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弱小国の王子だったので、近隣都市を制圧します  作者: レモンティー


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第一話:王子、そして“終わってる国”

目を開けた瞬間、まず感じたのは違和感だった。

天井は高い。だが装飾は妙に質素で、ところどころ補修の跡がある。

壁の石材はくすみ、かつての栄華が剥がれ落ちたように見えた。

空気は乾いている。どこか、貧しい匂いがした。

「……どこだ、ここ」

声を出した瞬間、自分でも気づく。

若い。

そして、やけに“通る声”だ。

喉に力を入れていないのに、部屋の奥まで響く。

違和感を覚えながら、ゆっくりと身体を起こす。

そのときだった。

「お目覚めになられましたか、レオン殿下」

扉が開き、執事風の男が入ってくる。

だがその表情は疲れている。

「本日は謁見の予定がございます。陛下と、第一・第二王子のご同席です」

「……陛下?」

――カチリ。

視界が一瞬だけ白くなる。

「っ……」

息が止まる。

立っているのに、床の感覚が遠のく。

耳の奥で、知らないはずの声が重なり始める。


・記憶の断片

数字が流れる。

地図が広がる。

戦略、経済、国家運営、外交理論。

そして――崩壊シナリオ。

(ここは……)

(“放置された緩衝国家”)

見たこともないはずの言葉が、当然のように意味を持つ。

さらに映像が刺さる。

・魔鉱石の埋蔵分布

・海運ルートの死線

・塩田の放棄履歴

・周辺国の勢力均衡図

それは知識ではなく、“設計図”だった。

そして最後に。

一人の男の姿が浮かぶ。

同じ顔。

同じ名前。

――レオン。

この国の王子として、改革案を出し続けた記録。

だがそれはすべて“握り潰された”。

理由は単純だった。

この国は強くなってはいけなかった。

存在し続けるために、“弱くあるように管理されていた”。

「……はは」

思わず笑いが漏れる。

執事が一歩下がる。

「殿下……?」

だが俺はもう、その声を遠くに感じていた。

頭の中で、線が繋がる。

バラバラだった情報が、一枚の構造になる。

この国は終わっていない。

壊れてもいない。

ただ――

“動かないように設計されている”だけだ。


・王との対面

謁見の間。

玉座に座る男は、明らかに衰えていた。

咳を一つしてから、ゆっくりとこちらを見る。

「レオン……来たか」

その声は弱いが、まだ威厳だけは残っていた。

この男が“王”なのだと、直感で分かる。

俺が一歩進むと、隣から声がした。

「兄上、今日はやけに顔色がいいですね」

振り向くと、もう一人の青年が立っていた。

軽い笑みを浮かべているが、目は笑っていない。

記憶が流れ込む。

第二王子・アルベルト。

政治派閥の中心にいる男。

「アルベルト……」

俺が名前を口にすると、彼は肩をすくめた。

「覚えていてくださって光栄です」

その言い方が妙に引っかかる。

王が咳をしながら口を開く。

「やめよ……兄弟で争う場ではない」

だが空気はすでに重かった。

アルベルトが小さく笑う。

「争いではありませんよ、父上」

「ただの……現実です」

その言葉に、玉座の男がわずかに眉をひそめる。

・崩れかけた王国

王が続ける。

「レオンよ……最近の報告は見たか」

俺は少し間を置いて答える。

「見ました」

軍事、財政、外交。

全部、最悪だった。

王はゆっくり息を吐く。

「この国はな……もう昔のようにはいかぬ」

アルベルトが口を挟む。

「父上、それは“昔からそう”です」

「今さら取り繕う方が無駄でしょう」

王の顔がわずかに曇る。

「アルベルト……」

だがアルベルトは止まらない。

「軍は動かせない。金はない。周辺国は我が国を緩衝地帯扱い」

「つまり、存在していないのと同じです」

沈黙。

その言葉はあまりにも軽く、そして残酷だった。


・“王子”という立場

王がこちらを見る。

「レオン……お前はどう思う」

一気に視線が集まる。

アルベルトもこちらを見る。

試すような目だ。

俺は少しだけ考えてから口を開く。

「……詰みではないと思います」

アルベルトが小さく笑う。

「ほう」

「楽観的ですね、兄上」

俺は続ける。

「ただし、このままなら終わる」

王が静かに言う。

「では、どうする」

その瞬間、部屋の空気が変わる。

ここが“王子としての最初の分岐点”だと分かる。

俺はゆっくり言った。

「立て直します」

アルベルトが目を細める。

「立て直す?」

「この国を?」

俺は頷く。

「はい」

少し間を置いて、続ける。

「そして、そのために必要なら……近隣も変えます」

その瞬間、王が小さく息を飲む。

アルベルトは一瞬だけ無表情になったあと、ふっと笑った。

「面白いことを言う」

「弱小国家の王子が、まだ夢を見ているとは」

だが俺は視線を外さない。

(夢じゃない)

(これは“設計”だ)


王が静かに言う。

「レオン……お前に任せる仕事が増えるかもしれぬな」

アルベルトがすぐに返す。

「父上、それは危険です」

「兄上はまだ――」

王は手を上げて制した。

「よい」

短い言葉。

だがそれが、この国の“決定の重さ”だった。

俺はその場に立ち尽くしながら理解する。

この国はすでに壊れている。

だが同時に――

まだ“誰かが動けば変わる余地”だけは残っている。

アルベルトが横目で言う。

「兄上、せいぜい期待していますよ」

その声には、明確な警戒が混じっていた。

俺は静かに息を吐く。

(ここからだな)

そして思う。

この国は、終わっている。

だが――まだ“終わり方”は決まっていない。

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