第三十一話 契約精霊
『推奨』
『中央認証統一』
蒼い文字が、地下空洞に浮かび続けている。
「……圧がすごいな、これ」
俺は思わず呟いた。
ただ文字が出ているだけなのに。
妙な威圧感がある。
まるで、
「統一しないと終わる」
と、世界そのものに言われているみたいだった。
「古代文明は」
グランが静かに言う。
「“統一こそ正義”だと考えていた」
「だから中央契約炉を作った?」
「そうだ」
物流。
通貨。
魔力。
契約。
全部を繋げた。
「でも滅びた」
「ええ」
ベルクが頷く。
「便利すぎたんですよ」
重いなその言葉。
かなり。
◆
『現行管理者候補へ質問』
突然、文字が変わる。
「うわっ」
『質問』
『現在文明における最大信用源を回答してください』
沈黙。
「……は?」
「答えろってことか?」
魔王が聞く。
「多分」
嫌だなぁ。
面接みたいになってきた。
「最大信用源……」
俺は少し考える。
この世界で、人が一番信じているもの。
国家?
市場?
宗教?
違う気がした。
「……契約ですかね」
『確認』
『理由を要求』
めんどくさ!
「ええと」
俺は頭を整理する。
「国家も市場も、“約束を守る”前提で成立しているので」
税。
物流。
通貨。
全部。
結局は、
「後で払う」
「交換できる」
「価値がある」
という約束だ。
「つまり」
俺は契約炉を見る。
「信用の正体って、“守られると思っている約束”なんですよ」
地下空洞が静まり返る。
すると。
中央結晶が、強く発光した。
『回答適合』
「おい」
グランが嫌そうな顔をする。
「適合するな」
「俺のせいじゃないですよ」
『追加質問』
『契約維持に必要な要素を回答してください』
まだ続くの!?
「……責任」
今度はすぐ答えた。
「責任?」
ベルクがこちらを見る。
「約束って、“破った時に困る”から成立するので」
契約書。
国家。
通貨。
全部そうだ。
「だから」
俺は静かに言った。
「信用って、“責任を引き受ける覚悟”だと思います」
その瞬間。
地下回路全体が青白く輝いた。
『高適合』
『管理者候補適性 更新』
「……嫌な予感しかしませんね」
老ドワーフが青ざめていた。
◆
そのときだった。
地下空間の奥から、足音が響く。
硬い音。
カツ、カツ、と。
「誰だ」
魔王の声が低くなる。
全員が身構えた。
やがて。
青白い光の中から、“それ”が現れる。
「……人?」
違う。
人型ではある。
だが。
半透明。
銀色の髪。
淡く光る瞳。
衣装には、無数の契約紋様。
「精霊か」
グランが低く呟く。
その存在は、ゆっくりこちらを見る。
感情のない瞳。
『中央契約補助精霊』
『識別名:エルシア』
空中へ文字が浮かぶ。
「喋るんだ……」
『管理者候補を確認』
銀髪の精霊――エルシアが、真っ直ぐこちらを見た。
『質問します』
嫌な予感しかしない。
『あなたは、“世界全体の信用”を背負う覚悟がありますか?』
地下空洞が静まり返る。
重い。
めちゃくちゃ重い。
「……いや」
俺は思わず苦笑した。
「税務官だったんですけど、俺」
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