第五話:資源の開発(魔鉱石と海の二重起動)
塩田が回り始めてから、国の空気が少しだけ変わった。
ほんのわずかだが、“動き”が戻っている。
商人が港に顔を出す回数が増えた。
役人の会話に「輸入削減」という単語が混ざるようになった。
だが俺にとっては、まだ序章だ。
本丸は別にある。
「地下だな」
執務室の地図の中央に、指を置く。
そこには広大な魔鉱石の鉱脈が描かれている。
側近が不安げに口を開く。
「殿下……魔鉱石の採掘は、これまで何度も試みられましたが……」
「失敗してるんだろ」
「はい。採掘技術が未熟で、崩落事故も多く……採算が取れておりません」
俺は頷く。
(つまり“掘れない資源”扱いか)
それは資源じゃない。
ただの“眠ってる爆弾”だ。
「掘り方が悪いだけだ」
俺は即答する。
側近が目を丸くする。
「掘り方、ですか?」
「そうだ」
俺は地図を指でなぞる。
「今までのやり方は“真下に掘るだけ”だろ」
側近は沈黙したあと、小さく頷いた。
「はい……伝統的には」
「そりゃ崩れる」
俺は即座に切り捨てる。
「魔鉱石は“層”だ。圧力の逃げ道を作らずに掘れば当然潰れる」
側近は息を呑む。
「では……どうすれば」
俺は指を三本立てた。
「三つ」
「①分散掘削」「②圧力逃がし」「③段階採掘」
側近は完全に理解が追いついていない顔だ。
だが構わない。
現場で見せる方が早い。
――数日後。
俺は実際に坑道へ降りた。
暗い。湿っている。空気が重い。
旧来の坑道は、ただの“穴”だった。
無計画に掘られ、途中で崩落した跡がいくつも残っている。
「これじゃ事故るのも当然だな」
俺は壁を軽く叩く。
「構造がない」
作業員たちが不安そうに見ている。
「殿下、本当にここを再開するのですか?」
「する」
即答だ。
「ただし、やり方を変える」
俺はまず最初に“支柱”を指示した。
ただの木ではない。
魔鉱石の圧力に耐えるよう、金属混合補強材を流し込む。
次に“逃がし坑”。
圧力が一点に集中しないよう、横方向に分散するトンネルを作る。
そして最後に――
「ここだ」
俺は地図上の一点を指す。
「ここから層を削る」
側近が呟く。
「……まるで設計図ですね」
「設計してるんだよ」
俺は即答した。
「今までが適当すぎただけだ」
数週間後。
最初の魔鉱石が採れた。
黒く光る鉱石。
ただの石ではない。
内部に微細な魔力の流れが見える。
側近の声が震える。
「……これが、我が国に眠っていた資源……」
俺はそれを手に取る。
重い。だが扱える。
「これで“軍”が作れる」
側近が息を呑む。
「軍……ですか」
「武器だよ」
俺は静かに続ける。
「塩で経済を回した」
「次は魔鉱石で“力”を作る」
その時、港から報告が入る。
――塩の輸出開始。
――周辺都市が購入を打診。
側近が驚く。
「殿下……塩が……もう外貨を生み始めています」
俺は頷く。
「想定通りだ」
そして魔鉱石を見下ろす。
「経済と軍事は別じゃない」
「順番の問題だ」
海では塩が回り始めた。
地下では魔鉱石が掘り出され始めた。
この国はようやく――
“資源国家”として目を覚ましつつあった。
俺は地図を見下ろす。
「次は港湾整備だな」
「海運を取る」
静かに、だが確実に。
この国は“弱小”から“拡張国家”へと変わり始めていた。




