第8話 渦巻け泥よ
登場人物が割と長いこと説明していますが、魔法のダメージ判定は【テンション×どれだけ長いこと言えたか】で行われていて妄想力高いほうが魔法使いこなせると思ってもらえてたらいいです。どうやってテンションを測っているかって?ほら、エンドルフィンとかアドレナリンとかそこらへんをパラムスがスキャンしているんです。つまりパラムスすげぇという認識でOKです。
~ズッケロ地底湖~
「んじゃ、魔法の使い方を説明するぜ。使い方は簡単。魔法詠唱って唱えたら入力待機状態になるから適当に詠唱して魔法名を言う。それだけだ。詠唱が長ければ長いほど威力、効果は上がる。だが、素早く詠唱しようとするとどうしても多少威力は低くなるな」
「質問。威力判定には【入力待機時間】と【詠唱の文章量】どっちが使用されるのぉ?」
「お、いい質問だ」
ローゼの問いにガイアルクが答える。
「威力判定には詠唱の文章量、頭に流れるアドレナリンが影響する。長いからっつって寿限無唱えてもノらねぇだろ? しかし『体は剣で出来ている』やら『そのアルカナは示した……』とかならそれよりも短くてもノルだろ? まあ人によるけどよ。パラムスを通してそこらへんの判定も行なってる……らしい。おいおい、そんなジト目で見るんじゃない。こえーから。さて、じゃ、講習はここまでにして、実践練習だ。ほれ、手ェ出せ」
「え? あぁ、はい」
ローゼが右手を差し出すと、そこに金色の光が流れ込んできた。締め付けられるような感覚が右手から胴体へ、胴体から頭、左手、腰へ。最終的には全身が締め付けられるような感覚がローゼを襲う。
「くっ、うぅぅ!」
「呻くな、力に逆らうな! 流れを意識して、受け入れろ!」
「んなっ、ことっ、いわっ、れてっ、もっ」
ローゼは力に逆らっているわけではない。全体的に押しつぶそうとしてきているものを、どう受け流せばいいのか。少し考えたローゼはとりあえず全力で回り始めた。
「でぇぇぇい!」
「えっ、ちょ、おま、何やってんの!?」
「締めつけには回転と相場が決まってる!」
「お前はどこの光の巨人だ!? と、止まれ止まれ! 謝るから! 適当言ったの謝るから! だからほら、止まろう!?」
「全っ、力っ、全っ、開!」
しばらくの間回っていると全身から光が溢れ始め、力が漲りはじめる。それと同時に締め付ける感覚がなくなったので腕を広げてバランスをとりながら止まる。
「これが……地属性魔法の力……!?」
「いや違うと思う。どっちかってーとM78系統の力?」
「なんでさぁ」
「詠唱一切してねぇだろうが」
成程、と手を叩くローゼを見ながらガイアルクは思った。こいつ、大丈夫か? と。ていうか魔法いるのか? とも。
まぁ、たどり着けるやつの方が少ないのだし、ちゃんと欲しいと言ってくれるのだからへそ曲げさせるのも完璧に同僚にキレられるし。水と光と闇の同時攻撃はマジで怖い。あいつら火と雷と風の心の広さ見習えってンだ。
そんなことを思いつつ、ガイアルクは杖を虚空から手に取る。
「……それも、魔法?」
「いつ俺が詠唱したよ。只の固有スキルだ。ウィンドウ開かなくても自由にインベントリのものを取り出せる。NPCで賢者だから出来ることだな」
「……賢者ってか愚者でしょうに」
「聞こえてんぞー。ま、同僚にもよく言われるし、否定せんがね。『一人だけ、大馬鹿野郎』とか『もうちょっと人の気持ちも考えなさい』とか『死ね』とか言われて極大威力魔法のオンパレードだぞ?もうちょっと人の体をいたわって欲しいもんだがね。まあ訓練の準備するぞ。魔法詠唱、『開かれよ、試練の地。鍛え上げるは冒険者の叡智と肉体。賢者魔法【プラクティス・フィールド】!』」
ガイアルクが呪文を唱え終わると、半径500mくらいの魔法陣が広がり、コロシアムのように地面が隆起する。それをきちんと見届けたガイアルクは、主賓席のように型どられた地面の元へと跳び、厳かな雰囲気を出しながら座る。
「んじゃ、実践練習、もとい、試練を始める。魔法を使うために必要なものはフィーリングだ!試せ、閃け、実際にやってみろ!そして自らの知識にしてこそ、魔法の力はお前に微笑む!」
「良いも悪いもそいつ次第……ねぇ。ふふっ、おっもしろいなぁ……!やっってやろうじゃねぇかっ!」
ガイアルクが杖を叩くと同時に四体のゴーレムが生み出される。これらを魔法を使って倒せ、ということなのだろう。
「上等!魔法詠唱!『渦巻け泥よ、生まれよ楔、敵の肉体を喰い散らかせ!地属性魔法【クレイパイルショット】!』」
ゴーレムを視認したローゼは詠唱し、足を踏みつける。俗にいう震脚だ。そうすると同時に魔法陣が展開、MPが消費され、大量の泥が固まってできた杭が生まれ、ゴーレム一体の関節をすべて撃ち抜き、行動不能にする。戦闘など以ての外だ。
「よっし!」
「誰がゴーレムが攻撃しないっつった!」
「うぇ!?うおぉっ」
ガイアルクの声に反応し、慌てて振り返るとゴーレムが拳を振りかぶっているところだった。それを見たローゼは慌てて横っ飛びで拳を躱す。
しかし、その躱した先にゴーレムが全体重をかけたタックルを仕掛けようとしていた。
「受け止めれるような質量でもないよな……!」
ローゼは一瞬だけ考えたあと詠唱を始める。
「魔法詠唱!『渦巻け泥よ。固まりて壁となれ、我の元へ飛ぶ矢を止めろ!【クレイウォール】!』」
「受け止められんといったのはお前のはずだがな、ローゼ」
「黙って見てろ!」
魔法陣が組まれ、泥の壁が迫り出してくると同時に、ゴーレムは駆け出す。ローゼのもとへあわや激突、というところでゴーレムの巨体が宙へ舞った。せり出していた泥の壁がゴーレムのタックルの力の向きを宙へと逸らしたのだ。
「受け止めらんないなら受け流す。物理モーメントは専門じゃないんだがな……!頼むぜプーランの銃!今回酷使しまくってるけど消滅すんなよ!?奥義発動!『極点集中三重射撃』!補正を使って威力が増すことを願って!」
右手でグリップを持ち、左手をハンマーに添える。そして通常の極点集中三重射撃の動作をし、一つの銃声が鳴り響く。
ゴーレムの体に一発目が少し刺さり、二発目でそれを少し押し込み、三発目で完全に埋まるほど押し込む。
通常の極点集中三重射撃ならばこれで終わりだが、スキルのためのMP、SPを消費した奥義を発動しているため、まだ終わらない。
「3×3は9!小学生でも簡単にやってのける掛け算だっ!」
奥義スキルとしての『極点集中三重射撃』の効果は、『一定時間同時に発射される弾丸を一発から三発にする』という簡単な効果だ。一定時間というのも三秒と短い。だが、自力で極点集中三重射撃をした場合かかる時間は一瞬だ。あえて秒数にするなら0.05秒といったところか。つまり、3秒あれば少し狙いを定める余裕すら出てくる。
四発目でさらに奥へと突き刺さり、五~七発目でコアの元まで抉り込む。八発目でコアにヒビを入れ、九発目でコアを砕ききった。
「意外と始まりの弾丸でも貫けるんだねぇ~。さぁて、あと2体か!魔法詠唱!『渦巻け泥よ、象れ槍を、その身をもって敵を貫け!地属性魔法【クレイスピアー】!』」
ローゼは投じられる槍をイメージしながら詠唱するがMPが無駄に消費されるだけで魔法陣一つ生み出されない。
「なにぃっ!?」
「イメージ不足だ!頭の中でどういう魔法か固まっていない!あと投擲槍はスピアーじゃない!ジャベリン!」
「名前とイメージがあっていなかったら失敗するって事!?」
いきなり告げられる衝撃の事実にローゼが驚愕している間にゴーレムはローゼのすぐ近くまで駆け寄ってきていた。
「しまっ」
ローゼが自分のミスに動揺した瞬間にゴーレムの足がローゼの周りの地面ごと抉りとりローゼを蹴り飛ばす。
「くぅっ、魔法詠唱……!『渦巻け泥よ、我が肉体を受け止めよ、地属性魔法【マッディ・グラウンド】』」
ローゼは着地点を泥にすることにより落下ダメージを和らげるが、HPは五割を切った。一撃でこれだ。二擊目は食らえない。だから、ローゼは思考する。逆転の術を。
「(落下ダメージを抑えてもこの威力……!泥の壁を作っても砕かれるのがオチ。土塊の壁は強度に疑問が残るし、岩で作れるほどスキルレベルはあるのか?ならやはり泥でどうにかするしかない。っていうか泥って。ジョジョのオアシスかよ……ん?オアシス?)……見つけたっ!魔法詠唱!……」
「(……なにか思いついたのか?)」
ローゼが詠唱を始めたのを見て、ガイアルクは自分ではの対処方法を考える。
「(俺がするなら二体残ってるんだしどうにかして同士討ちを狙うな。だが幻覚魔法は光と風と火の特権だ。俺じゃ使えない。でもゴーレムは単純な思考回路しか持たんから反応さえさせればいいのか……?)」
「『渦巻け泥よ、我が肉体を受け入れよ!地属性魔法【ダイヴ・イントゥ・マッド】!』」
「(……一度身を隠した?だが空気はない。直ぐに浮かび上がるのがオチだ)」
ガイアルクが考えている間にローゼは唱え終わり、地面の中へと潜り込む。そして5秒ほどすると泥にまみれたシルエットが浮かび上がるが、ゴーレムに挟み撃ちされ、ゴーレムは片方を盛大に破壊しながらシルエットをはじき飛ばした。
「(……期待はずれだな……?いや、違う!ローゼのHPはまだ、残っている!?幻覚は使えないはず。ならば同士打ちをどうやって……?)」
ガイアルクは飛んでいったシルエットの方向を確認する。するとそこには、泥で作られた人形の胴体が力なく横たわっているだけだった。
「(成程、泥人形か!それをダミーにして……!浮かび上がらせる魔法を唱え、潜ってから発動するようにセット、そして浮かび上がった泥人形にゴーレムはまんまと引っかかって同士討ち!遅延魔法、教えていなかった技法をこの戦いの中で思いつき、試し、成功させたのか!?はっ、コイツも水と火と風と雷の自慢してた奴ら並みにおもしれぇじゃねぇかっ!馬鹿にしてっから光と闇のジジババはこういうのを見つけられねぇんだよ!闇のババァは水の自慢の奴に雷取るついでに取られたらしいしな!あいつも俺のやつのついでに水とってくんねぇかな、湖近くにあるし。そうしたら水の野郎をついでと馬鹿に出来るんだがなぁ!)」
納得するガイアルクのテンションと共にローゼは地面の中から上昇してくる。その手には掴みきれない程の弾丸を握って。
「おぉ~、成功したみたいだねぇ~。じゃ、最後の仕上げ。知ってるかい?金属は基本地面に混じってるんだ。つまり、地属性魔法の触媒にできる。魔法詠唱!『破裂せよ、鉛よ!敵の体を吹きとばせ!地属性魔法【メタリック・エクスプロージョン】!』」
詠唱が終わると同時にローゼは弾丸を投げつける。遅延魔法は発動するタイミングに条件づけすることによりタイミングを遅らせる。先ほどの泥人形を生み出した【ダミー・クレイドール】の条件は『ローゼが息を止めた7秒後』。今回の【メタリック・エクスプロージョン】の条件は『弾丸に衝撃が加わった時』。つまり、ゴーレムにぶつかった瞬間に発動することとなる。
発動した魔法は始まりの弾丸を膨張させ、破裂し、衝撃と爆煙を周りに撒き散らし、撒き散らされた衝撃はゴーレムの体を抉っていき、爆煙はゴーレムとローゼを包み込む。
そして広がった爆煙が晴れたそこには、ローゼが背後に【LEVEL UP!10→12】というウィンドウを広げながら不敵な笑みを湛えながら立っていたのだった。




