第四十話 黒幕と呼ばれた男
世界信用交換網。
名前が決まったのはいい。
問題は。
「誰が運営するんです?」
俺だった。
全員がこちらを見ている。
「いやいやいや」
俺は首を振る。
「認証機関ですよね?」
「ええ」
ベルクが頷く。
「交換比率の監視も必要です」
ラウルも頷く。
「不正契約の調査も必要だな」
グランも言う。
『管理責任者を選定してください』
エルシアまで言い出した。
「嫌です」
即答だった。
◆
「嫌とは?」
魔王が聞く。
「仕事増えるじゃないですか」
「増えるな」
「増えますね」
「増えるだろう」
全員同意だった。
「だったら嫌です」
当たり前である。
すると。
ベルクが小さく笑った。
「今さらですよ」
「何がです?」
「あなた、もう逃げられません」
嫌な予感しかしない。
「世界信用交換網」
「中央銀行」
「市場通信網」
「物流認証制度」
ベルクは指を折る。
「全部、あなたが作った」
「いや、皆で作ったでしょう」
「発案者は?」
沈黙。
嫌な流れだ。
◆
そのとき。
ラウルが苦笑した。
「正直な話をしよう」
「何です?」
「南部じゃ、もう有名だ」
「何がです?」
「黒幕」
嫌な単語が出た。
「誰がです?」
「貴様だ」
即答だった。
「違います」
「違わん」
グランまで頷いている。
「物流を変えた」
「通貨を変えた」
「市場を変えた」
「信用制度を変えた」
オルガディアまで言った。
『世界の流れを変えた』
待って。
竜まで参加するの。
「私は税務官なんですが」
「元、だな」
魔王が言った。
「今は?」
「……何なんでしょうね」
自分でも分からなくなってきた。
◆
会議終了後。
俺は一人で城の廊下を歩いていた。
静かだ。
久しぶりに。
何も考えなくていい時間だった。
「終わったな」
声がした。
振り返る。
グランだった。
「まだ終わってないでしょう」
「大勢は決した」
そうかもしれない。
地方通貨同盟も。
十三商会も。
竜族も。
世界信用交換網への参加を決めた。
完全統一ではない。
だが接続はされる。
「……不思議ですね」
俺は窓の外を見る。
「最初は税収計算だけだったんですよ」
「知っている」
「それが何でこうなったんですかね」
グランは少し考えた。
そして。
「貧しい国を見たからだろう」
静かな声だった。
「……」
「だから変えた」
それだけだ、と。
グランは言った。
◆
翌朝。
地下税務室。
懐かしい場所だった。
机。
帳簿。
書類。
山積みの書類。
「増えてる!」
新人役人が頭を下げる。
「局長!」
「局長?」
「本日付で財務局長です!」
嫌な昇進だった。
「あと」
「何です?」
「各国から問い合わせが百七十三件」
「帰りたい」
本気で。
すると。
窓の外から鐘の音が聞こえた。
市場の鐘。
物流の鐘。
契約成立の鐘。
街が動いている音だ。
昔より。
ずっと賑やかに。
ずっと豊かに。
俺は窓の外を見た。
そこには。
人がいて。
商人がいて。
荷馬車が走り。
市場が動いていた。
そして。
その仕組みのどこかに。
確かに自分が作った制度がある。
「……まあ」
俺は椅子へ座る。
「仕事するか」
誰にも聞こえないように呟いた。
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魔王城の地下で税金を計算していた男は、
王にならなかった。
魔王にもならなかった。
世界を支配もしなかった。
だが。
通貨。
物流。
信用。
市場。
世界中が使う仕組みの中に、
いつの間にか彼の考え方が組み込まれていた。
後の歴史家は、こう記す。
世界経済を動かしたのは、
王でも魔王でもない。
一人の税務官だった。
完




