第6話 行先がない
私は、王宮から、かなり離れた場所に小さな家を借りた。
実家に戻るわけにはいかなかった。
妹の嫁ぎ先は、そこそこ大きな家だ。姉が実家に出戻った噂が届いたら、妹は迷惑するかもしれない。弟だって、私を置いておくところがないだろう。
弟とは、長い間会っていなかった。どんな人物に成長したやら。
「弟だって結婚するだろうし」
私は想像をたくましくしてみた。
別に実家は裕福な家ではない。私にただ飯を食わせたり、服の心配までしなくちゃならないとなったら、さぞ困るだろう。
でも、王宮で働いたことがあるなら、どこへ出しても恥ずかしくない礼儀作法を身に付けていると思われるだろう。立派な侍女になれる。これを使わない手はないではないか。しかもタダ。身内にお金を出す理由がない。それどころか、私のなけなしの年金や、王宮勤めで貯めたお金を、家の為に出すよう求められるかもしれなかった。
可能性あるな。うーむ。世知辛い。
別に弟や妹、それに両親の性格がどうこう言う訳ではないが、独り立ちできるなら、なんかその方がいい気がする。
ゆっくりこの先を考えたらいいと思った。
幸いなことに、王妃様のおかげで、暮らしていくのに不自由がないくらいのお金がある。引越し先の近くには、王妃様がお建てになった修道院と付属の学校のそばで、第一王女殿下と王妃様のお供で何回か来たことがある。修道院長は王族なのだが、そのせいで、よく存じ上げていた。
一人で住むなら、知ったところの方がよい。何か聞かれたら、修道院長と知り合いだと言えば、そう悪いこともするまい。
修道院長は、知らない人物が知り合いだと名乗ったら怒るかもしれないが、私とわかれば何とも思わないだろう。
と思っていたのだが、知り合いを名乗る間もなく、修道院長にばったり出くわしてしまった。
しかも自分が借りた家の前で。
「へスター? へスターじゃないの?」
大きな立派な馬車の、窓から声がかかった。
王家の修道院長は、大権力者である。
移動には大型の馬車を使う。
私も、ああ、修道院の大きな馬車が通るなあと思ってはいた。
しかし、馬車の中身が修道院長だとは思っていなかった。
「院長様……」
馬車が停まり、中から修道院長その人が転がり落ちるように降りてきた。
尼僧姿ではあるが、その大きな青色の目は、よく知った目だった。お年なので、顔にしわが多いが、上品でとても美しい方だ。
「院長様、危ないです」
院長は、五十台を超えている。私はあわてて駆け寄った。
「へスター! こんなところで、あなた何しているの?」
実は庭仕事をしていた。手には泥がついていた。
「えーと、花を植えようかなと」
修道院長様は、眼鏡をはずし、ジロリと私を見た。
「どういうこと?」
そして、そのまま、私は、修道院へ拉致された。




