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『魔王城の地下で税金を計算してた俺、いつの間にか世界経済の黒幕になる』  作者: ニートは34歳まで
第一部 地下の税務官編

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第四十話 黒幕と呼ばれた男


 世界信用交換網。

 名前が決まったのはいい。

 問題は。


「誰が運営するんです?」


 俺だった。

 全員がこちらを見ている。


「いやいやいや」


 俺は首を振る。


「認証機関ですよね?」


「ええ」


 ベルクが頷く。


「交換比率の監視も必要です」


 ラウルも頷く。


「不正契約の調査も必要だな」


 グランも言う。

『管理責任者を選定してください』

 エルシアまで言い出した。


「嫌です」


 即答だった。


     ◆


「嫌とは?」


 魔王が聞く。


「仕事増えるじゃないですか」


「増えるな」


「増えますね」


「増えるだろう」


 全員同意だった。


「だったら嫌です」


 当たり前である。

 すると。

 ベルクが小さく笑った。


「今さらですよ」


「何がです?」


「あなた、もう逃げられません」


 嫌な予感しかしない。


「世界信用交換網」


「中央銀行」


「市場通信網」


「物流認証制度」


 ベルクは指を折る。


「全部、あなたが作った」


「いや、皆で作ったでしょう」


「発案者は?」


 沈黙。

 嫌な流れだ。


     ◆


 そのとき。

 ラウルが苦笑した。


「正直な話をしよう」


「何です?」


「南部じゃ、もう有名だ」


「何がです?」


「黒幕」


 嫌な単語が出た。


「誰がです?」


「貴様だ」


 即答だった。


「違います」


「違わん」


 グランまで頷いている。


「物流を変えた」


「通貨を変えた」


「市場を変えた」


「信用制度を変えた」


 オルガディアまで言った。

『世界の流れを変えた』

 待って。

 竜まで参加するの。


「私は税務官なんですが」


「元、だな」


 魔王が言った。


「今は?」


「……何なんでしょうね」


 自分でも分からなくなってきた。


     ◆


 会議終了後。

 俺は一人で城の廊下を歩いていた。

 静かだ。

 久しぶりに。

 何も考えなくていい時間だった。


「終わったな」


 声がした。

 振り返る。

 グランだった。


「まだ終わってないでしょう」


「大勢は決した」


 そうかもしれない。

 地方通貨同盟も。

 十三商会も。

 竜族も。

 世界信用交換網への参加を決めた。

 完全統一ではない。

 だが接続はされる。


「……不思議ですね」


 俺は窓の外を見る。


「最初は税収計算だけだったんですよ」


「知っている」


「それが何でこうなったんですかね」


 グランは少し考えた。

 そして。


「貧しい国を見たからだろう」


 静かな声だった。


「……」


「だから変えた」


 それだけだ、と。

 グランは言った。


     ◆


 翌朝。

 地下税務室。

 懐かしい場所だった。

 机。

 帳簿。

 書類。

 山積みの書類。


「増えてる!」


 新人役人が頭を下げる。


「局長!」


「局長?」


「本日付で財務局長です!」


 嫌な昇進だった。


「あと」


「何です?」


「各国から問い合わせが百七十三件」


「帰りたい」


 本気で。

 すると。

 窓の外から鐘の音が聞こえた。

 市場の鐘。

 物流の鐘。

 契約成立の鐘。

 街が動いている音だ。

 昔より。

 ずっと賑やかに。

 ずっと豊かに。

 俺は窓の外を見た。

 そこには。

 人がいて。

 商人がいて。

 荷馬車が走り。

 市場が動いていた。

 そして。

 その仕組みのどこかに。

 確かに自分が作った制度がある。


「……まあ」


 俺は椅子へ座る。


「仕事するか」


 誰にも聞こえないように呟いた。

________________________________________

 魔王城の地下で税金を計算していた男は、

 王にならなかった。

 魔王にもならなかった。

 世界を支配もしなかった。

 だが。

 通貨。

 物流。

 信用。

 市場。

 世界中が使う仕組みの中に、

 いつの間にか彼の考え方が組み込まれていた。

 後の歴史家は、こう記す。

世界経済を動かしたのは、

王でも魔王でもない。

一人の税務官だった。

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