第九話:経済が活気にあふれだし、周辺国が狙いに来る
王都の朝は、以前とはまるで違っていた。
市場には人がいる。
声がある。
金が動いている。
「この小麦、昨日より安いぞ!」
「レヴァンティア経由の輸送が安定したらしい!」
「商人が戻ってきたってよ!」
かつて“止まっていた国”が、音を立てて動き始めていた。
その中心にあるのが、レヴァンティア王国。
そして、その変化の原因が――俺だ。
・経済は“静かに爆発する”
執務室。
側近が報告書を読み上げる。
「市場取引量、前月比三倍」
「税収、予測を大幅に上回っています」
「傭兵雇用も安定化」
俺は窓の外を見る。
「早いな」
側近が少し笑う。
「“早い”のではありません」
「今まで止まっていただけです」
その言葉に、少し納得する。
止まっていたものが動き出したときの速度は、異常だ。
・外の世界が気づく瞬間
だが、変化は“内側だけ”では終わらなかった。
数日後。
王城に報告が入る。
「殿下、北方都市国家より使者が到着しております」
「南方からも同時に接触要請が」
側近が顔を強ばらせる。
「同時……?」
俺は立ち上がる。
「来たか」
・最初の“訪問者”
謁見の間。
入ってきたのは、軍服を着た男だった。
鋭い目。
戦場の匂い。
「ガルディア王国、外務軍事連絡官だ」
名乗りは簡潔だった。
男は地図を見るなり言う。
「貴国の経済動向は把握している」
俺は椅子に座ったまま返す。
「それはどうも」
男は続ける。
「率直に言おう」
「貴国は“弱小国家”ではなくなった」
その言葉に、室内がざわつく。
側近が息を飲む。
男は一歩踏み出す。
「だが同時に、放置できない存在にもなった」
俺は目を細める。
「つまり?」
男は静かに言った。
「保護、または管理対象だ」
・“狙われる国”になる
その瞬間、空気が変わる。
側近が怒気を含んだ声を出す。
「それは事実上の従属要求だ!」
だが男は動じない。
「違う」
「“安定化”だ」
俺はゆっくり立ち上がる。
「安定化ね」
「便利な言葉だな」
男は一切表情を変えない。
「この地域に資源の流れが生まれている」
「魔鉱石、交易路、傭兵市場」
「すべてが貴国を中心に動き始めている」
「それを放置する国家はない」
・外から見た“レヴァンティア”
俺はようやく理解する。
(ああ、そうか)
(もう“弱い国”じゃない)
(“中心になり始めた国”か)
男は静かに続ける。
「我が国は正式な交渉を求める」
「場合によっては軍事的保護も含めてだ」
その瞬間、側近が低く呟く。
「……戦争前夜ですね」
・王子の判断
場が緊張する中、俺は一歩前に出る。
「一ついいか」
男が振り向く。
「何だ」
俺は静かに言う。
「この国はまだ“売ってない”」
男の眉が動く。
「売る?」
俺は続ける。
「保護とか管理とか、好きに言えばいい」
「でもな」
「この国のルールを決めるのは俺だ」
沈黙。
男はわずかに目を細める。
「……傲慢だな」
俺は肩をすくめる。
「今さらだろ」
・帰り際の一言
男が去る前に言う。
「忠告しておく」
「この規模の変化は、必ず戦争を呼ぶ」
俺は答える。
「知ってる」
扉が閉まる。
静寂。
側近が震える声で言う。
「殿下……ついに来ますね」
俺は窓の外を見る。
市場はまだ賑わっている。
だが空気だけが少し変わった。
“見られている国”の空気だ。
俺は小さく呟く。
「やっとスタートラインか」
(経済が動けば、戦争が動く)
(でもまだ、こちらからは動かない)
(動くのは、向こうだ)




