第八話:兵士を雇い、カタパルトを開発する
「戦争をした瞬間、この国は負ける。」
だからまだ俺は戦争をしない。
王都の訓練場は、乾いた風が吹いていた。
錆びた剣、崩れかけた盾、動きの鈍い兵士たち。
正直に言えば、“軍”と呼ぶのも怪しい。
側近が横で報告する。
「現状の常備兵は約三千。ですが実働は半数以下です」
「装備更新の予算は……ありません」
俺は黙って兵士たちを見た。
「……弱いな」
その一言で、空気が凍る。
兵士の一人が反応する。
「申し訳ありません、殿下!」
俺は首を振る。
「責めてない」
「事実を言っただけだ」
・傭兵の導入
俺は地図を広げる。
「正規軍だけで戦うのは無理だ」
側近が即座に言う。
「では徴兵を?」
「違う」
俺は指で一点を叩く。
「外から借りる」
数日後。
王都外縁の広場。
荒くれた男たちが集まっていた。
鎧はバラバラ、目つきは鋭い。
傭兵団だ。
リーダー格の男が笑う。
「こんな弱小国家が俺たちを雇うって?」
「正気か?」
周囲が笑う。
その中を、俺は歩いていく。
「正気だよ」
男は鼻で笑う。
「金はあるのか?」
俺は袋を投げる。
ドン、と重い音。
男の顔が変わる。
「……本物だな」
俺は言う。
「条件は一つ」
「俺の命令で動け」
男は笑う。
「面白い」
「この国が何をさせるつもりだ?」
俺は静かに言った。
「勝たせる」
空気が変わった。
・兵器は“作る”
城内、工房跡。
俺は設計図を広げた。
側近が覗き込む。
「これは……?」
「カタパルトだ」
「投石機……ですか?」
俺は頷く。
「ただの投石じゃない」
「“距離で勝つための装置”だ」
側近は困惑する。
「ですが我が国には技術者が……」
その時、傭兵団の一人が口を挟む。
「こういうのは得意だ」
皆が振り向く。
リーダーの男が肩をすくめる。
「昔、攻城戦専門でな」
「城を壊す側だったが……逆もできる」
俺は即決する。
「採用」
側近が驚く。
「殿下、軍の設計に傭兵を……?」
俺は答える。
「戦争は専門家に任せろ」
「俺は“勝ち方”を決める」
・改造された兵器
数日後。
訓練場の外。
木製の巨大な構造物が組み上がっていた。
だが普通のカタパルトではない。
二段構造。
可動式アーム。
魔鉱石の補強材が組み込まれている。
側近が呆然とする。
「……こんな速度で?」
傭兵が笑う。
「金と指示があればな」
俺は装置を見る。
「試射する」
兵士たちが息を呑む。
石が装填される。
張り詰めた空気。
そして――
「発射」
ドンッ!!
空気を裂く音。
石は通常の倍以上の距離を飛び、訓練場の外壁に直撃した。
壁がひび割れる。
沈黙。
兵士の一人が呟く。
「……嘘だろ」
・戦争ではなく“準備”
側近が震える声で言う。
「殿下……これほどの兵器があれば……」
俺は首を振る。
「まだ足りない」
「これは“戦争用”じゃない」
「“戦争を終わらせるための準備”だ」
側近が息を呑む。
「終わらせる……?」
俺はカタパルトを見上げる。
「撃つ前に勝つ」
「それが一番安い」
夜。
王都の外。
新型カタパルトが静かに並ぶ。
傭兵たちが笑いながら整備している。
兵士たちはそれを見ているだけだが、表情が少し変わっていた。
“戦えそうだ”という顔に。
俺は空を見上げる。
(まだ戦争はしない)
(でも、戦争はもう終わり始めてる)
最後に一言だけ。
「次は実戦だ」




