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『魔王城の地下で税金を計算してた俺、いつの間にか世界経済の黒幕になる』  作者: ニートは34歳まで
第一部 地下の税務官編

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第二十三話 黒旗商会


 黒旗が、風にはためいていた。


 南街道の空気が変わる。


 武装商人たちが、一斉に黙った。


「……圧がありますね」


 俺は思わず呟く。


 黒鎧。


 統一装備。


 大型弩兵。


 重装荷馬車。


 護衛団というより、完全に軍隊だった。


「十三商会直属、“黒旗商会”です」


 ベルクの声が低い。


「商会?」


「表向きは」


 いや絶対違うだろ。


「市場護衛専門組織ですね」


「私兵じゃないですか」


「市場側はそう呼びません」


 怖い。


 市場怖い。


     ◆


 黒旗商会の先頭から、一人の男が進み出た。


 長身。


 白髪。


 黒外套。


 年齢は五十前後か。


 だが、一番印象的なのは目だった。


 冷たい。


 完全に“数字で人を殺せる”タイプの目。


「久しいな、ベルク」


「……グラン」


 ベルクの顔が珍しく硬い。


 知り合いか。


「元上司です」


「嫌な情報ありがとうございます」


 絶対強いじゃん。


「南部担当など左遷だと思っていたが」


 グランはベルクを見て笑う。


「随分厄介な人間を見つけたな」


 視線がこっちへ向く。


 ぞくり、とした。


「魔王軍財務顧問、アルト殿」


「どうも」


「市場を壊しているそうだな」


 開幕から物騒だなこの人。


「改善してるだけですよ」


「同じことだ」


 即答だった。


「市場は均衡で成り立つ。便利な仕組みは、その均衡を壊す」


 その口調は静かだ。


 だが断定的。


「預かり証。信用貸付。市場通信」


 グランは淡々と並べる。


「全部、“市場を加速させすぎる”」


「速い方が便利でしょう?」


「暴走も速くなる」


 沈黙。


 ……分かってる人だ。


「あなた」


 俺は少しだけ目を細める。


「市場嫌いなんですか?」


「逆だ」


 グランは笑った。


「市場を愛している」


 だから恐れている。


 そんな感じだった。


「市場は欲望で動く」


「はい」


「だからこそ、“遅さ”が必要だ」


 ベルクが小さく息を吐く。


「……なるほど」


「理解できるか」


「少しは」


 今までの十三商会って、


* 独占

* 操作

* 支配


のイメージだった。


 でも違う。


 こいつら、


> “市場暴走を管理する側”


でもあるのか。


「あなたの制度は危険だ」


 グランが俺を見る。


「誰でも金を借りられる」


「はい」


「誰でも市場へ参加できる」


「ええ」


「誰でも武装できる」


「そこは今問題になってますね」


 グランの目が細まる。


「分かっているなら止めろ」


「無理ですよ」


「なぜ」


「便利だからです」


 即答だった。


 前世でもそうだった。


 一度便利さを知った人間は戻らない。


「銀貨袋持ち歩くより、紙の方が楽です」


「……」


「情報が速い方が儲かる」


「……」


「融資があれば商売できる」


 だから市場は変わる。


 止まらない。


「それでも」


 グランは静かに言った。


「市場は、“一部の理性ある者”が制御しなければ壊れる」


 その瞬間。


 俺は理解した。


 この人。


 本気で“世界を守ってる”つもりなんだ。


 市場側から。


「十三商会って」


 俺は呟く。


「暴利組織じゃないんですね」


「暴利だけで百年も続かん」


 グランは即答した。


「我々は、“市場を安定させる”ことで巨大化した」


 なるほど。


 だから戦争を管理していた。


 だから物流を支配していた。


 だから信用を独占していた。


「……国家より厄介ですね」


「市場は国家より長生きだ」


 さらっと怖いこと言うな。


     ◆


 その時だった。


「報告!!」


 黒旗兵が駆け込んでくる。


「東市場で暴動です!」


「何?」


「融資商人が破産し始めています!」


 空気が変わった。


「破産?」


「銀価格下落で担保価値が崩壊!」


 ……来た。


 信用膨張の反動。


「借金返済不能者、多数!」


「市場が混乱しています!」


 グランが、静かにこちらを見た。


「始まったな」


「……何がです?」


「“信用崩壊”だ」


ここまでお読みいただき、本当にありがとうございました!


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