で実装されず、補正はステータス専用、攻撃スキルは専用モーション、というふうに作られることのほうが多い。そんな最初期の仕様がリアルスキルの差で大きくなりすぎないように定例化している)文句を言ったりするだろうか? いや、あれならありえるが。だが、セリオの頭にはもっとしっくりする答えがあった。『イメージして、呪文は自由に作れるのではないか』と言うかなり正解に近い答えが。そのままセリオは呪文を紡ぐ。


「『日の光よりも激しく、月の光よりも優しい光。それは照らす魔なる物を焼き尽くす浄化の光。ブラストマジック【シューティング・レイ】!』」


 目の前に魔法陣が展開され、それを剣で突くと細い光が奔り、モンスターを焼き焦がす。

 耐えかねたモンスターは壁を形成するもの以外の触手を総動員してセリオへ攻撃しようとするが、その間にセリオは呪文を紡ぎ上げる。


「ふん、無駄よ、無駄。魔法詠唱(チャントオブマジック)『照らされ、悶えよ魔なる物。フィールドマジック【シャイニング・スフィア】』」


 呪文が紡がれ終わると同時に広がり始めた半円状の光のドームは、我先にとセリオへと向かう触手どもをただの一本も通さなかった。普通に行こうとしても焼き消され、真上から行こうと、地下から行こうと、セリオへと触れることはできずにかき消される。

 セリオは触手の焼ける音など気にせず、剣を構え、腰を低く落とし、懐に潜り込む準備をする。新たな呪文を唱えながら。


魔法詠唱(チャントオブマジック)『眩き閃光はあらゆる物よりも鋭く、魔なる物を切り裂く。エンチャントマジック【サンライト・ブレード】!』」


 唱え終わると剣の刀身は光を帯び、緩やかに動かしても残像と光の帯が引くほどに光り輝く。目の前に刀身を持って行き、それを確認したセリオは一気に光のドームから飛び出してモンスターへと突っ込む。途中残った触手がセリオを襲うが無造作に切り払われるだけに終わる。


「Dust to Dust! Ash to Ash!」


 塵は塵に、灰は灰に。聖書の一説を唱えながらセリオはモンスターの懐に潜り込み、その光り輝く剣を突き刺した。

 魔力の奔流はモンスターの体を確実に破壊していき、モンスターも、地面から生えていた触手も。全て纏めて光の粒子へと変える。


「ふふ、どんな……もんよ……」


 ばたり、とセリオは倒れる。精神的な負担がかかりすぎたのか、倒れ込んで動かない。というか他のメンバーも誰一人として動かない。囚われて暇になって少しの間ログアウトでもしているのだろうか。そこに、三人のプレイヤーが現れた。


「ねぇ、二人共。なんか集団お昼寝会場がありますよ?」


 そのうちの一人、中心で先頭を歩いていた茶髪クセ毛で女性的な顔の人物が広場で倒れている面々を指さして後ろを歩く二人に告げる。


「いやお前、連絡来て救援に来たんだろ? 触手に捕らわれたらしいし、暇だからトイレ休憩中とかじゃないか?」


 そしてその言葉に背中半ばまである黒髪ロン毛の長身の男が突っ込む。


「多分、そう。ケイトから連絡そう来てたし。でも、なんで全員寝てるんだろう。壁がないってことは、モンスターは倒してるはず、だよね?」


 銀髪のショートボブの男は不思議そうな顔で首を傾げる。それにロン毛の男が答えた。


「あの中の誰かが戦闘中に魔法得て使いまくったんじゃないか? MP切れると気絶する仕様だろ?」

「あぁ、面倒ですよね、あの仕様。MPバーを必ず常に表示しなきゃいけない理由ですし」

「強制ログアウトは、結構なロス」


 三人は魔法の仕様について話しながら面々を一箇所に纏め、囲むように位置どった。


「よし、これで準備完了」

「砕星竜イベントも近いのに、こんな事やっててもいいのか……? 補給物資のために薬草やら摘みに行くべきじゃないのかね?」

「そこらのことは補給班に任せていますし、これも善業で、未来投資です。ローゼスさんは、きっとうちのギルドに必要な人材になる……そう言ったのは誰ですか?」

「まあそりゃあ俺だけどさ」

「なら文句言わないことですね。じゃ、行きますよ!」

「了解だ!」

「こっちもオーケーだよ」

「「「魔法詠唱(チャントオブマジック)!」」」


 三人が声を揃えて呪文を唱え始めると、魔法陣が描かれ、光り始めた。


「『雷鳴の如く、閃光の如く』」

「『猛る烈火から逃れるように』」

「『流れるように、身を移せ!』」

「「「『転送魔法【トライテレポ】』」」」


 魔法陣の光は広がり、メンバーを包み、姿を隠す。光が消える頃にはその光の中にいた全員の姿はなくなっていた。

【イベント名】光属性魔法習得

【イベント発生条件】プレイヤーが奥義を使用できること。

上記の条件を満たした上で、光が届く場所で、他のパーティメンバーが全滅の状況下HPが5分の1を切るとイベント発生。

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