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48 東宮の悩み

 帝の子として生を受けた敦成親王は幼いころから母上や周囲の期待をされていたがそれを重いと感じたことはなかった。いずれ父上の帝の後を継いで政をするのだと言われ続けてそれが自分には励みになっていたからだ。


「今日の授業はここまでです。何かご質問はありますか」

「はい。ここが……」


 五つにになった年、母上が選んだ老師がやってきた。

 勉強は楽しく、成果が出るたびに周囲からは次期東宮と目されるようになった。それというのもその時の皇子は自分しかいなかったからに他ならない。


 母上が入内するまでに数人の妃が入内して皇子も二人生まれていたそうだが、二人の皇子は幼いころ亡くなっていた。その為、自分が成長するにつれて周囲の安堵と期待の入り混じった視線が常にあった。


「好き嫌いで人を判断してはいけませんよ」

「はい。母上」


 母上は皇子を産んだ唯一の女御として周囲から持て囃されても奢ることなくいつも優しく、時には厳しく自分を導いてくれた。


 自分が八つになった年、新しい女御に皇子が生まれ、柾良と名前がついた。すごく気になっていたがなかなか会うことはなく、数年が過ぎた。


 武術指導は式部卿宮が担当してくれた。他にも優秀な者はいたらしいが母の考えとは違っていたらしい。

 自分も式部卿宮の穏やかで雅な立ち振る舞いはとても参考になり一挙手一投足を真似ていた。そんな自分を母上や母上の女房達は将来が楽しみだと言ってくれ嬉しかった。


 式部卿宮は内密に柾良親王にも会わせてくれた。

 柾良親王の目標は自分だと言って、いずれ自分が帝になったとき支えるのだと憚らなかった。柾良親王の母君である承香殿女御もいつもお優しく自分こそが帝にふさわしいと言ってくれる。

 子供心に嬉しさと戸惑いが入り混じった感情があったが自分を支えると言った柾良親王の言葉は信じられるような気がした。それが柾良親王を守らなければと思うようになった。


 勉強や武術に夢中になっている自分でも噂話は入ってくる。

 次期東宮は第一皇子である自分と第二皇子の柾良親王で派閥が出来ていることを。数年前までは自分が東宮と目されていたのだがいつの間にか帝も自分を東宮にと口にすることが減っていた。


 そんな時でも母上は毅然とした態度を崩すことなく、口さがない者から色々言われても取り乱すことがなかった。そんな母上を見ていたので自分でも冷静でいられた。


 十四になった年、元服して母の元を離れて住まいを移した。

 元服して帝からお祝いの言葉をいただいたが、東宮にという言葉は出てこなかった。それが自分の感情に影を落とした。


 そのころには皇太后が母上に自分の臣下皇籍を進めていると言った話を聞くようになった。

 東宮としていずれは政をすることだけを考えていたのだが、元服して宮中に参内するようになって分かったのは、皇太后が人事ばかりか政にも口を出していることだった。

 帝が皇太后の元へ行きお伺いをたて、判断されているようだがそのどれもが皇太后の意向が反映されていた。


 愕然とした。これでは帝は皇太后の傀儡ではないか。憤りすら覚えた。


 最悪なのは元服して一年後、自分は東宮に立った。

 帝が自分を選んでくれたと思い、これで母上は皇太后から逃れることが出来ると思ったが違った。


 東宮になってすぐに皇太后から出されたのは東宮妃候補のリストだった。その者たちはすべて皇太后の息のかかった公達の姫君だった。


 元服の時に添臥として立った姫君は母上が選んだ者だったが一か月後、急な病で亡くなった。本来なら妃の一人でもいるはずだが皇太后の話にのらりくらりと躱していた。


 自分も帝と同様、傀儡としてしかその地位につけないのだと虚しくなった。

 東宮としての政も自分は経験が浅いからと言って皇太后が口を出してくる。何一つ自分で決めることが叶わない日々が続いた。


 ある日、皇太后の傀儡としての自分が嫌になって手元の仕事をほおり投げて母上に会いに行った。


 今までの努力、希望に満ちていた未来。そして今の状況が口をついて次々に出てきた。元服してから閉ざしていた心の内をさらけ出した。軽蔑されるかと思ったが、母上はそっと自分を抱きしめてくれた。


「辛いときは辛いと言っていいのです。我慢ばかりしていると心が病んでしまいますよ」

「ですが、母上。政をするものとしては弱音を吐くことは許されないのでは?」

「一人で抱え込まなくてもいいということです。政を得意とするものを傍に置き重用すればいいのです。それに帝も貴方の能力は評価しています。安心しなさい」


 母上の言葉に再び冷静になれた。帝が評価してくれているというのは半信半疑だったが、今の自分は東宮だ。このまま何も問題が起こらなければ帝位につくことが約束されている。それを利用しない手はない。

 自分一人では無理なことも仲間がいれば何とか出来るかもしれない。そう思ったら退屈な毎日が新鮮に思えてきた。

 宮中で出会う年の近い者たちを観察して仲間に出来そうなものを何人か見つけた。


 そのうちの一人が一年程前に都を騒がせた盗賊を捕まえた五位蔵人だ。

 元々の出自は低かったが大臣たちの屋敷も被害に遭っていた盗賊を捕まえたことで五位蔵人になった。

 宮中ではかなり頭の切れる者だとみた。実際、会って話をしてみると出来る男だった。時間をかけて取り込もうとしたのだが、あっさりバレた。


「東宮様はこの宮中をどう思われますか?」

「正しき者が正しい地位にいない」


 皇太后の口添えで能力がなくても高官につくことが出来る。その見返りが貢物であったり皇太后への協力だったりと皇太后は存分にその者たちを使っていた。


「そうです。適材適所に人がいなことで地方ではそれが弊害として出てきています。飢饉がいくつかの農村で起きていますが対応が遅れて近いうちに都にもその被害が出てくるでしょう」

「飢饉か」

「この事態を重く見ている者たちがいます。会ってはいただけますか?」


 五位蔵人から紹介されたのは左近少将や近衛中将たちだった。

 その者たちと話あった結果、更に数人の者たちと志を一つにすることが出来た。

 仲間が出来て安堵した直後、五位蔵人の言っていた飢饉の問題が宮中にまで影響を及ぼすことになった。


 恐ろしいことに皇太后が人事に口を出してその地位に就いたもの達は右往左往してしっかりとした対策すら立てることも出来ずに地方の飢饉は拡大していった。

 帝は何も出来ずにただ大臣達を叱りつけるだけで自ら動くこともなかった。

 

 動き出すには丁度良かった。

 宮中で燻り続けた者達を上手く操り、集めた仲間達で事に当たる許可を帝から取り付けた。

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