盗賊団
一人で歩いて村に戻った。俺は普通なら三日の距離を、夜通し歩いて二日で帰った。村につく頃には、俺の体は汗と痛みでぼろぼろになっていた。
道場に戻ると、俺は次の日まで眠りこけた。
目を覚ましてからは、村の顔役から今日までの日当を受け取って、村の食堂でパンとスープにかぶりつき、そして浴びるように酒を飲んだ。美味くもない酒がこの村ではやたらと高い。クソ田舎め、とぼやいて、その恨みも酒と一緒に飲み込んだ。
金がなくなるまで酒を飲んでから、部屋に戻るところをカイナが見ていた。
「リナールさんは?」
「置いてきたよ。向こうでまだ仕事が残ってる」
「じゃあ、あんたは?」
「さあな。俺がリナールより役立たずだからじゃないか?」
「最低」
「知ってるよ」
俺は答えた。
知ってはいたが、それは自分では覆すことのできない摂理だった。今はただ摂理に従って睡眠と酒が欲しかった。
道場に戻ってから、師範とは何度か顔を合わせていたが、何も言われていなかった。
ベッドで眠りの底に沈んでいたら急に引き上げられた。
遠くで鐘がジャンジャンと鳴らされているのが頭に響いた。
今の時間は……太陽が高い。昼間か、それに近い時間だろう。
ふらつく体を無理やり起こして外に出る。村の通りは巣をつついたような大騒ぎだったが、何が原因なのかは分からなかった。村人が逃げるように右往左往している間も鐘はずっと鳴らされていた。
そのとき道場から師範が出てきた。師範は帯剣していた。
「一体何が――」
「敵襲だ」
短く答えると、師範は俺を無視してずかずかと歩き出した。その後ろにピタリをカイナがくっついている。彼女は俺を見下すように一瞥するが無視して行ってしまった。
俺は二人の後を追いかけた。
師範とカイナは公会堂に入った。すでに村長や村人が集まっていた。
「デレタまで使いを走らせて、援軍を要請しているところです」
村人が師範にそう説明しているところが耳に入った。
俺が公会堂に入ると、村人たちが一斉に俺の方を見たが、すぐに注意を目の前の机に戻した。部外者のことに構っていられる状況ではないのだろう。
机の上には村の周囲の地図らしきものが置かれていた。地図上の村の裏手にある山のところに、さっきまで師範への説明に使っていたのか、駒が置かれていた。
俺は師範と村人の会話を聞いて、うっすらと状況を推察した。
村の近くに盗賊団が現れたらしい。行商人が盗賊を偶然目撃したが、逃げようとしたのを盗賊に見つかって斬られた。そのまま目撃者が消されてしまうところだったが、偶然そこをパトロールしていた自警団が発見、救出して今は診療所で治療中だという。
盗賊団は、行商人が目撃しただけでも五人以上、馬と武器を揃えた、兵士の一団のようであった。
盗賊団は村の裏手の山に隠れているという。
そして目撃者によれば、盗賊団は黒と白の「狼の旗」をはためかせていたという。
旗の話が出たとき、公会堂に沈黙が走った。
(狼の旗に何かあるのか……?)
すべてを黙って聞いていた師範はゆっくり頷くと、
「盗賊団もまだこの地に来たばかりで、土地勘はない。少なくとも退路を確保するまでは襲撃には来ないだろう」
「……それにはどれくらいかかりそうですかな?」
「来るとしたら明日だろう。それ以上かければ、デレタからの援軍が間に合ってしまうからな。今からやつらを迎え撃つ準備をする。人手を出してくれ」
師範がテキパキと指示すると、村人たちはすがるように命令に何度も頷いた。
やがて村長が、後ろに立っていた俺の方を見た。
「あの……リナールさんは、おらんのかね?」
公会堂にいた、師範とカイナを除くすべての人が俺に注目した。
「そうだ! リナールさんがいればどんな盗賊団が来ても大丈夫だ!」
「あの決闘の奇跡をもう一度見せてくれ!」
「リナール! リナール!」
盛り上がる人たち。
俺は……重い口を開いた。
「リナールは……この村にはいない。街道の建設現場に残してきた」
一堂の顔に、一斉に失望の色が広がった。
同時に、俺に対する期待と興味が一斉に失われたのを感じた。
ああ、まただ。この感じ……いつもそうだ……。
俺はいつも、リナールのオマケなんだ。
村長は「ではすぐに、リナールさんのところへ使いを出しましょう」と話をまとめた。しかしリナールがいるところまではデレタ市よりも遠いのだ、間に合うはずがない。
「ライゼル」
そのとき、公会堂に入って初めて名前を呼ばれた。師範が、地図に目を落としたまま言った。
「人手が欲しい。お前も手を貸せ」
「俺……でも……」
「ここに居ない者を当てにしても仕方がない。おれはできることをやるだけだ。お前はどうなんだ?」
「ああ……分かった。やるよ」
「そうか。お前の腕がどれほど上がったか、期待するとしよう」
最後は師範らしくない一言があった。
師範なりに俺を激励しようとしてくれたのか。
師範の決定に、カイナは異を唱えなかったが。一切俺と目を合わせようとはしなかった。




