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『魔王城の地下で税金を計算してた俺、いつの間にか世界経済の黒幕になる』  作者: ニートは34歳まで
第一部 地下の税務官編

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第二十五話 国家が市場を救う日


 翌朝。

 市場は、静かだった。


「……止まった?」


 俺は中央広場を見回す。

 昨日までの怒号がない。

 取り付け騒ぎの列も短い。


「完全ではありませんが」


 宰相が報告書を差し出す。


「交換要求、半減しています」


「中央銀行設立宣言が効いたな」


 魔王が言う。


「ええ」


 正確には。


「国家が最後に支える」


と思わせた。

 それが大きい。


「人って、“誰かが責任を取る”と思うと落ち着くんですよ」


「不思議なものだな」


「責任の所在が見えると安心するんです」


 前世でもそうだった。

 金融危機は、数字だけじゃない。

 心理戦だ。


     ◆


 だが。


「問題はこれからです」


 俺は机に積まれた帳簿を見る。


「融資焦げ付き、多すぎます」


 返済不能。

 倒産。

 逃亡。

 かなり出ている。


「つまり?」


 魔王が聞く。


「助からない商人も出ます」


 沈黙。

 これが難しい。

 全部救うと市場が腐る。

 だが切り捨てすぎると恐慌になる。


「選別が必要です」


「誰を助ける?」


「“市場に必要な商人”です」


 物流。

 食料。

 基幹交易。

 そこは止められない。


「逆に」


 俺は帳簿を閉じる。


「投機だけしていた連中は切ります」


 ベルクが小さく笑った。


「市場原理ですね」


「はい」


 全部助けるのは違う。

 責任は必要だ。


「……なるほど」


 グランが低く呟く。


「お前、“国家による市場管理”を始めているな」


「管理しないと死ぬので」


「市場側は嫌うぞ」


「でしょうね」


 でも。

 今の市場、自由にすると壊れる。


     ◆


 その日の午後。

 中央銀行舎前に、人だかりができていた。


『緊急融資対象商会一覧』


 張り紙。

 そこには、

•食料輸送商会

•街道護衛商会

•北部物流組合

などの名前が並んでいる。


「俺たちは対象外か!?」


「ふざけんな!」


「助けろ!!」


 当然荒れる。


「全部は無理です」


 俺は正面から言った。


「市場全体を守るために、“優先順位”を付けます」


「見捨てるのか!」


「違います」


 俺は静かに言う。


「“潰れるべき商売”まで守ると、市場が死ぬ」


 沈黙。

 重い言葉だった。

 だが事実だ。


「……冷たいですね」


 ベルクが呟く。


「前世でも何度も見たので」


「前世?」


「こっちの話です」


 危ない。


     ◆


 そのときだった。


「速報!!」


 市場通信員が駆け込んでくる。


「十三商会が声明を発表しました!」


 空気が変わる。


「内容は?」


 紙が渡される。

 そこには短く書かれていた。

『市場に国家は不要である』

 沈黙。


「……真正面から来ましたね」


 ベルクが苦笑する。


「ついに理念戦争だ」


「理念?」


「ええ」


 グランが静かに言った。


「我々は、“市場は市場自身で調整すべき”と考えている」


「だから国家介入を嫌う」


「当然だ」


 グランの目が細まる。


「国家は、力で市場を歪める」


 なるほど。

 確かに一理ある。

 権力は怖い。

 だが。


「放置した結果、戦争経済をやっていましたよね?」


 グランが黙る。


「独占していましたよね?」


「……」


「情報操作をしていましたよね?」


 ベルクが小さく吹き出した。


「そこを突くんだ……」


 だって事実だし。


「市場が完璧なら、そもそも俺はいらないんですよ」


 沈黙。

 グランは数秒こちらを見ていた。

 やがて。


「……面白い」


 初めて、少し笑った。


「国家と市場」


 その声は静かだった。


「どちらが世界を安定させるか」


 その瞬間。

 俺は理解した。

 これ。

 もう単なる経済戦争じゃない。

 世界の在り方そのものを巡る戦いだ。


ここまでお読みいただき、本当にありがとうございました!


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