第三十九話 信用交換会議
三日後。
魔王城。
かつて軍議が行われていた大広間は、今や別の戦場になっていた。
「狭いですね」
俺は思わず呟く。
「当たり前だ」
魔王が言う。
「竜が来るとは思わん」
正論だった。
大広間には、
•魔王軍中央銀行
•地方通貨同盟
•十三商会
•ドワーフ工房連盟
•魔導士ギルド
そして。
契約竜オルガディア。
各勢力の代表が勢揃いしていた。
「……よく集まりましたね」
「集めたのはあなたです」
ベルクがため息をつく。
確かにそうだった。
でも。
ここでやらなければならない。
◆
「会議を始めましょう」
俺が立ち上がる。
すると。
「反対だ」
即座にラウルが言った。
早いな。
「まだ何も言ってませんよ」
「どうせ中央銀行が支配する案だろう」
「違います」
「本当か?」
「本当です」
周囲も疑わしそうな顔をしている。
信用ないな俺。
「今回の案は単純です」
机へ地図を広げる。
「統一しません」
沈黙。
「……は?」
「中央通貨も作りません」
「は?」
「地方通貨も残します」
さらに沈黙。
「何がしたいんだ?」
グランが聞く。
「交換です」
俺は地図を指差した。
「人間国家の通貨」
「地方通貨同盟の信用証」
「竜族の契約証」
「全部残す」
「ただし」
俺は続ける。
「相互交換できるようにする」
ざわめきが広がる。
◆
「交換比率は?」
ラウルが聞く。
「市場が決めます」
「ほう」
興味を示した。
「国家が決めないのか」
「決めません」
前世でもそうだった。
為替だ。
価値は固定じゃない。
変動する。
「つまり」
ベルクが整理する。
「信用そのものを統一するのではなく」
「信用同士を繋ぐ?」
「はい」
その通りだ。
「中央契約炉は?」
今度はグラン。
「認証だけ」
沈黙。
「認証?」
「本物かどうかだけ保証する」
価値は決めない。
価格も決めない。
支配もしない。
「中央は審判役です」
「選手じゃない」
魔王が首を傾げた。
「分からん」
「私もです」
ラウルが真顔で言う。
やめてくれ。
◆
そのとき。
『分析完了』
エルシアが言った。
『提案内容を確認』
空中に文字が浮かぶ。
『中央契約炉機能を99.7%縮小可能』
「縮小?」
『信用支配機能を停止』
『認証機能のみ維持』
ざわめきが起きる。
「できるのか」
ベルクが驚いていた。
『可能です』
「じゃあ最初からやれ」
『提案されませんでした』
うん。
この精霊、融通が利かない。
◆
そのときだった。
オルガディアがゆっくり口を開く。
『人類種』
「はい」
『一つ聞く』
黄金の瞳がこちらを見る。
『なぜ支配を選ばない』
静かな問いだった。
でも。
核心だった。
「簡単ですよ」
俺は笑った。
「支配したことないので」
沈黙。
「国家を支配したこともない」
「市場もない」
「竜族もない」
「だから」
俺は肩を竦めた。
「皆が勝手に動く前提で考えた方が楽なんです」
数秒の静寂。
そして。
オルガディアが大きく笑った。
初めてだった。
本当に楽しそうに笑った。
『なるほど』
『古代文明にはいなかった発想だ』
その瞬間。
エルシアの瞳が輝く。
『新制度名を登録』
空中に文字が浮かぶ。
『世界信用交換網』
世界中の信用を統一しない。
だが繋ぐ。
そんな仕組み。
そして。
俺は気付かなかった。
この会議の結果が。
後に、
「世界経済史最大の転換点」
と呼ばれることになることを。




