第二十三話 黒旗商会
黒旗が、風にはためいていた。
南街道の空気が変わる。
武装商人たちが、一斉に黙った。
「……圧がありますね」
俺は思わず呟く。
黒鎧。
統一装備。
大型弩兵。
重装荷馬車。
護衛団というより、完全に軍隊だった。
「十三商会直属、“黒旗商会”です」
ベルクの声が低い。
「商会?」
「表向きは」
いや絶対違うだろ。
「市場護衛専門組織ですね」
「私兵じゃないですか」
「市場側はそう呼びません」
怖い。
市場怖い。
◆
黒旗商会の先頭から、一人の男が進み出た。
長身。
白髪。
黒外套。
年齢は五十前後か。
だが、一番印象的なのは目だった。
冷たい。
完全に“数字で人を殺せる”タイプの目。
「久しいな、ベルク」
「……グラン」
ベルクの顔が珍しく硬い。
知り合いか。
「元上司です」
「嫌な情報ありがとうございます」
絶対強いじゃん。
「南部担当など左遷だと思っていたが」
グランはベルクを見て笑う。
「随分厄介な人間を見つけたな」
視線がこっちへ向く。
ぞくり、とした。
「魔王軍財務顧問、アルト殿」
「どうも」
「市場を壊しているそうだな」
開幕から物騒だなこの人。
「改善してるだけですよ」
「同じことだ」
即答だった。
「市場は均衡で成り立つ。便利な仕組みは、その均衡を壊す」
その口調は静かだ。
だが断定的。
「預かり証。信用貸付。市場通信」
グランは淡々と並べる。
「全部、“市場を加速させすぎる”」
「速い方が便利でしょう?」
「暴走も速くなる」
沈黙。
……分かってる人だ。
「あなた」
俺は少しだけ目を細める。
「市場嫌いなんですか?」
「逆だ」
グランは笑った。
「市場を愛している」
だから恐れている。
そんな感じだった。
「市場は欲望で動く」
「はい」
「だからこそ、“遅さ”が必要だ」
ベルクが小さく息を吐く。
「……なるほど」
「理解できるか」
「少しは」
今までの十三商会って、
* 独占
* 操作
* 支配
のイメージだった。
でも違う。
こいつら、
> “市場暴走を管理する側”
でもあるのか。
「あなたの制度は危険だ」
グランが俺を見る。
「誰でも金を借りられる」
「はい」
「誰でも市場へ参加できる」
「ええ」
「誰でも武装できる」
「そこは今問題になってますね」
グランの目が細まる。
「分かっているなら止めろ」
「無理ですよ」
「なぜ」
「便利だからです」
即答だった。
前世でもそうだった。
一度便利さを知った人間は戻らない。
「銀貨袋持ち歩くより、紙の方が楽です」
「……」
「情報が速い方が儲かる」
「……」
「融資があれば商売できる」
だから市場は変わる。
止まらない。
「それでも」
グランは静かに言った。
「市場は、“一部の理性ある者”が制御しなければ壊れる」
その瞬間。
俺は理解した。
この人。
本気で“世界を守ってる”つもりなんだ。
市場側から。
「十三商会って」
俺は呟く。
「暴利組織じゃないんですね」
「暴利だけで百年も続かん」
グランは即答した。
「我々は、“市場を安定させる”ことで巨大化した」
なるほど。
だから戦争を管理していた。
だから物流を支配していた。
だから信用を独占していた。
「……国家より厄介ですね」
「市場は国家より長生きだ」
さらっと怖いこと言うな。
◆
その時だった。
「報告!!」
黒旗兵が駆け込んでくる。
「東市場で暴動です!」
「何?」
「融資商人が破産し始めています!」
空気が変わった。
「破産?」
「銀価格下落で担保価値が崩壊!」
……来た。
信用膨張の反動。
「借金返済不能者、多数!」
「市場が混乱しています!」
グランが、静かにこちらを見た。
「始まったな」
「……何がです?」
「“信用崩壊”だ」
ここまでお読みいただき、本当にありがとうございました!
もし「続きが気になる!」「面白い!」と思っていただけましたら、
下にある**【ブックマークに追加】や、【☆☆☆☆☆】を★★★★★**にして応援していただけると、執筆の励みになります……!
ほんの少しの応援でも、作者にとっては嬉しいものです。
どうぞよろしくお願いいたします!




