第三十三話 地方通貨同盟
南部都市連合・レグナ。
そこは、完全に別世界だった。
「……派手ですね」
俺は思わず呟く。
広場中に、旗。
各地方領主の紋章。
商会の看板。
そして。
『地方通貨同盟設立』
巨大な横断幕。
「祭りみたいですね」
「実際、祭りですよ」
ベルクが低く言った。
「“中央へ対抗できる”と皆思っている」
つまり。
魔王軍中央銀行への反発。
それが今、地方勢力を一つにしている。
◆
「歓迎しよう、財務顧問殿」
円卓会議場。
中央に座っていたのは、南部大商会連合代表――ラウル。
太った男だった。
だが目だけは鋭い。
完全に“金の匂いで生きている”タイプ。
「どうも」
「まさか本当に来るとはな」
「呼ばれたので」
「ふはは!」
ラウルが笑う。
「面白い男だ!」
周囲には、
•地方領主
•大商人
•銀行代表
•魔導工房主
まで並んでいた。
完全に経済サミットだ。
「単刀直入に言おう」
ラウルが椅子へ深く座る。
「中央銀行は危険だ」
来たな。
「理由は?」
「信用を一つへ集めすぎる」
その言葉に、ベルクとグランが小さく反応した。
「古代文明と同じですか」
「知っているのか?」
「少しは」
ラウルは目を細めた。
「なら話は早い」
机へ紙束が置かれる。
『地方通貨共同認証案』
……共同認証?
「中央を作らないのか?」
魔王が聞く。
「作らん」
ラウルは即答した。
「我々は、“分散型信用網”を作る」
空気が変わる。
「各地方銀行が互いに保証し合う」
「単独支配はしない」
「信用を分散することで、崩壊リスクを減らす」
……なるほど。
かなり合理的だ。
「つまり」
俺は紙を見る。
「中央集権型じゃなく、“連邦型金融”か」
「そうだ」
ラウルは笑った。
「世界を一つで支えるから壊れる」
「なら、複数で支えればいい」
理屈としては正しい。
かなり。
◆
「ですが」
俺は静かに言った。
「分散型って、“責任の所在”が曖昧になりますよ」
ラウルの笑みが少し止まる。
「危機の時、誰が最後に支えるんです?」
「互助で対応する」
「全員が苦しい時は?」
「……」
「取り付け騒ぎが同時発生したら?」
沈黙。
ベルクが小さく息を吐く。
「そこなんですよね」
市場は平時なら強い。
分散も効く。
でも。
危機になると。
「最後に、“絶対に責任を取る存在”が必要になる」
前世でもそうだった。
中央銀行。
国家保証。
最後の貸し手。
全部そのためだ。
「だが中央集権は暴走する」
ラウルが低く言う。
「一つ壊れれば世界ごと死ぬ」
「それも正しいです」
つまり。
中央型も危険。
分散型も危険。
どっちも完全じゃない。
「……難しいですね」
俺は思わず笑った。
「世界規模になると、“最適解が存在しない”」
その瞬間。
ラウルが初めて少し笑った。
「なるほど」
「何です?」
「貴様、ちゃんと理解している」
市場。
国家。
信用。
全部。
万能ではない。
◆
そのときだった。
会議室の扉が勢いよく開く。
「緊急報告!!」
兵士が飛び込んでくる。
「北方街道、“契約暴走”発生!!」
空気が変わった。
「契約暴走?」
「魔導契約証が暴発しています!」
……は?
「待ってください」
俺は眉をひそめる。
「魔導契約証?」
「最近流通し始めた、“魔力認証付き信用証券”です!」
嫌な予感しかしない。
「どこが作った」
「地方通貨同盟です!」
ラウルの顔色が変わる。
「何だと!?」
「契約が連鎖暴走しています!」
「被害は!?」
「魔力回路焼損!」
「輸送停止!」
「街道封鎖!」
その瞬間。
俺は理解した。
始まったんだ。
古代文明と同じ、“魔力信用ネットワーク暴走”が。
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