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『魔王城の地下で税金を計算してた俺、いつの間にか世界経済の黒幕になる』  作者: ニートは34歳まで
第一部 地下の税務官編

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第十五話 世界初の新聞


「新聞?」


 宰相が眉をひそめる。


「何だそれは」


「定期的に情報をまとめて配る紙です」


 会議室に沈黙が落ちた。


「……伝令では駄目なのか?」


 軍務卿が聞く。


「遅いです」


「掲示板は?」


「届く範囲が狭い」


 問題は速度だ。


 市場は“今”動く。


 数日遅れの情報じゃ意味がない。


「噂に負けるんですよ」


 俺は言った。


「今の市場、正式情報が遅すぎる」


 だから酒場の噂が勝つ。


 行商人のデマが広がる。


 市場が恐怖で暴走する。


「なら」


 俺は机に紙束を置いた。


『魔王領市場通信』


 タイトルだけ書かれた試作品。


「こっちから先に情報を流します」


 宰相が紙をめくる。


「……相場一覧?」


「はい」


 麦価格。


 鉄価格。


 輸送量。


 到着予定。


 全部載せる。


「そんなもの公開してどうする」


「市場を安定させます」


 情報格差が大きいほど、混乱は儲かる。


 だから十三商会は情報を独占する。


「つまり」


 魔王が口元を吊り上げた。


「噂より速く動くのか」


「はい」


「面白い」


 この人、最近どんどん楽しそうになってるな。


 怖い。


     ◆


 三日後。


 城下市場。


「……何だこれ」


「紙?」


「字が多っ」


 人々が戸惑っていた。


 まあ当然だ。


 新聞文化なんて存在しない。


「無料配布です!」


 兵士たちが市場で紙を配っていく。


『北部不作、備蓄十分』


『今週の麦相場』


『南街道輸送再開』


 見出しを大きくした。


 読みやすさ重視。


「……なるほど」


 ベルクが感心したように呟く。


「市場情報を共有するんですか」


「はい」


「普通、商人は隠しますよ」


「独占したいならそうですね」


 だが今回は違う。


 目的は市場安定。


「それに」


 俺は笑った。


「正しい情報って、結構強いんですよ」


 噂は速い。


 でも曖昧だ。


 そこへ、


数字

記録

具体情報


を出すと、人は意外とそっちを見る。


「問題は読める人間が少ないことですね」


 ベルクが言う。


「そこは今後ですね」


 識字率問題。


 この世界かなり低い。


「あと」


 俺は紙面を指差した。


『本日の悪質商人』


 そこには、価格吊り上げで摘発された商人名が載っていた。


 ベルクが吹き出す。


「ははっ……!」


「何です?」


「いや、本当に容赦ないなと」


 だって必要だし。


「信用市場なんで」


「晒すんですか?」


「市場に判断材料渡してるだけですよ」


 前世で言うレビューサイトみたいなもんだ。


「……怖い」


 ベルクが本気で引いていた。


     ◆


 だが。


 問題はすぐ起きた。


「偽物です!」


 兵士が駆け込んでくる。


「市場通信の偽造版が出回っています!」


「早っ!?」


 まだ始めて四日だぞ!?


「内容は?」


「“北部大飢饉確定”“麦価格十倍へ”などと……」


「あー、完全に市場操作ですね」


 しかも悪質。


「十三商会か?」


「でしょうね」


 情報市場を壊しに来た。


 つまり逆に言えば、効いてる。


「どうします?」


 宰相が青ざめる。


「簡単です」


 俺は少し考えた。


「本物しか作れないようにする」


「どうやって」


 そこで。


 俺は、あの魔法陣を思い出した。


 契約術式。


 信用魔法。


「……認証印か」


「認証?」


「はい」


 紙の隅に、小さな魔法印を入れる」


「魔法で?」


「本物しか光らないようにします」


 沈黙。


 そして。


 ベルクが頭を抱えた。


「やめてください」


「何がです?」


「情報と信用を結びつけるの」


 その声は、本気で危機感が滲んでいた。


「それ、十三商会が一番嫌がるやつです」


「じゃあ正解ですね」


「違います」


 ベルクは断言した。


「それが完成したら、“国家が情報を支配できる”」


 その瞬間。


 俺は少しだけ固まった。


 ……あ。


 確かに。


 情報認証。


 信用保証。


 市場通信。


 全部繋がる。


「便利でしょう?」


「危険です」


 ベルクの目は真剣だった。


「情報は武器になります」


「市場操作してた側が言います?」


「だから分かるんですよ」


 その声は静かだった。


「“情報を握る者”がどれだけ危険か」


 沈黙。


 そしてそのとき。


 市場の外から歓声が聞こえた。


「本物だ!」


「認証印が光ってるぞ!」


「じゃあ偽物じゃねぇ!」


 人々が新聞を手に取っていく。


 信じ始めていた。


 “認証された情報”を。


「……始まったな」


 魔王が呟く。


「何がです?」


「情報戦だ」

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