閉ざされた未来と救われた世界 3
扉を閉めると、しんと静まり返った。聞こえるのは傍らにいる彼女の吐息だけだ。
血の匂いはしなかった。それどころか、血の跡はどこにも残されていなかった。もみ消すと言っていただけあって、完璧な証拠隠滅だ。
本堂内の外陣の奥、一段高くなっている内陣。そこに仏壇はなく、代わりに大きな台座があった。何も置かれていない。おそらくはその上にダルマ――ソウシの頭があったのだろう。
レイとハルナはその台座の前に腰を下ろした。ハルナはレイに身を寄せ、頭をレイの肩にもたれかけている。
この場所を選んだのは、力の流れのようなものを感じたからだ。大陸全土に意識を及ばせることができるような、そんな感覚がある。
レイは思い返していた。自分の人生を振り返ったつもりだったが、浮かぶのはハルナのことばかりだった。もう彼女と一緒にいられないのだと思うと、不意に目頭が熱くなった。勘取られないように指で拭って、静かに息を吐いた。
そろそろだろうか。レイはハルナに別れを言おうと口を開きかける。そのとき、彼女の指がレイの指に絡んだ。顔を向けると、唇に柔らかく熱いものが触れた。
「いくのね?」
「ああ……。ありがとう、ハルナ。俺のことを愛してくれて。さよな――」
「違うわ、レイ。必ず私があなたを救う方法を見つけるもの。だから、さよならじゃないわ」
レイは溢れ出る彼女の涙を拭う。彼女もまた、レイの涙を拭った。
「分かった。待ってるよ」
「ええ。……もし、そのとき私がおばあちゃんになってても……また、愛してくれるかしら?」
おどけたように言う彼女は、精一杯に笑顔を作っていた。だから、レイも引き攣る頬を無理矢理動かして、笑顔っぽいものを作る。
お互いに作った不細工な顔に、二人は噴き出した。
「当たり前だろ。それより、よぼよぼのおばあちゃんになったハルナが俺のことを忘れてないかが心配だ」
「酷いわ。私は可愛いおばあちゃんになるのよ」
ああ、この時間が永遠に続けばいい。
レイはそっと目を閉じて、言った。
「ハルナ、俺は幸せだよ」
「レイ、私も幸せよ」
だったらこの先、永遠とも思える時間を君なしで生きていける。そんな風に思って、レイは最後の言葉を口にした。
「本当に、ありがとう」
言葉に尽くせない様々な感情を、その一言に込めた。
どうか、ハルナの未来が幸せでありますように。
「――瞬劫」
その言葉を最後に、レイは死んだように、眠ったように、動かなくなった。




