第10話 修道院長によるド正論
「その人物こそ、不行き届きの戦犯ですわ」
自業自得とはいえ、ボイル部長はなかなかの目にあっている。人生、詰んでない?
ボイル部長以上の刑罰って何なのかしら。
「あら。私たちは何もしていませんわ。そうでしょ? 浮気がバレただけですわ」
今、ちょっと、お知らせしたみたいなこと、言っていたような? しかし、修道院長は早口になって言いだした。
「それより、もっと大事なことがあるんですよ。私は監督責任と言う点を非常に問題視しましたの。だって、あなたは不当な暴言を受けていた。それなのに、配置転換もなかった。退職願を見ても見て見ぬふり、何の助けも入らなかった」
私は思い出した。その通りだ。私を不用品と言いきった人たちには何も期待していなかったが、部長の上司には、ボイル部長を放置していた責任があると思う。
「組織というのは、組織として責任があります。フリードマン長官には相応の責任があります」
重々しく院長様は宣言した。
「それを伝えました」
「え?」
フリードマン長官に?
「フリードマン長官には、関係ないような気もしますが」
修道院長様は大きな青色の目をむいた。
「直属の上司です。万死に値します」
「万死……ですか?」
死ぬの? そこまですごい罪でもないような。いや、不愉快だったけど。
「ええ。もう、許せないでしょう?」
「関係ないような気がします」
「まあ。怒ったり憎んだりするのではなくて?」
「むしろ知らない人ですから」
突然、修道院長が声をあげて高らかに笑い出した。
「知らないうえに、関係ないのね? ホホホ、聞きましたか? フリードマン長官」
聞きましたか? フリードマン長官?……って? 修道院長様は食堂から客間に通じるドアの方を向いていた。
ドアがゆっくりと開いて、ものすごくきまり悪そうな顔をしたフリードマン長官その人が現れた。
私はびっくりして、フリードマン長官を見つめた。彼は少し下を向いたが、すぐに私を見つめ返した。
「私は、フリードマン長官を弾劾しようと思ったのよ」
院長様が憎々し気に言った。
「弾劾ですか?」
私はつぶやいた。
「糾弾しようと思って連絡したら、この人物は躍り上がって喜んだの」
「喜ぶ……」
意味がわからない。
「あなたをずっと探していたそうよ」
私は不安になった。
「何かありましたか? 引継ぎ書の不備ですか?」
一応、引継ぎ書は書いた。読んでもわからないんじゃないかとは思ったけど。
「違います!」
フリードマン長官がさえぎった。
彼の灰色の目がまっすぐ私を見据えた。
「あなたを追いかけてきました」
一瞬の空白があった。
世の中のすべてが、ちょっとだけ消え失せた。フリードマン長官の他、全部が。
フリードマン長官が、一歩、こちらに近づいた。空白は破られた。
「あなたがいなくなって、どんなに探したことか。いきなり、引っ越してしまって。私には何も言うチャンスがなかった。あと一週間、在籍しているはずでした」
そう言われれば。でも、有給休暇がたくさんあるはずだったし、何より、休日出勤の代休を取っていなかった。大体、どうでもいいのでは? 私は不用品でしたし。
「違います。不用品なんかじゃない! 私には絶対に必要でした」
フリードマン長官が、音声大き目で言った。
フリードマン長官って、こんな人だったっけ。何と答えたらいいかわからなかったので、私はおそるおそる言ってみた。
「仕事はきちんとやっていました。あまり、認めていただけなかったようですけど」
フリードマン長官は、はっきり言った。
「認めていました。仕事ぶりが好きでした。すごく気になって。いつでも、声をかけていました」
「声はかけていたそうよ」
院長様はだるそうに腰かけたまま、口をはさんだ。
「でも、それだけだったんじゃない?」




