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『魔王城の地下で税金を計算してた俺、いつの間にか世界経済の黒幕になる』  作者: ニートは34歳まで
第一部 地下の税務官編

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第四話 商人は戦争より強い

 

 財務顧問。

 その肩書きを受けた瞬間、玉座の間の空気は明確に変わった。

 敵意だ。

 しかもかなり濃い。


「……気に入らんな」


 軍務卿の獅子族が腕を組む。


「たかが地下の役人が、いきなり中枢とは」


「実績はありますよ」


「口だけなら何とでも言える」


「じゃあ結果を出しましょうか?」


 俺が即答すると、相手の眉がぴくりと動いた。

 魔王は面白そうに笑っている。

 完全に見世物だこれ。


「一ヶ月ください」


 俺は言った。


「魔王軍の税収、増やしてみせます」


「ほう?」


「しかも、徴税率を下げた上で」


 ざわっ、と幹部たちが騒ぐ。


「不可能だ!」


「税を減らして収入が増えるわけがない!」


「算術もできんのか貴様!」


 いや、だからお前らが算術できてないんだって。


「今の魔王領は、“取りすぎ”なんですよ」


 俺は地図を指差した。


「商人が減れば、流通量が減る。流通量が減れば市場が死ぬ。市場が死ねば税収も死ぬ」


「だから税を軽くして商人を増やすのか」


 宰相が呟く。


「はい。まずは“通りたくなる国”を作ります」


 魔王が頬杖をつく。


「面白い。具体的には?」


「簡単です」


 俺は笑った。


「賄賂を禁止します」


 沈黙。

 次の瞬間。


「無理だな」


 即答だった。

 言ったのは西部担当の蛇人族将軍。


「検問官どもは賄賂込みで働いている」


「給料が安すぎるんですよ」


「は?」


「まともな給与体系に変えて、その代わり不正を重罪化します」


「金がかかるだろう」


「でも物流量は増えます」


 俺は帳簿を叩いた。


「今の商人、検問十回で財布空になりますからね」


 実際ひどかった。

 通行税。

 橋使用料。

 積荷確認料。

 護衛協力金。

 地域安全税。

 そして賄賂。

 もはや盗賊の方が安い。


「だから皆、魔王領を避けて人間側の海路を使うんです」


「……それは聞いたことがあるな」


 宰相が渋い顔になる。


「はい。つまり魔王軍は、自分で物流を殺している」


 魔王が低く笑った。


「なるほど。ならばどうする?」


「まず、“一枚で通れる許可証”を作ります」


 俺は紙を掲げる。


「この証を持つ商人は、追加徴税なし」


「そんなもの、地方領主が認めるわけあるまい」


「認めさせます」


 俺は即答した。


「その代わり、“通行量に応じて中央が分配金を払う”」


 空気が変わった。

 幹部たちの目が、一斉に細まる。

 食いついた。


「つまり」


 俺は続ける。


「関所で無理やり搾るより、“たくさん通した方が儲かる”仕組みに変えるんです」


 奪うほど損をする。

 流すほど得をする。

 そういう構造にする。


「……できるのか?」


 宰相が呟く。


「できますよ」


 俺は笑った。


「商人って、“儲かる道”には勝手に集まるんで」


     ◆


 三日後。

 魔王城下の市場は騒然としていた。


「本当か!?」


「この許可証で全部通れるのか!?」


「追加徴税なし!?」


 商人たちが紙を奪い合う。

 その様子を、俺は城壁の上から見下ろしていた。


「すごい勢いだな……」


 隣で宰相が呆然としている。


「当然です」


 今までの魔王領は、“通るだけで損する国”だった。

 だが今日からは違う。

 手数料を最初に払えば、後は自由。

 商人からすれば革命だ。


「見ろ」


 魔王が遠くを指差した。

 街道だった。

 荷馬車が列をなしている。

 今まで避けられていた魔王領へ、商人たちが殺到していた。


「……増えている」


「はい」


「まだ初日だぞ?」


「だからですよ」


 俺はニヤリと笑う。


「物流って、一回流れ始めると止まらないんです」


 安い。

 速い。

 安全。

 商人はその道を選ぶ。

 そして商人が増えれば、

 宿屋が儲かる。

 市場が広がる。

 税収が増える。

 人が集まる。

 金が回る。


「戦争で奪うより、商売させた方が儲かるんですよ」


 俺がそう言った瞬間。

 背後で、誰かが舌打ちした。

 振り返る。

 そこにいたのは、黒いローブを纏った男。

 細い目。

 不気味な笑み。

 そして胸元には、“南部交易区”の紋章。


「……なるほど」


 男は静かに笑った。


「だから最近、うちの商人が全部そっちへ流れているわけか」


 その目は笑っていなかった。


「はじめまして、財務顧問殿」


 嫌な予感がした。


「私は南部商業連合代表――ベルク」


 男は深々と一礼する。


「少し、お話ししませんか?」


 ――このときの俺はまだ知らなかった。

 魔王軍最大の敵が、人間でも勇者でもなく、“既得権益を握る商人たち”だということを。


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