第7話 復讐宣言
「なんですって? バカじゃないの?」
修道院長様、お言葉が……
私は修道院内の、院長様専用の客間に招き入れられた。一部始終を聞いた修道院長は激怒した。
「マルガリータにさっそく伝えなきゃ」
修道院長様は立ち上がった。
「早馬を」
マルガリータというのは王妃様のファーストネームだ。修道院長様は、実は王姉殿下なのである。
でも、こんなことで王妃様を煩わせるのはちょっと。大事になりすぎ。
私は、呼び鈴を盛大に鳴らそうとする修道院長様を、大あわてで押しとどめた。
「あの、修道院長様、怒るような話ではなくて」
「これのどこを怒らないで済ませるんですか? 人に全部仕事を押し付けておいて、人格否定。あげく罵るだなんて、なんて出来の悪い……」
ボイル部長のことだな。確かに出来が悪すぎだ。
「その上司も監督不行き届きだわ」
上司と言えばフリードマン長官?
「退職願は人事に出してしまいましたので、長官は知らないかもしれません」
むむん? と言った顔になって、修道院長様は振り返った。
「知っているに決まっているでしょう! どこの人事が部下の退職を上司に伝えないんですか? どうして引き止めなかったのかしら。本当に人を見る目のない!」
あれ? そう言われれば、フリードマン長官は、知ってるはずだった。だが、引き留めも問題の解消に向けても動かなかったな。
「なんという無能!」
よく知らないけど、フリードマン長官、無能だったのか。とても有能そうな雰囲気を醸し出していたのに。
「全員、無能!」
私はしかし、引き留められなかったと言う点に注目してしまった。
気が付いていなかったけれど、本当に、不用品だったんだ、私。
私は肩を落とした。
「私、誰にも必要とされていなかったんですね」
「え? そんなことありませんよ、へスター!」
悔し涙にくれる修道院長様があわて始めた。
「あなたは私たちのかわいいロザリンドの結婚の時、あんなに手を尽くしてくれたではありませんか。あなたほど安心できる侍女はいませんでした」
「でも、女官としては……誰も必要としてなかったんですわ」
今、気が付いた。だって、二か月前に退職願を出したのに、何の音沙汰もなかった。
毎日、ボイル部長の嫌味とマリリン嬢が信じる「ロビア上席無能論」を聞き流すのに忙しくて、仕事も忙しくて、そこまで気が回っていなかった。というか、あえて考えようとしていなかった。
引き留められても困るしね。引き留められても、私みたいな地方の男爵家の出身だなんて、配置転換も待遇改善も望めなかった。これまで同様、こき使われて文句を言われ続けるのが関の山だ。
私は、やさしい修道院長様の前で泣き出してしまった。
ここで泣くのは間違いだ。ここは修道院長様の客間。高貴な方々専用の部屋なのに。
「あなたが有能だったからこそ、仕事はどうにか回っていたのですわ。当たり前ではありませんか。あなたが一生懸命にどうにかこうにか現場を回していたのです」
「それが……かえって良くなかったのかもしれません」
問題が表面化しなかった。マリリンはとにかく、残りの二人には、何も教えないままだった。悪いことをしたかもしれないわ。
修道院長様が困ったように微笑んだ。
「あなたはやさしすぎるわ」
院長様はぎごちなく手を伸ばして私の頭に触れた。
「へスターに祝福を」
修道院長様にこんなことを言ってもらえるだなんて! 私は幸せ者です。不用品だけど。
「そして、無能どもには、無慈悲な鉄槌を。天罰が必ず下ります」
ん?
え? 今、なんて?
誰も手をあんまり下さないのに、なんだか始まる復讐劇。
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修道院長さま、結構好きです




