第三話:王子の結論
俺は地図を広げた。
周囲には三つの都市国家。
どれもこの国より圧倒的に強い。
軍事は負ける。外交も無理。正面戦争は論外だ。
だが一つだけ、違和感があった。
「この国、資源はあるんだな」
側近が頷く。
「はい。ただ、活用できておりません」
俺は続ける。
「魔鉱石か」
側近が一瞬驚く。
「ご存じなのですか?」
「なんとなくな」
俺は視線を地図に戻す。
(ゲームなら“初期未開放リソース”ってやつだ)
(つまり、伸び代だけはある)
俺はゆっくり息を吐いた。
「……あ、これ詰みじゃないな」
側近が顔を上げる。
「と申しますと?」
俺は立ち上がる。
「この国、ちゃんと“国として機能させる”」
少し間を置いて、続ける。
「そのついでに」
「近隣都市、全部取りにいく」
空気が止まった。
側近の顔が引きつる。
「……それは、宣戦布告になります」
俺は肩をすくめる。
「もう既に、されてるようなもんだろ」
だがその時、俺の視線は“海”に戻っていた。
そして、昨日の報告が頭に引っかかる。
――塩を輸入している。
海があるのに。
港があるのに。
(……いや、これ本当に意味わからん)
俺は地図を指で叩いた。
「この海、塩田はあるって言ったな」
側近が頷く。
「はい。ただし整備が止まっており、生産量は微量です」
「技術がないだけか」
「はい。結晶化工程と濃縮工程が未整備で……」
「なるほど」
俺はそこで、はっきり理解した。
(じゃあ“作れる”じゃなくて“作り方を知らない”だけだ)
静かに息を吸う。
「塩、国産化するぞ」
側近が固まる。
「……国産化、ですか?」
「海があるのに輸入してる時点でバグだ」
俺は窓の外の海を指す。
「まずここに、塩の生産ラインを作る」
「塩田を再設計して、蒸発効率上げる」
「さらに濃縮魔法か魔鉱フィルターを使って純度上げる」
側近は完全に言葉を失っていた。
「殿下、それは……国家事業どころか産業革命レベルの話です」
俺は軽く笑う。
「だからやるんだろ」
机に手を置く。
乾いた音が鳴る。
「軍が弱いなら、軍を強くする前に“金の流れ”を変える」
「塩は生活必需品だ。ここを握れば国家は変わる」
少し間を置いて、続ける。
「魔鉱石で武器を作るのは後だ」
「まずは“塩で国を回す”」
側近は息を呑んだまま動かない。
俺はさらに続ける。
「それともう一つ」
視線を上げる。
「塩だけじゃない」
「この国、海に面してるってことは――」
「全部取れる」
側近が小さく声を漏らす。
「全部……とは?」
俺は指を一本立てる。
「漁業」
もう一本。
「交易港」
さらに一本。
「海運」
そして最後に、海を指差す。
「外貨」
静寂。
俺は確信する。
(この国は弱いんじゃない)
(経済を“起動してない”だけだ)
ゆっくり息を吐く。
「資源があるなら話は早い」
「まず塩で国内を回す」
「次に魔鉱石で軍事を作る」
「そのあと、近隣都市を経済で飲み込む」
側近の声が、ようやく絞り出される。
「……それは侵略ではなく……」
俺は即答する。
「経済制圧だ」
窓の外。
海が静かに光っていた。
その瞬間、この国の未来図が一つにまとまる。
“弱小国家”ではない。
未起動資源国家。
そして俺は、そのスイッチを入れる役だった。




