第二十八話:崩れる国 ― パンと鉄の値段
・敵国 ― 市場
朝。
だが活気はない。
並んでいるのは人だけ。
商人が淡々と告げる。
「値上がりだ」
ざわめき。
「またかよ!!」
「昨日より高いじゃねぇか!!」
商人は肩をすくめる。
「仕入れが前は二倍だったが今日から三倍だ」
「売値も今日から三倍になる」
一人の男が怒鳴る。
「ふざけるな!!」
「そんな値段で誰が買える!!」
静かに返る。
「買えないなら、後ろに並んでる奴が買う」
沈黙。
列の後ろ。
誰も動かない。
ただ、順番を待っている。
・飢え
母親が子供を抱える。
「もう少しだからね」
子供は力なく頷く。
「……お腹すいた」
前の男が振り返る。
少し迷い――パンを半分差し出す。
「……分けてやる」
母親が目を見開く。
「でも……」
男は言う。
「どうせ一個じゃ足りねぇ」
一拍。
「なら、二人で足りねぇ方がマシだ」
静かな涙。
・怒り
別の場所。
怒号。
「もう我慢できるか!!」
「軍が食料を持って行ったせいだ!!」
「全部あいつらのせいだ!!」
「王は何をしてる!!」
石が投げられる。
窓が割れる。
「食わせろ!!」
「税を下げろ!!」
「ふざけるな!!」
暴動は、自然に広がっていく。
・兵士
通り。
鎧を着た兵士たち。
だが――数が少ない。
一人が呟く。
「……装備、足りねぇな」
別の兵が剣を見る。
「これ、古いままだぞ」
「新しいのは?」
返ってくる答え。
「ない」
沈黙。
・敵国の鍛冶場
火はある。
だが、材料がない。
鍛冶職人が吐き捨てる。
「鉄が来ねぇ」
「金もねぇ」
別の職人が言う。
「軍の注文は?」
「全部後払いだとよ」
笑うしかない。
「国が金ねぇんだ 鉄もねぇ…」
・敵国王都
報告が重なる。
「暴動、拡大中」
「地方都市でも同様の動きが」
「兵の装備更新、停止」
「鍛冶職人の離脱、多数」
王の額に汗が浮かぶ。
「なぜだ……」
誰も答えない。
分かっているからだ。
「……金がないのか」
側近が答える。
「はい……」
「食糧購入に資金を使い切り……」
王が歯を食いしばる。
「武具は……」
「製造不能です」
沈黙。
重い沈黙。
・民衆
「戦う前に死ぬぞ……」
「もう終わりだ」
「逃げるしかない」
人が動き始める。
国の外へ。
生きるために。
・レヴァンティア
門の前。
列はさらに伸びる。
「受け入れろ」
兵士が言う。
「またかよ……」
笑う声。
「どんだけ来るんだよ」
・王都・レオン
報告。
「敵国、暴動発生」
「軍備再建、不可」
「人口流出、増加」
副官が言う。
「完全に詰んだな」
アルベルトも頷く。
「……戦わずして崩壊しています」
レオンは短く言う。
「違う」
一拍。
「戦っている」
二人が見る。
レオンは続ける。
「相手は剣じゃない」
「価格だ」
副官が苦笑する。
「最悪ですね」
レオンは地図を見る。
崩れかけた国。
アルベルトはしずかに笑う。
剣は折れた。
盾も消えた。
残ったのは――
金と飢え。




