第三十話 世界の信用中枢
『中央管理者候補として登録しますか?』
蒼い文字が空中に浮かんでいる。
地下空洞は静まり返っていた。
「……いやいやいや」
俺は思わず後退る。
「何これ」
「古代契約炉だ」
グランの声は低い。
「見れば分かる」
「分からないから聞いているんですが」
怖いんだよ普通に。
『登録待機中』
文字が点滅する。
嫌だなぁこれ。
絶対押したら戻れないやつだ。
「アルト」
ベルクが珍しく真剣だった。
「触るな」
「ですよね」
「即答ですね」
「こういう“便利そうな古代システム”って、大体世界滅ぼすので」
前世知識とか関係なく危険臭がする。
「賢明だ」
グランが頷く。
「中央契約炉は、古代文明最大の禁忌だ」
「禁忌?」
「世界中の契約と信用を、一つへ集中させた」
蒼い回路が脈打つ。
「物流」
「通貨」
「魔力供給」
「契約認証」
「全てが、この炉へ依存していた」
……中央銀行どころじゃない。
完全に世界OSだ。
「だから止まった瞬間、全部死んだ」
「はい」
俺は乾いた笑いを漏らした。
「インフラ一極集中で世界崩壊ですね」
「前世か?」
「まあ似たような話です」
危ない危ない。
◆
『管理者不在状態を確認』
『契約網復旧率 3.8%』
『現行文明水準 低下確認』
文字が次々浮かぶ。
怖い。
なんか普通に会話してくる。
「これ、意思があるんですか?」
「半分な」
老ドワーフが答えた。
「古代術式と管理精霊の融合体だ」
ファンタジーだ。
久々にかなりファンタジーだ。
「つまりAIみたいなものです?」
「えーあい?」
「こっちの話です」
最近ほんと危ない。
「問題は」
ベルクが契約炉を見る。
「なぜ今、再起動をしたかです」
沈黙。
確かに。
「……俺?」
「たぶん」
「嫌だなぁ」
すると。
契約炉の文字が変わる。
『新規信用体系を検知』
『紙媒体信用契約を確認』
『分散型認証網を確認』
空気が変わった。
「……待て」
グランの顔色が変わる。
「まさか」
『旧文明互換性 87%』
沈黙。
そして。
ベルクがゆっくりこちらを見る。
「アルト」
「はい」
「君、“古代文明と同じ方向”へ進んでいる」
ぞくり、とした。
預かり証。
認証制度。
中央銀行。
信用統一。
全部。
「……つまり」
俺は契約炉を見る。
「俺の作った制度、この世界の“過去の再現”なんですか」
「ええ」
グランは静かに頷いた。
「だから我々は警戒していた」
十三商会。
市場制御。
中央集権への警戒。
全部繋がる。
「古代文明は、一度“信用を繋ぎすぎて”滅びた」
「だから市場を分散管理していた?」
「そうだ」
ベルクが苦笑する。
「十三商会が十三に分かれているのも、その名残ですよ」
うわぁ。
急に歴史が重くなった。
◆
そのときだった。
『警告』
契約炉の光が赤へ変わる。
『外部信用干渉を検知』
「何?」
『未認証中央銀行群を確認』
空中へ、地図が浮かび上がる。
大陸全土。
その上に、赤い光点。
「……多いですね」
「地方通貨同盟だ」
グランが低く言う。
「独自中央銀行群」
赤い光点が増えていく。
『信用体系衝突率 上昇』
『契約網分裂危険度 増加』
ぞくり、とした。
「これ」
俺は地図を見る。
「中央銀行戦争って……」
「ただの金融競争ではない」
グランが静かに言った。
「“世界の信用体系そのもの”を巡る戦争だ」
その瞬間。
契約炉中央の蒼い結晶が、強く脈打つ。
『推奨』
『中央認証統一』
地下空洞が震える。
『分裂状態継続時』
『文明崩壊確率 上昇』
沈黙。
そして。
ベルクが、小さく呟いた。
「……最悪ですね」
「何がです?」
「あなたが正しい可能性が出てきた」
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