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『魔王城の地下で税金を計算してた俺、いつの間にか世界経済の黒幕になる』  作者: ニートは34歳まで
第一部 地下の税務官編

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第二十一話 銀が多すぎる世界


 南部港。

 埠頭に並ぶ巨大船を見た瞬間、俺は頭を抱えたくなった。


「……多すぎる」


 銀塊。

 銀貨。

 精製前の銀鉱石。

 山だ。

 本当に山。


「何隻あります?」


「確認できるだけで三十二隻です!」


 兵士が叫ぶ。


「まだ沖にもいます!」


 終わった。

 いや終わってないけど、かなり嫌だ。


「十三商会、完全に本気ですね」


 ベルクも珍しく顔が硬い。


「ここまでやるか……」


「銀を大量投入すると何が起きる?」


 魔王が聞く。


「銀の価値が下がります」


「つまり?」


「通貨価値が死にます」


 今の魔王領通貨は銀本位に近い。

 つまり、“銀そのものに価値がある”前提で回っている。

 だから銀が市場に溢れると終わる。


「……なるほど」


 魔王が低く笑う。


「余の通貨を、“ただの金属”へ戻す気か」


「はい」


 しかも嫌らしい。

 これ、軍事力じゃ防げない。


「港封鎖します?」


 軍務卿が言う。


「船ごと沈めれば――」


「ダメです」


 俺は即答した。


「それやると、“魔王領通貨が負けた”って市場が判断します」


 市場は怖い。

 事実ではなく、印象で動く。


「じゃあ放置か?」


「もっとダメです」


 銀が暴落する。

 つまり。

 必要なのは第三の手。


「……吸収するしかない」


「吸収?」


 ベルクがこちらを見る。


「市場へ流れる前に、全部買います」


 沈黙。


「は?」


「え?」


「全部?」


 全員の反応が同じだった。


「無理だろう」


「普通は無理ですね」


 だが今回は違う。


「“預かり証”を使います」


 空気が止まる。


「……なるほど」


 最初に理解したのはベルクだった。


「現物銀じゃなく、“信用”で買うのか」


「はい」


 俺は頷く。


「十三商会は、“銀そのもの”をぶつけてきた」


「なら、こっちは“信用市場”で戦う」


 現物には限界がある。

 だが信用は違う。


「つまり」


 ベルクが低く呟く。


「銀価格戦争を、“通貨戦争”へ変えるわけですね」


「そうです」


 大量の銀?

 好きに流せばいい。

 でも。


「魔王領認証預かり証の方が便利」


なら、人はそっちを使う。


「……狂ってる」


 ベルクが本気で呟いた。


「銀を増やされて、“じゃあ金属使うのをやめます”って発想になるんですか」


「だって不便じゃないですか」


 重いし。

 盗まれるし。

 数えるの面倒だし。


「便利な方が勝つんですよ」


 それが市場だ。


     ◆


 三時間後。

 市場通信・特別号が配布された。

『銀貨大量流入について』

『魔王領は全量交換保証を継続』

『預かり証の利用推奨』

 そして。

 中央広場には、新しい看板。

『預かり証決済歓迎店舗』

 ざわめきが広がる。


「紙で払えるのか?」


「銀貨いらねぇのか?」


「便利なんじゃないか?」


 空気が変わる。

 十三商会が銀を増やすほど、


「銀使わなくていい仕組み」


の価値が上がっていく。


「……最悪だ」


 ベルクが頭を抱える。


「何でです?」


「市場の土台が変わっている」


 その目が真剣だった。


「今まで市場は、“現物資産”で動いていた」


「銀とか金とかですね」


「でもあなた、“信用そのもの”を流通させ始めている」


 つまり。

 経済ルール自体が変わる。


「危険です」


 ベルクは低く言った。


「それ、一度成功したら戻れませんよ」


「でしょうね」


「銀貨商人、鉱山、地方領主、全部敵になります」


「知っています」


 でも止まれない。

 もう始まっている。


「……理解しました」


 ベルクは静かに息を吐いた。


「あなた、本当に“市場そのもの”を変える気なんですね」


「最初からそのつもりですよ?」


 沈黙。

 その瞬間。

 遠くの市場から歓声が上がった。


「預かり証で払えたぞ!」


「銀貨数えなくていい!」


「軽っ!?」


 人々が笑っている。

 便利だから。

 それだけで。


「……ああ」


 ベルクが苦笑した。


「市場って、こうやって変わるんですね」


 理屈じゃない。

 便利な方へ。

 人が流れた瞬間、時代は変わる。


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