第三十八話 繋がる世界、残る世界
『世界を繋ぐか』
『世界を残すか』
黄金竜オルガディアの言葉が、頭の中で反響する。
正直。
意味が分からなかった。
「繋いだら残らないんですか?」
俺は率直に聞いた。
『残る』
オルガディアは答える。
『だが同じになる』
沈黙。
「同じ?」
『同じ通貨』
『同じ契約』
『同じ市場』
『同じ価値観』
黄金の瞳が細くなる。
『それは平和だ』
『だが多様性は失われる』
なるほど。
少し分かった。
ドワーフ。
エルフ。
魔族。
竜族。
人間。
それぞれ違う文化がある。
信用の作り方も違う。
市場の考え方も違う。
「だから竜族は中央契約炉を嫌うのか」
『我らは嫌ってはいない』
オルガディアは静かに言う。
『恐れている』
その言葉は重かった。
◆
「ですが」
ベルクが口を開いた。
「全く繋がらない世界も問題です」
全員の視線が向く。
「古代文明崩壊後の数百年」
ベルクは続けた。
「各地は孤立した」
「物流は断絶」
「技術は停滞」
「飢饉は拡大」
なるほど。
分散にも欠点がある。
「中央集権は危険です」
「ですが完全分散も危険です」
グランが小さく頷く。
「だから十三商会は存在する」
市場同士を繋ぐ。
だが支配はしない。
その中間。
「……難しいな」
魔王が珍しく真面目な顔をしていた。
「余なら全部支配した方が楽だと思うが」
「それをやると多分世界が滅びます」
「そうか」
納得しないでほしい。
◆
そのとき。
エルシアが静かに口を開く。
『提案』
全員がそちらを見る。
『中央契約炉の完全再起動を推奨』
「却下」
俺は即答した。
『理由を要求』
「怖いからです」
即答だった。
ベルクが吹き出した。
グランまで肩を震わせている。
「怖いは重要ですよ」
俺は真面目に言った。
「今までの話を聞いてると」
「世界を便利にしようとして」
「世界を壊した連中の匂いしかしない」
沈黙。
そして。
オルガディアが、少しだけ笑った。
『ようやく理解したか』
◆
『では管理者候補へ質問』
エルシアの瞳が光る。
『中央契約炉を再起動しない場合』
『世界信用網は分裂状態を維持します』
『解決策を提示してください』
……ああ。
そういうことか。
今まで俺は勘違いしていた。
選択肢は、
•起動する
•起動しない
ではない。
もっと別。
「エルシア」
『はい』
「中央契約炉って、何のためにある?」
『世界信用維持です』
「違う」
俺は首を振った。
「それは手段だ」
沈黙。
「信用って何だ?」
『契約履行の保証です』
「それも違う」
俺は空を見上げた。
市場。
物流。
国家。
竜族。
全部見てきた。
「信用って」
ゆっくり言葉を選ぶ。
「“相手を信じる理由”だろ」
沈黙。
『……』
「だったら一つにする必要はない」
人間には人間の信用。
竜には竜の信用。
商会には商会の信用。
国家には国家の信用。
「全部同じじゃなくていい」
その瞬間。
地下で見た契約炉。
地方通貨同盟。
十三商会。
全部が一本に繋がった。
「必要なのは統一じゃない」
「接続だ」
空気が変わる。
ベルクの目が見開かれる。
グランが黙る。
オルガディアが静かにこちらを見る。
「それぞれ別のままでいい」
「でも話はできるようにする」
「交換できるようにする」
「繋がれるようにする」
中央が支配するんじゃない。
分散して孤立するんでもない。
「……なるほど」
ベルクが呟いた。
「中央銀行ではなく」
「信用交換機関か」
その言葉に。
エルシアが初めて沈黙した。
長く。
本当に長く。
そして。
『新規解決案を確認』
空中に文字が浮かぶ。
『分散型信用接続モデル』
『過去記録に存在しません』
その瞬間。
オルガディアが笑った。
今度ははっきりと。
『ようやく見つけたな』
「何をです?」
『古代文明が辿り着けなかった答えだ』
そして。
黄金竜は空を見上げた。
『ならば試してみろ、人類種』
『世界を一つにせず、繋げてみせろ』
その言葉と共に。
遥か上空で、契約精霊エルシアの瞳が静かに光った。
『新管理方針を検討開始』
世界が。
少しだけ、未来へ進み始めた。




