第三十七話 黄金竜の要求
『事故で世界信用網へ接触するな』
黄金竜の正論が胸に刺さる。
「返す言葉もありません」
俺は素直に頭を下げた。
実際、その通りだし。
北方街道に沈黙が落ちる。
竜。
魔王。
十三商会。
地方通貨同盟。
中央銀行。
全員が揃っている。
今さらながら、すごい光景だった。
◆
『名を名乗れ』
黄金竜が言った。
「アルトです」
『中央契約炉へ適合した人類種か』
「適合した覚えはないんですが」
『適合している』
即答だった。
嫌な断言だな。
「あなたは?」
『我が名はオルガディア』
黄金の瞳が細まる。
『契約竜の長』
空気が変わった。
周囲の魔導士たちが息を呑む。
「長……」
ベルクですら顔色を変えている。
相当な存在らしい。
『質問する』
「はい」
『なぜ中央契約炉を起動した』
「事故です」
『事故で世界信用網へ接触するな』
「ごもっともです」
反論できなかった。
◆
『では次の質問だ』
オルガディアの瞳が細くなる。
『なぜ世界を統一しようとする』
沈黙。
「……してませんよ?」
『している』
「してません」
『している』
押し問答になった。
「いや本当に」
俺は頭を抱える。
「物流改善して」
「市場作って」
「銀行作って」
「信用制度整えただけです」
オルガディアはしばらく黙っていた。
そして。
『それを人類は“世界統一への第一歩”と呼ぶ』
ぐうの音も出ない。
「アルト」
ベルクが小さく言った。
「客観的に見ると、そう見えます」
「そんなぁ……」
俺としては税収改善だったんだけど。
◆
『聞け、人類種』
オルガディアの声が響く。
『古代文明は滅びた』
「ええ」
『なぜ滅びたと思う』
「信用を集中させすぎた?」
『半分正しい』
黄金の瞳が遠くを見る。
『彼らは全てを繋げた』
物流。
契約。
市場。
魔力。
通貨。
『そして誰も、切り離せなくなった』
重い言葉だった。
「切り離せない?」
『一つが止まれば全てが止まる』
ぞくり、とした。
『都市は都市に依存した』
『市場は市場に依存した』
『国家は契約炉に依存した』
『やがて』
オルガディアの声が低くなる。
『誰も、自分で立てなくなった』
沈黙。
それは。
今の俺たちにも当てはまる話だった。
◆
そのとき。
エルシアの声が響く。
『反論します』
空気が変わる。
初めてだった。
契約精霊が自分から会話へ割り込んだのは。
『古代文明崩壊原因の分析結果が異なります』
黄金竜の瞳が細まる。
『ほう』
『崩壊原因は契約炉停止です』
『停止しなければ文明は維持されました』
沈黙。
そして。
オルガディアが笑った。
初めて。
竜が笑った。
『だから滅んだのだ』
『……意味を確認できません』
『契約炉よ』
黄金竜が空を見上げる。
『お前は今も理解していない』
その瞬間。
俺は嫌な予感がした。
『文明維持』
エルシアが言う。
『最優先事項です』
『違う』
オルガディアは静かに言った。
『文明は維持するものではない』
空気が震える。
『文明は、人が選ぶものだ』
沈黙。
エルシアは黙った。
初めて。
本当に初めて。
契約精霊が答えられなかった。
◆
そして。
黄金竜の視線がこちらへ向く。
『アルト』
「はい」
『中央契約炉を止めろ』
空気が凍る。
「……は?」
『今ならまだ間に合う』
ベルクが息を呑む。
グランも動かない。
『このままでは、再び世界は一つへ繋がる』
『そして同じ過ちを繰り返す』
静かな声だった。
だが。
その重みは山より重かった。
『選べ』
黄金竜が言う。
『世界を繋ぐか』
『世界を残すか』
その問いは。
これまでで一番重い問いだった。




