第9話 だろうな。そう思った
~ズッケロ地底湖~
「ぶぁひゃっひゃっひゃ!おっもしれー!やっぱおめぇおっもしれぇーわぁー!」
「(いらっ)……あぁ~、そーですかぁ~」
唾を撒き散らしながら笑い、肩をバンバンと叩くガイアルクにローゼは顔を顰める。唾顔にかかってきてるし。
「そんなお前にプレゼントしたいんだけど構わねぇよな!な!?」
「……まぁ、もらえるもんなら病気と借金とかの厄介事以外なら貰いますけどぉ。なんですかぁ?一体ぃ」
「絶対役に立つから!いやぁあいつらみたいにこれ託せる相手みつかるたあ俺も中々捨てたもんじゃねぇっていうか!?」
「……うっぜぇこのテンション」
まだまだ唾を飛ばしまくるガイアルクにローゼは辟易とするが、ガイアルクはそれに気づかず虚空に開いた空間へと手を突っ込み、細い穴が開いた金色の箱と、金色の銃を取り出し、ローゼへと手渡す。
「……これは?」
「叩いてみろよ」
箱を持ち上げ、用途を問うローゼに、ガイアルクは側面を叩くよう促す。そして促されるまま側面を叩くと開いた穴から金色のメダルが飛び出す。
「……ビックリドッキリメカ?」
ローゼはメダルを拾い上げながら問う。
「別にメカの素ってわけじゃァねェよ。これを使えばゴーレムの維持がグッ、と楽になるのも確かだが。地属性の魔力伝導がとっても高い金属でできたメダルを持ち主のMPを消費して生み出す魔法物品でな。それぞれの属性の賢者に気に入られなければもらえないっていう品でな?しかも先着一名様のこのユニークアイテムという名のレアアイテムがはびこる武器の中でマジもんのユニークアイテム。ま、一種類しか絶対にもらえないがね」
「どうしてぇ?」
「協定で決められてるのさ。それを貰えば必ず通知される。賢者は全部で7人。火、水、地、風、雷、光、闇。氷や木はこの内に含まれる。んでだ。そのメダル使ってさっきの爆発魔法使ってみな?思いっきり遠くまで投げ飛ばしながら」
「……まぁ、いいけどさぁ。魔法詠唱!『破裂せよ、鉛よ。敵の体を吹きとばせ。地属性魔法【メタリック・エクスプロージョン】』」」
ローゼは詠唱し終わると魔法のかかったメダルを投げ飛ばす。当然のように遅延魔法を付けながら。今回の条件は手から離れて5秒後。時限爆弾の短いバージョンだと思ってもらえればいい。だが、予想と反し、5秒では少々短かった。
「うおっ!?」
「おぉう、やっぱ才能あるねぇ、おめぇ」
先程始まりの弾丸を使った【メタリック・エクスプロージョン】とは比べ物にならないほどの威力の爆発が巻き起こり、先程よりも離れているのにも関わらず足を前後に開き腕を交差させて顔の前に持ってくることにより重心のバランスをとり地面に惨めに倒れこむ自体を回避する。これはAMで至近距離でミサイルやグレネードの爆発からメインカメラを守りながら姿勢を維持するためのテクニックの応用だ。今は腕を使うと足でしか支えられないため前後に開いて踏ん張ったが、AMではスラスターを上手に使って連撃から回避することも重要テクニックとなる。いくら地上で戦う方が楽だからといって陸戦型にしてしまうと空から狙撃されてなすすべもなく終わるなんてザラだった。その後対戦相手からの『せめて対空装備整えてから陸戦型にしよう。んで躱せないならタンクにしろ』もしくは『ミサ積もうぜミサ』とか『リフター付けようぜリフター』等のお叱りチャットが来るまでが初心者陸戦機使いのテンプレートである。後は宇宙ステージと知らずに出撃、『空に上がった飛蝗が!』と言われながらいたぶられ最終的にはスペースデブリにぶつかって敗北などが挙げられる。
「魔力伝導が良い触媒を使えば威力も高くなるということぉ?」
「そういうことで。あんだけの威力があの短い詠唱で出るのは才能だがね」
そう言ってケタケタ笑うガイアルクにローゼは少しの不快感を覚える。……これが妙齢の女の人だったらなぁ……とか失礼なことを思いながら。無論、顔には出さないが。
「この銃はぁ?っていうかオートマはジャムるから嫌いなんだけどぉ」
「おぉう、日本人のプレイヤーだよな?おめぇ、なんで現実で使ったことあんだよ。ハワイとか?」
「言語は同じだねぇ。イギリスの大学にいたんだよぉ。去年まで」
ローゼは問いに答えながらジェスチャーでさっさと答えろと催促しながら銃を観察する。鑑定スキルはレベル不足で通じない。金色なだけで他に変な所は一切ない普通のオートマチックの銃だ。特殊機構があるのかもしれないが。
「それか?魔力を媒体にして銃弾を生成、発射できるローコストの銃だ。無論、銃弾は地属性判定。試練クリア者にはその属性のそいつのメイン武具技能……一番レベルの高い武具技能の事な。それにあった武器が送られることになってる。サービス開始から初めて貰ったのは間違いなくおめぇだ。なぜならほかの人間は間違いなくβテストの時から持ってるか、まだ条件を満たしてないからな。ってかむしろなんでお前が条件満たせてるかのほうが意味不明だがまあリアルスキルが高いんだろう、お前は」
「まあ、戦い慣れてるしぃ」
ゲームで。しかもロボット操縦して。そこら辺のことはガイアルクも知っているだろうと思いわざとローゼは言わなかった。じゃないと『慣れてると思って』とか言うはずがない。
「だろうな。そう思った。しかし、現象のイメージ力が高いのか?この威力。イメージが少し違っても威力は下がる。なのに高い威力。つまり、“どう金属が爆発するか”“どう爆発が広がるか”理解している、ということにほかならない。……まぁ、性根は善人みたいだから心配はせんがな」
その言葉を聞いてローゼは自分の手を見やる。失われた時間の中、自分が何をしていたのか。それがわからない。だから辛い。もしかしたら防衛軍のような組織に入って誰かを守るために戦っていたのかもしれないし、俗にいう悪の組織で何も知らず、何も分からず、悪事に手を染めていたのかもしれない。性根が善と言われはするが、それはきっと、無になっていた時に善人に拾われたからだと、ローゼは考える。朽ちた扉、狐の面。何もかも意味不明で、何もかも霧に包まれている。わからないことは恐怖。好奇心とは要するに、その恐怖を取り除くためのものに過ぎない。好奇心旺盛なことは、怖いもの知らずじゃない。怖いからこそ、知ろうとする。自分の記憶に対してもそうだろう。
「……ふあぁ」
無意識の内に、欠伸が出た。いくら明日も予定がないからといってそろそろ寝なければ体に悪いだろう。
「ガイアルク」
「はいよ。お勧めの宿屋まで連れてってやるぜ」
―――――
~宿屋【Stand by ME】~
「夜分遅くにすいませぇん。泊まるのにはいくらかかりますぅ?」
「あぁ。一泊10ハヴェンだよ。掃除までしてこの値段はお得だよ」
ガイアルクとは店の前で別れ、ローゼはふくよかなおばさんのNPCに泊まれるかを聞く。幸い、部屋はそれなりに空いていたようで、隠れ家的な宿屋であることがわかった。サービスも結構いいし。でもいくらかいる最高級宿屋では室内風呂までついているという話を聞き、いつか泊まってみようとグランドクエストのないこのゲーム内で軽く目的を設定する。目的のないゲームほど飽きやすいものはないし。食堂で暴れている酔っぱらいを横目で見ながら泊まる部屋へとおばさんNPCの案内についていく。あぁ、酔っぱらいがロン毛の剣士に叩き飛ばされた。案内された部屋は個室トイレもあり(必要はないと思うが)中々に清潔な印象を受ける。
ブーツも脱がずにベッドに飛び込む。スプリングのギシ、ギシ、という音もなんというか気持ちいい。シーツも淡く香水が吹き付けられていて、しつこくなく本当にリラックスする手助け程度、という気配りが感じ取れる。うつ伏せから仰向けに体制を変える。木の優しい感覚が少し心地いい。
「照明を消すのはぁ……『ライト・オフ』だったっけ」
ガイアルクに説明された宿屋の常識。常識が故に説明もされない。遅延魔法を付けられた魔法物品が照明に使われていて、それのオンオフは特定の言葉を唱える。それによって行われる。
灯りの消えた部屋でローゼはログアウトする前に今日あったことを思い出す。
灰羅にこのゲームに参加させられ。AM掲示板であの生意気ランク9がこっちで活動することを知り。このアバターキャラクター、ローゼを作り、チンピラに絡まれていた少年、ケイトを助け、ケイトがはぶられたのに同情し仲間に入れ、灰羅のアバター、セリオと合流し、森に入ってゴブリンの群れを駆除し、素材をケイトの知り合いであり、自分のアーキテクチャ仲間でもあるミラーに売って、お金とカウボーイ装備一式をもらい、仕事道具を盗ったひったくりから取り返したついでにハーフドワーフの頭一回りでかい系女子プーランの素材集めを手伝い、その素材集めの途中リザードマンに遭遇、その群れを一網打尽にするため地盤落下を引き起こして巻き込み、その落ちた先の地底湖で変なおっさん、ガイアルクと出会い、魔法を教えてもらい、気に入られ、アイテムを貰い宿屋を紹介してもらう。
自分で言うのもなんだが色々と濃い一日だったな、とローゼはバックルに取り付けたメダルケースに手を当てながら思う。
さてそろそろ寝よう。そう思い目を瞑りながらログアウトし、現実世界に戻った葉楽はパラムスを取り外し、布団を被りながら眠りに落ちたのだった。
【イベント名】地属性魔法習得
【イベント発生条件】プレイヤーのレベルが10を超え、奥義を使用できること。
上記の条件を満たした上で、自然の地形を変える何らかの手段を講じること。(例:地面を砕く、地面を溶かす、etc,etc)
そして上記の二つの条件を満たした上で、HPが最大値の3分の1以下まで減っている時イベント発生。




