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『魔王城の地下で税金を計算してた俺、いつの間にか世界経済の黒幕になる』  作者: ニートは34歳まで
第一部 地下の税務官編

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第二十六話 国家か、市場か


 『市場に国家は不要である』

 その声明は、一晩で大陸中へ広がった。


「早すぎません?」


 俺は市場通信を見ながら呟く。


「通信ギルドを押さえていますから」


 ベルクが当然のように言う。

 怖いな、この世界の商人。


「今や情報も商品です」


「便利な時代ですね」


「あなたが言います?」


 正論だった。


     ◆


 翌朝。

 市場は、完全に二つへ割れていた。


「国家保証がある方が安心だ!」


「いや、国家が口出しすると商売が死ぬ!」


「価格統制なんて冗談じゃない!」


「でも放置したら暴落しただろ!」


 商人同士が口論している。

 酒場でも。

 市場でも。

 荷馬車置き場でも。

 話題は同じだった。

 国家か。

 市場か。


「……理念戦争って面倒ですね」


「人は、“正しい仕組み”が好きだからな」


 魔王が静かに言う。


「市場も国家も、結局“秩序”です」


 ベルクが続けた。


「どちらを信じるかで、人は分かれる」


 なるほど。

 これ、宗教に近い。


     ◆


「問題はここからです」


 俺は地図を広げる。


「地方領主たちが揺れています」


「どちらにつくか、か」


「はい」


 今までは、

•魔王軍

•地方領主

•商会

で均衡していた。

 だが今。

 中央銀行。

 国家保証。

 統一通貨。

 全部が、中央へ力を集め始めている。


「地方領主からすると脅威ですね」


「当然だ」


 グランが低く言う。


「市場は、地方でも商売できる」


「はい」


「だが国家中央集権は、“地方権力を削る”」


 つまり。

 十三商会と地方領主、一部利害一致しているのか。


「……厄介だなぁ」


 敵が増えている。


「しかも」


 ベルクが報告書を投げる。


「南部で、“地方通貨同盟”が始まりました」


「は?」


 紙を見る。

『中央銀行通貨に対抗し、地方独自貨幣を守る』

 ……あー。

 来たか。


「通貨戦争ですね」


「ええ」


 しかもかなり危険。


「地方領主たち、自分たちで紙証券発行し始めています」


「早いな!?」


「儲かりますから」


 怖い。

 皆もう金融覚え始めている。


「つまり」


 グランが静かに言った。


「お前が作った仕組みが、“国家以外”にも拡散し始めた」


 沈黙。

 ……確かに。

 信用制度って、別に国家専用じゃない。

 誰でも真似できる。


「便利なものは広まりますからね」


「だから危険なんだ」


 グランの声は重かった。


「信用を作れる者が増えすぎると、市場は制御不能になる」


 それも正しい。

 地方紙幣。

 商会証券。

 私設通貨。

 全部が乱立したら混乱する。


「……なるほど」


 俺は少しだけ笑った。


「やっと、“中央銀行が必要な理由”が見えてきました」


「何?」


「通貨って、結局“統一信用”なんですよ」


 誰でも発行できると壊れる。

 だから最後は、


「どこを信用するか」


になる。


     ◆


 そのとき。

 会議室の扉が開いた。


「報告です!」


 兵士が飛び込んでくる。


「西部鉱山地帯で暴動発生!」


「理由は?」


「銀価格暴落です!」


 空気が変わる。


「鉱山商会が崩壊しています!」


「失業者多数!」


「地方領主が軍を動かしました!」


 ……来た。

 金融危機が、実体経済へ波及し始めた。


「市場だけの問題じゃなくなったな」


 魔王が低く言う。


「はい」


 銀価格が落ちる。

 鉱山が死ぬ。

 雇用が消える。

 地方経済が崩壊する。

 完全に現代型不況だった。


「アルト」


 ベルクが静かに聞く。


「お前、本当に責任取れるのか?」


 重い問いだった。

 確かに。

 俺が市場を加速させた。

 金融を広げた。

 信用を拡大した。

 その結果、世界が変わり始めている。


「……分かりません」


 俺は正直に答えた。


「でも」


 窓の外を見る。

 市場。

 物流。

 人の流れ。

 前より、確実に世界は動いている。


「止める気はないです」


 沈黙。

 そして。

 グランが、初めて少しだけ笑った。


「狂人め」


 その声は。

 どこか嬉しそうでもあった。


ここまでお読みいただき、本当にありがとうございました!


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