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弱小国の王子だったので、近隣都市を制圧します  作者: レモンティー


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第二話:弱小国家の現実

執務室に案内されたとき、俺はすぐに悟った。

ここは“国”の形をしているだけだ。

机の上に積まれた報告書をめくる。

・軍事力:周辺最下位

・騎士団:名ばかり、装備は旧式

・財政:慢性的赤字

・農業:干ばつ依存、収穫不安定

・外交:ほぼ軽視対象

最後の一行が、特にひどい。

「周辺諸国は本国を“緩衝地帯”として扱っている」

緩衝地帯。

つまり――国ではなく“空白”だ。

人が住んでいるだけの、地図上の隙間。

側近が静かに説明する。

「殿下。我が国は現在、独立国家というより“放置された領域”に近い状態です」

淡々とした口調だった。

慣れているのだろう。

俺は窓の外を見る。

城下町は静かだった。

人はいる。建物もある。

だが“動き”がない。

生きているのに、止まっている。

「これ……詰みでは?」

思わず口に出す。

側近は少しだけ間を置いて答えた。

「いいえ。まだ“延命”は可能です」

「延命?」

「周辺国に吸収されるまでの時間を稼ぐことです」

俺はその言葉を聞いて、理解する。

この国には“未来”が前提として存在していない。

あるのは、消えるまでの時間だけだ。

そしてもう一つ。

側近が、付け加えるように言った。

「ただし一つだけ……他国がこの国をすぐに滅ぼさない理由があります」

「理由?」

「資源です」

俺は顔を上げる。

「資源?」

側近は地図の下層を指差した。

「この国の地下には、魔鉱石の鉱脈が広がっています」

「ただし採掘技術がなく、ほぼ未開封のままです」

沈黙。

俺はその瞬間、理解した。

(……なるほどな)

(弱いんじゃない。“使ってないだけ”か)

さらに側近は、少し言いづらそうに続けた。

「加えて、もう一つ問題があります」

「まだあるのか」

「はい」

地図が、海側へと滑る。

青く描かれた領海。

「この国は海に面しています」

「それなのに――塩を外部から購入しています」

「……は?」

一瞬、頭が追いつかなかった。

「塩を?」

「はい。国内に塩田はありますが整備が止まっており、精製設備も不足しています。そのため安定供給ができず、結果として輸入に依存しています」

俺は地図を見直す。

海はある。港もある。

それなのに塩を買っている。

しかも輸入。

「それ、国家として成立してる?」

思わず本音が漏れる。

側近は視線を伏せたまま答えた。

「生活必需品であるため、止めることはできません。現在、塩の輸入費は国家予算の約一割を占めています」

「一割って……」

笑えない数字だ。

軍事、農業、財政。

どれも問題だらけで、そこに“塩依存”。

俺は額に手を当てる。

(ここまで揃ってると、逆に才能だろ)

だが、皮肉を言っても現実は変わらない。

この国は、確かに“弱い”。

だがそれ以上に――

「……使ってない」

俺は呟く。

側近が顔を上げる。

「何を……ですか?」

俺は地図を指で叩いた。

「全部だよ」

地下の魔鉱石。

海。

塩。

農地。

全部、あるのに回っていない。

「軍事が弱いんじゃない。経済が死んでるんでもない」

「ただ、“設計されてないだけ”だ」

静かに立ち上がる。

窓の外に目を向けた。

海が見える。

遠く、水平線が光っていた。

「塩を輸入してる国が、海を持ってるとか冗談だろ」

小さく笑う。

「ここ、金じゃなくて“構造”の問題だな」

側近は何も言わなかった。

ただ、俺の言葉を理解しようとしている顔だった。

俺は机に手を置く。

乾いた音が響く。

「いいじゃないか」

「壊れてるんじゃない」

「まだ“組み上がってない”だけだ」

この瞬間。

この国の見え方が変わった。

“弱小国家”ではない。

再設計待ちの、巨大な未完成資源だった。

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