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『魔王城の地下で税金を計算してた俺、いつの間にか世界経済の黒幕になる』  作者: ニートは34歳まで
第一部 地下の税務官編

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第七話 南部港の夜


 南部港。

 それは魔王領最大の貿易都市だった。

 昼は商人と荷馬車で溢れ返り、夜になっても灯りが消えない。

 港湾税だけで地方国家一つ養えるとも言われている。


「……すごいですね」


 港を見下ろしながら、俺は思わず呟いた。

 巨大な倉庫群。

 何十本も並ぶ埠頭。

 人間、魔族、獣人、蜥蜴族。

 種族すら関係なく人が行き交っている。


「金の匂いがする街だな」


 隣で魔王が言った。

 いや、その感想はどうなんだ。


「で、本当に大丈夫なんですか、その格好」


「問題ない」


 今の魔王は、黒い外套を纏った長身の男にしか見えない。

 角も隠しているし、魔力もかなり抑えている。

 ……かなり威圧感あるけど。


「一応聞きますけど、正体バレたら?」


「全員黙らせる」


「そういうところですよ」


 潜入向いてなさすぎる。


     ◆


 夜。

 港の空気が変わる。

 昼の喧騒が消え、代わりに“裏の仕事”が動き始める。


「来ましたね」


 俺たちは倉庫街の屋根の上にいた。

 下では、数台の荷馬車が静かに動いている。

 護衛付き。

 しかも全員、装備が妙に良い。


「普通の商隊ではないな」


「ええ」


 問題は積荷だ。

 麦袋。

 大量の兵糧。

 そして箱には、魔王軍の紋章。


「完全に軍用物資ですね」


「堂々とやるものだ」


「むしろ堂々としている方が怪しまれませんから」


 前世でもそうだった。

 小さい不正は隠す。

 大きい不正は“業務”に紛れ込ませる。


「追うぞ」


 魔王が音もなく飛び降りる。


「え、ちょっ――」


 俺も慌てて後を追った。


     ◆


 荷馬車は港の最奥部へ向かっていた。

 一般商人が入れない区域。

 警備も厳しい。


「やっぱり南部商業連合の管理区画ですね」


 巨大倉庫の扉が開く。

 中へ荷が運び込まれていく。

 その瞬間。

 俺は違和感に気づいた。


「……あれ?」


「どうした」


「旗です」


 倉庫の奥。

 一瞬だけ見えた紋章。

 白銀の双頭鷲。


「人間国家の紋章だ」


 魔王の声が低くなる。


「しかも中央諸国連盟」


 最悪だ。

 中央諸国連盟は、人間側最大の軍事同盟。

 つまり魔王軍と戦争している相手。


「敵国と取引しているのか……?」


「いや、普通の密貿易ならまだマシです」


 問題は量。

 兵糧。

 軍用物資。

 これは国家レベル。


「戦争そのものを商売にしている」


 前線で戦争が続くほど儲かる。

 魔王軍にも売る。

 人間国家にも売る。

 そして両方から利益を吸う。


「……なるほど」


 魔王が笑った。

 だが目は笑っていない。


「余の兵が飢えるわけだ」


 そのとき。


「誰だ?」


 声。

 やばい。

 見張りに見つかった。


「侵入者――」


 言い終わる前だった。

 魔王が一歩踏み出す。

 次の瞬間。

 空気が震えた。

 圧。

 ただそれだけ。

 なのに見張りたちが一斉に膝をつく。


「が……っ」


「息が……」


「魔力だけで!?」


 怖っ。

 この人やっぱりバケモノだ。


「静かにしろ」


 魔王の声は低い。


「騒げば殺す」


 見張りたちの顔色が青くなる。

 だが、その直後。

 倉庫の奥から拍手が響いた。


「お見事です」


 ゆっくり現れた男。

 細い目。

 黒いローブ。

 南部商業連合代表――ベルク。


「まさか本当に来るとは思いませんでしたよ」


 全然驚いてない。

 つまり。


「誘ったのか?」


 俺が睨むと、ベルクは笑った。


「半分正解です」


「何が目的だ」


「簡単ですよ」


 ベルクは静かに言った。


「見せたかったんです。“現実”を」


 その瞬間。

 倉庫の奥の扉が開く。

 そこにいたのは――

 人間だった。

 しかも鎧姿。

 中央諸国連盟の軍人。


「……は?」


 俺が固まる。

 軍人は平然と麦袋を確認していた。

 魔王軍の兵糧を。

 敵国の軍人が。


「なぜ敵兵がここにいる」


 魔王の声が冷える。

 だがベルクは、まるで当然のように答えた。


「戦争には金がかかりますから」


 ぞわり、と背筋が冷えた。


「魔王軍も、人間国家も、もう戦争を止められない」


 ベルクは笑う。


「止めれば困る者が多すぎる」


 その目は、冷たく現実を見ていた。


「国家は戦争している。ですが市場は、もうとっくに手を結んでいるんですよ」


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