第8話 ついつい、やってしまう
王妃様も大変美しい方だったが、義理の姉にあたる修道院長様も、お年は召していらしたが、大変きれいな方だった。
しかし、さすが王族、放つ圧がハンパない。
「でも、あなたみたいな人は、庭仕事にはもったいないわ」
「庭仕事が私にはもったないのではなくて?」
なんかおかしな言葉になってしまったが、翌日には、修道院から派遣された屈強な庭師尼僧軍団が、私の庭を完璧に整備して帰って行った。雑草一本残っていない庭を私は呆然と眺めた。もちろん、幾何学模様に花は植えられている。
「思ってたのと、なんか違う」
しかし、それだけではなかった。私は庭師軍団に、修道院まで連行された。
「あなたは帳簿関係をやるのよ」
え……
私は修道院長の書斎に案内されて、うずたかく積み上げられた書類の前に座らされた。おかしいな?
それに、この書類、修道院にしては多すぎる気がするけど。商売をしている訳でもないのに。
「あの、これは?」
「こちらは支払いで、こちらが寄付関係と付属農園の売り上げ」
修道院長様はちょっと困ったように微笑んだ。
「本当は、私も一部やらなくちゃいけないんだけど。寄付のお礼状とか。でも、あの、カレンが倒れてしまって」
「え? カレン様が?」
カレン様は、修道院長様が生まれた時から付いていた大侍女である。修道院にもついて行ったのね。
「そうなの。秘書仕事は、カレンには向いていなかったかもしれないの」
カレン様は、宮廷の礼儀作法には大変細かい方である。そういった本も書いていらっしゃる。大変に有能な方だが、ちょっとジャンル違いな気がする。
「確かにカレンは事務仕事専門じゃないわ。でもね、アーリントン公爵夫人にお返事を書くとなると、私でもちょっと困るのよね」
アーリントン公爵夫人は、気難しいことで有名だ。なるほど。王宮で暮らしたことがある者でなければ書けない。細かな忌文字とか、ダメな言い回しとかいろいろあるもんね。
「え? でも、これは二ヵ月前の日付けでは?」
私はアーリントン夫人の寄付のお知らせと近況を伝える手紙の日付に、目が点になった。
「早くお返事を書かないと」
絶対、アーリントン夫人が激怒する……
「そういう訳なのよ。あなたに、庭いじりはもったいないわ。ねえ、さっそくお願いするわ」
「わかりました!」
いやー、これ、絶対ダメなやつ。ヤバすぎでしょう。
私はペンを握った。先にまず読まなくちゃ。なになに? アーリントン夫人は最近夫を亡くして、気が滅入っているので、何か気晴らしがしたいと。ついては修道院見学を……
「お断りしましょう」
私は修道院長様に向かって叫んだ。
何が最近夫君を亡くして、だ。昨日のことみたいに言ってるが、アーリントン公爵が亡くなったのは十年以上前だ。息子と仲が悪いことも知っている。この修道院にやってくる気満々なんだ。何だったら、住み着く気だな。よさそうなところを見繕っていると噂になっていたもの。あんなややこしい性格の夫人に住み着かれたら、この修道院の平和は一瞬で吹き飛んでしまう。
「へスター、私、あなたのその判断力、大好きよ」
修道院長様はやさしく言った。
「どうして自分の時だけ、それが言えないのかしら」
私は、その時は修道院長様のそのお言葉を聞き逃してしまった。目の前の仕事でいっぱいになってしまったのだ。
「修道院長様、お任せください! まず、急ぎのものから片づけます!」
「ほほほ」
院長様は、声を立てて笑った。
「任せるわ、へスター。その間に私は、あなたをバカにした、本物の馬鹿どもに思い知らせてやりますからね。それぞれの得意部門で、大活躍しましょう。お互いに頑張りましょうね」
へ?




