第15話 言葉の端々から
使用人も入ってこない。完全に二人きり。
「この部屋はあなたの為に用意したのです。あなた好みに変えたいでしょうから、それは執事か侍女長に言ってください」
なぜ、勝手に私の部屋が出来ているのかしら? 修道院長様に、もっとはっきり意見を言いなさいとけしかけられたところなのですが、今、それを実施したらいいのかしら?
フリードマン様は、とろけるような満足そうな笑顔で語った。あんな冷静でむしろ酷薄そうな人がこんな顔をするとは思わなかった。
「隣は寝室です」
私は文字通り震え上がった。いろいろと早すぎる。
私の上司にロクな人はいなかったと言う、修道院長様の意見は、もしかすると真実かも?
急に、ドンドンドンとドアを叩く大きな音がした。
「だんな様ッ 王立修道院長様と王妃様から、書状が参っております」
「なに?」
「是が非でもお読みくださいとの仰せでございます」
「今いいとこなんだ。あとにしてくれ」
「王命です。絶対ダメと厳命されています」
舌打ちして、リアム様はドアを開けた。
いかにも厳格そうな瓶底メガネのマリア尼が踏ん張っていた。
「お読みくださいませ」
反論の余地なしといった調子で、尼僧は言った。その手からは、王家の印形が麗々しく押された、正式な文書が突き出されている。
『一、愛するなら、その者の幸せを一番に考えること
二、行動の制限、拉致、監禁などはもってのほか
三、意見はかならず尊重して耳を傾けること
四、希望はすべて叶えること
五、へスターは、週に一度は修道院へ顔を見せること』
プルプルとリアム様の手が震えた。
「こんな条件、飲めないな」
え? 飲めないの? いい条件じゃない。さすがは修道院長様だわ。
「王妃様も控えておられます」
瓶底メガネのマリア尼は、筋金入りの修道院長様のファンである。
修道院長様と王妃様の命令が、世界で一番正しいと信じている。
リアム様は、ペンを取って、『へスターは、週に一度は修道院へ顔を見せること』の『へスターは、週に一度は』のところに線を引くと、『へスターが望むときに』と書き換えた。
そして私の方へ向き直った。
「へスター嬢」
彼は少しばかり困った顔になっていた。
「調子に乗ってしまった」
「……そうですね」
「修道院長様の五箇条だけど」
それはとても正しい気がする。
「守るから」
私は、驚いてフリードマン様の顔を見た。
「監禁なんてしませんよ。でも、この家に来て欲しかった。それは本当です」
私も、リアムと呼びたかった。目も治してもらったし、大事に思ってくれている気持ちも伝わった。
「フリードマン様」
リアム様はリアムと呼んでもらえなかったことを敏感に察知して、顔が何ともしおれていた。
「私もお約束しますわ」
「何をですか?」
「修道院長様の五箇条ですわ」
ピピッとリアム様の顔が明るくなった。
「あの、監禁するとか、拘束するとかですか?」
そこ? そこは反応しないで欲しい。
第一、大の男を私がどうやって拘束するのよ。
フリードマン様は私より頭二つくらい大きいのに。
「違います。そんなことはしません。でも、あなたの意見を聞いて、あなたの幸せを考えます」
「希望を必ずかなえてくれますか?」
嬉しそうだ。何を期待しているのかしら?
「出来ることと出来ないことがあるので、それは出来る範囲で」
「十分です。私は、パース伯爵領という財力を得た。あなたの為に使いたい」
私は少し困った。私には何があるのだろう。
「へスター様には、修道院長様が付いています」
マリア尼が、割り込んできた。
「憑き物ですね」
フリードマン様はつぶやいたが、マリア尼は言った。
「今の会話を持ち帰って、院長様に提出します。今度は、フリードマン様に、変な趣味がある疑惑です」
事態悪化?




