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『魔王城の地下で税金を計算してた俺、いつの間にか世界経済の黒幕になる』  作者: ニートは34歳まで
第一部 地下の税務官編

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第十七話 信用は、壊れる時が一番速い


 最初の異変は、小さかった。


「……ん?」


 俺は朝の報告書を見て、眉をひそめる。


「預かり証の交換率が落ちてる?」


 昨日まで銀貨一枚と同価値だった預かり証。


 だが今朝の市場では、


『証書十枚で銀貨九枚』


 そんな交換が起き始めていた。


「始まったか」


 隣でベルクが呟く。


「何がです?」


「信用不安ですよ」


 その声は妙に冷静だった。


「人は、“本当に交換できるのか?”と思った瞬間に逃げ始める」


 市場のざわめきが聞こえる。


 嫌な空気だ。


「原因は?」


「噂ですね」


 兵士が報告書を差し出す。


『魔王軍、銀準備不足』


『預かり証発行しすぎ』


『交換停止間近』


 あー。


 完全に銀行不安だ。


「十三商会?」


「ほぼ確実でしょう」


 しかも今回はうまい。


 完全な嘘じゃない。


 預かり証は確かに増えている。


 貸し出しも始めている。


 つまり、


“一斉交換されたら危ない”


のは事実だ。


「……なるほど」


 魔王が低く笑う。


「敵も学習しているな」


「笑い事じゃないですよ」


 これはかなり危険だ。


 取り付け騒ぎは連鎖する。


 一人が疑う。


 次に十人が不安になる。


 最後には全員が走る。


「市場は感情で動く」


 ベルクが静かに言う。


「そして恐怖は、利益より速い」


 ……本当に嫌なほど正しい。


     ◆


 昼。


 中央銀行舎――仮設だけど――の前には、人だかりができていた。


「交換だ!」


「今すぐ銀貨に変えろ!」


「先に潰れたら終わりだぞ!」


 怒号。


 押し合い。


 完全にパニック寸前。


「……早いな」


 俺は思わず呟く。


 制度を作るのは時間がかかる。


 でも壊れるのは、一瞬だ。


「どうする?」


 魔王が聞く。


「選択肢は三つです」


「ほう?」


「一つ目。全部交換に応じる」


「銀が尽きるな」


「はい」


 最悪、制度ごと死ぬ。


「二つ目。交換停止」


「暴動だな」


「ですね」


 信用崩壊確定。


「三つ目」


 俺は人混みを見る。


「“安心させる”」


 ベルクが小さく息を吐いた。


「……それが一番難しい」


「はい」


 だから市場は怖い。


 数字だけでは動かない。


「で、どうやる?」


「演出です」


「演出?」


 俺は笑った。


「市場って、結局“雰囲気”なので」


     ◆


 一時間後。


 中央広場。


 俺は、わざと人が集まる時間を選んだ。


「見ろ!」


「魔王だ!」


 ざわめき。


 群衆の中央を、魔王が歩く。


 その後ろには、銀貨箱を積んだ荷馬車。


 十台。


 二十台。


 三十台。


 大量。


「な、何だあれ……」


 人々が息を呑む。


 そして。


 魔王は、銀行舎の前で止まった。


「聞け」


 低い声が広場に響く。


「交換を望む者には、全て応じる」


 どよめき。


「銀が足りぬと思うなら持っていけ」


 そして。


 魔王は銀貨箱を蹴り開けた。


 銀貨が、陽光を反射して輝く。


「……派手ですね」


「演出なのだろう?」


「まあそうですけど」


 理解が早い。


「だが」


 ベルクが低く呟く。


「危険です」


「何が?」


「今、魔王自身が“信用保証”になった」


 沈黙。


 ……あ。


 確かに。


「国家信用じゃない」


 ベルクの目が細まる。


「“魔王個人への信用”が市場を支え始めている」


 それは強い。


 強すぎる。


 カリスマそのものが通貨価値になる。


「まずい?」


「短期的には最強です」


 ベルクは断言した。


「ですが、個人依存は必ず歪みます」


 その言葉は妙に重かった。


 だが今は。


 効果が先だった。


「……交換しなくても平気か?」


「魔王様が保証するなら……」


「慌てる必要ねぇか……?」


 空気が変わる。


 恐怖が、少しずつ薄れていく。


 列が止まり始める。


「なるほど」


 ベルクが静かに笑った。


「本当に、“市場心理”を理解してる」


「前世で嫌というほど見たので」


「前世?」


「こっちの話です」


 危ない危ない。


 だが、その瞬間。


 人混みの奥で、一人の男が叫んだ。


「騙されるな!!」


 空気が裂ける。


「魔王軍は銀貨を薄めてる!」


 ざわっ、と群衆が揺れる。


「証拠はある!」


 男は銀貨を掲げた。


「見ろ! 色が違う!」


 ……偽貨。


 最悪だ。


 しかもタイミングが完璧すぎる。


「十三商会……!」


 ベルクが低く呟く。


「ここで“通貨そのもの”を壊しに来たか」

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