第13話 驚愕の
しかし、一向にめげないフリードマン様は、最近は毎日欠かさず修道院へ通ってきた。
長官が取れてしまっているのは、彼も仕事を辞めてしまったからだ。
「毎日、ここへ来れるように仕事は辞めました」
手には花束を持ち、スッキリした顔で、フリードマン様は平然と言った。
私は驚愕した。
「そ、そんな。お困りなのでは?」
「元の職場ですか? 誰かがいますよ」
「あの、(それより困らないかって聞いたのは、あなたの生活は?)……」
大きなお世話だが、結婚を申し込まれている身の上だ。大丈夫なのですかと、つい、聞きそうになってしまった。フリードマン様は言った。
「実は、私、この度、子どもがいない大叔父の養子になりまして」
「養子……でございますか?」
私は急展開する話に目を丸くした。
「大叔父はパース伯爵と言います」
なんですって?
「パース家……ですか? あの、パース伯爵でしょうか?」
私はめまいがした。パース伯爵と言えば、大領主ではないか。その跡取りに決まったと言うの?
「はい。そのパース伯爵家なのです。決まったのは最近なのですが、それで……」
フリードマン様は少々心配そうに答えた。
「パース家は、事務も社交も山ほどあります。執事もいるにはいるのですが、今度は執事を看視しなくてはなりません。あなたに会う時間を確保しようと思ったら、王宮の仕事をしている場合ではなかったのです」
え? ちょっと待って。それなら私を使ってくださって構いませんことよ?
私はちょっとうずうずしてきた。その手のお仕事なら任せて欲しいわ。
「仕事がたくさんあるのですよ。助けていただきたいなと」
「お任せください」
うっかり即答してしまった。
「そのほかにも社交があります。まあ、王宮のことを思えば、気楽なものですが」
「ご安心ください。第一王女殿下のご婚姻の際には、何回も王家主催のお茶会や正式の晩餐会を開きました」
まあ、社交と言ってもいろいろな側面があるわけで。必ずしも、豪華なドレスを着て、会話に花を咲かせればいいと言う訳でもないのよ。
仲たがいしている奥様も、浮気をしている旦那様もいるわけで、全部飲み込んで、うまい手配のパーティというのが、家の名声を高めるのよ。
同じ手腕なら、美しい奥様の方が評判はいいでしょうけど、メガネをかけていても気持ちいいパーティの方が人気があるに決まっているわ。
「では、一度、伯爵家の方にお越しいただけませんか? 私の方の事情をお話したいです。ここはどうも監視されているような気がして」
「そうですかしら?」
それより、そのお話、聞きたいわ。
フリードマン様は微笑みながら、私をエスコートした。
「本日のところは、非公式に、大叔父に挨拶ということで、おいでください。ロビア侯爵家の令嬢として」
私は首を傾げた。ロビア侯爵の令嬢ではないのだけれど。
「ロビア侯爵様には王宮入りする時、便宜上仮親になっていただいただけなのですが」
フリードマン様は何もかも飲みこんだような顔をして頷いた。
「大丈夫です。養女として入籍を済ませておきました。」
「はいい?」
「大叔父も、私の家族も大喜びです。第一王女殿下の侍女で、王妃様のお気に入りで、ロビア侯爵家のご令嬢との婚儀がまとまったのですから」
うっかり大事なことを聞き逃していた。
もう、馬車のそばまで来ていた。
私は、馬車の紋章に注目した。これは間違いなくパース家の紋章だ。本当に跡取りになったんだわ。
「あ、そうですわ。忘れていました。出かける前に、修道院長様にご挨拶申し上げなくては」
フリードマン様はいい笑顔で言った。
「ちょっとした外出ですよ。許可なんていらないでしょう。あなたは大人なのですから。手紙を修道女に渡しておきました。問題ありません」
しかし、そのまま、私は帰らぬ人となってしまった。文字通り。




