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『魔王城の地下で税金を計算してた俺、いつの間にか世界経済の黒幕になる』  作者: ニートは34歳まで
第一部 地下の税務官編

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第二十二話 紙切れ一枚の価値


「預かり証、一枚で銀貨十枚分です!」


「こっちでも使えますよ!」


 城下市場は、妙な熱気に包まれていた。

 商人たちが紙を数えている。

 昨日まで銀貨袋を抱えていた連中が、今日は羊皮紙を持ち歩いている。


「……変わるの早すぎません?」


 俺は市場を見ながら呟いた。


「便利だからな」


 隣で魔王が言う。

 いや、理解早いなこの人。


「実際、護衛費が激減しています」


 宰相が報告書を持ってくる。


「銀貨輸送が減ったので、盗賊被害も下がっている」


「でしょうね」


 現金輸送って危険なんだ。

 紙なら奪っても換金しにくい。


「あと」


 宰相が少し困った顔をした。


「酒場で“銀貨ダサい”という空気が出始めている」


「早いなぁ……」


 文化変わり始めている。

 前世でも電子決済が広がった時こんな感じだった。


「問題はここからです」


「何だ?」


「人間って、“紙そのもの”を信用し始めるんですよ」


 そこが危険。

 本来、預かり証は、


「銀貨と交換できる証明」


だった。

 だが今、市場では違う。

 最初から紙で払っている。

 つまり。


「銀貨に交換しなくても回り始めている……?」


 ベルクが低く呟く。


「はい」


 完全に通貨化が始まっている。


     ◆


 その日の夕方。

 魔王城の銀行舎では、奇妙な現象が起きていた。


「交換しない?」


 俺は窓口報告を見返す。


「はい」


 受付係が頷く。


「むしろ“預けたい”という者が増えています」


 沈黙。


「……始まったな」


 ベルクが小さく呟く。


「何がです?」


「信用膨張ですよ」


 預かり証が便利になる。

 人が預ける。

 銀行に金が集まる。

 貸し出しが増える。

 市場の金回りが加速する。


「今、市場に流れている“金”」


 ベルクが帳簿を見る。


「実際の銀保有量より多いですね?」


「ええ」


 信用創造だ。

 完全に。


「狂ってる」


 軍務卿が本気で引いていた。


「お前、“存在しない金”で市場回しているのか?」


「信用ってそういうものなので」


「怖いわ!」


 正常な反応である。


「ですが」


 俺は市場報告を見る。


「物流量は二倍近く伸びています」


 商売が増えた。

 流通速度が上がった。

 金が寝なくなった。


「つまり」


 魔王が言う。


「市場全体が加速しているのか」


「はい」


 それが金融の強さだ。

 現物以上に経済を動かせる。

 だが。

 当然。


「……歪みも出ますね」


 ベルクが低く言う。


「でしょうね」


 便利すぎるんだ。

 だから危険。


「具体的には?」


「借金です」


 沈黙。


「借金?」


「はい」


 今までは、大商人しか大金を扱えなかった。

 だが今は違う。

 預かり証。

 融資。

 信用保証。

 全部ある。


「つまり誰でも金を借りられる」


「そうです」


 前世でも同じだった。

 金融が広がると、必ず借金が膨らむ。


「既に増えていますよ」


 ベルクが帳簿を指差した。


「新規商人融資、先月比四倍です」


「早っ」


「しかも返済計画が甘い」


 あー。

 来たな。


「儲かると思って突っ込んでいる」


「市場が熱狂し始めている」


 完全にバブル初期だ。


「……なるほど」


 魔王が笑った。


「便利な仕組みほど、人を狂わせるわけか」


「はい」


 金が増えた気になる。

 儲かる気になる。

 市場が永遠に成長する気になる。

 でも。

 そんなわけない。


「で、どうする?」


「止めます」


「止まるのか?」


「止めないと終わるので」


 問題は方法だ。

 冷やしすぎても終わる。

 放置しても壊れる。


「……難しいですね」


 俺が呟くと。

 ベルクが、珍しく少し笑った。


「ええ」


 その目は、どこか愉快そうだった。


「ようやく、“市場の本当の怖さ”が見えてきましたね」


 その瞬間。

 外から鐘の音が響いた。

 警鐘。

 最近多いな、ほんと。


「今度は何です!?」


 兵士が飛び込んでくる。


「南街道で、商人集団が武装化しています!」


「……は?」


「借金で護衛団を雇い、“自前の交易路”を作ると!」


 沈黙。

 そして。

 ベルクが額を押さえた。


「最悪だ……」


「何がです?」


「金融で、“私人軍隊”が生まれ始めている」


ここまでお読みいただき、本当にありがとうございました!


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