第14話 拉致監禁
伯爵家につくと、使用人たちが満面の笑顔で、ずらりと並んで出迎えてくれた。
「次期伯爵夫人のお目見えだ」
え? え? どういうこと?
フリードマン様も満面の笑顔だった。
「さあ、案内しましょう。こちらへ」
ドアを開けると、そこは入念に用意されたことがわかる女性用の部屋だった。
ソファーやカーテンは、調和のとれた花と鳥の意匠だった。穏やかで美しい。家具は全部手の込んだ高いものばかりだった。ちょっとした陶器の置物などもある。私の今の家とは大違いだ。
「座ってください」
私はフリードマン様の向かいに座らさせられた。
「教会に知られると、いや、人に知られると具合が悪いことがあって」
ニコニコ笑顔でフリードマン様は私に言った。
「いいですか? へスター嬢、これは秘密にしてください。これから私がすることは、絶対に人には話さないでくださいね」
私はドキドキしてきた。顔が近いわ。何が始まるのかしら?
彼は手を伸ばして、すっと、私からメガネを取り上げた。私はうっかり目をつぶってしまった。
目と目の間に、なにものかが触れた。
「目を開けて」
目を開いて私はものすごく驚いた。
見える。よく見える。近視が治っている。
「見えますか?」
いや、メガネなくても、バッチリ見えるくらいの距離にフリードマン様の顔があった。近いです!
「み、見えますけど」
フリードマン様がニコリと笑った。
まさか、フリードマン様は治癒の力をお持ちだったのか?
そう尋ねるとフリードマン様は首を振った。
「違うよ。効果があるのは愛する人だけなんです。それもこんな軽い異常だけ」
「それでもすごいですわ」
「へスター」
フリードマン様は言った。
「私のことは、リアムと呼んで」
私は赤くなった。
「リ……アム様?」
「そうそう。様はなしにしてね。私が王宮で、最初にあなたを見た頃、あなたはずっとうつむいていた」
「そうでしたか?」
「こんなにかわいいのにどうしてだろうと思って、気になった」
フリードマン様……ではなくてリアム様は、私の顎の下に指をあてて、上を向かせた。
目が合ってしまう。彼は下を向かないでと言った。
「気になって、気になって、あなたを目線で追い回した。でも、あなたはすぐ目を伏せてしまう」
今は下を向けない。顎を指一本で押さえられているからだ。
「目をあげさせたい。見つめて欲しい。なぜ、うつむいているのだろう。ある時、気が付いた。メガネだ」
「それは……」
それはその通りだ。でも、どうして気が付いたのかしら。
「それなら、治せる。だって、その頃にはもうあなたのことが好きだったから。だけど、この異常修正の力がバレると、誰でも治せると思われるだろう。そんなこと、できない。この力はね、心から願わないとダメなんだ」
「心から願う?」
「そう。大事な人になればなるほど、想いは強くなる」
私は心の中から、何か温かいものが湧いてくることを感じた。よくわからないけれど、嬉しかった。
「あなたが生き生きとダンスを踊ったりする姿を思い浮かべた。絶対に治そうと心に誓った」
「リアム様」
なんだか、本当に心が揺れて、私はリアム様の顔を見つめた。この人は本当に私のことを思ってくれているのだわ。
「でも、はっと気が付いた。可愛いメガネなしのあなたを他の男に見せるのはダメだと」
は?
「もう結婚式までは秒読みだ」
そんなことはない。修道院長様のせいで、まだ、了承していない。
了承しても、どう考えても少なくともあと半年、いや、一年くらいかかるのでは? 秒で数えたら凄い数になると思う。
「もう安心だ。うるさい修道院からも連れだしたし、このままここで暮らしてください」
リアム様はいきなり両手で私の顔をはさんで、うっとりした目になった。
「なんてきれいな人なのだろう。これからは、この人をひとり占め出来る。へスター、愛している」




