第二十七話・売る側の戦争 ― 飢えは金になる
・敵国 ― 食糧崩壊
荒れた市場。
棚は空。
「……何もない」
「パンは!?パンはどこだ!!」
「もう三日入ってきてない!」
怒号。
混乱。
一人の商人が叫ぶ。
「軍に全部持っていかれたんだ!」
別の男が吐き捨てる。
「その軍も壊滅したって話だろ……!」
静寂。
誰も否定しない。
母親が子供を抱きしめる。
「……どうするの」
子供は弱々しく言う。
「お腹、すいた……」
・王都
「報告しろ」
王の声が、重く響いた。
側近は青ざめた顔のまま、言葉を絞り出す。
「……備蓄、ほぼ消失しております」
「鹵獲された食糧が想定以上で……」
「流通も停止。地方でも飢餓が発生し始めています」
次の瞬間、王が机を叩いた。
「なぜだ!!」
「食料や物資を奪い取る計画だったではないか!!」
「なぜ、またもや奪われる!!」
誰も答えられない。
沈黙だけが広がる。
――理由は、ただ一つ。
“敗北”。
それ以外に、なかった。
・レヴァンティア
倉庫。
山のような食糧。
副官が笑う。
「……余っています」
レオンは短く答える。
「売れ」
副官が目を細める。
「……どこに?」
レオンは一言。
「敵国」
沈黙。
そして――
笑い。
「ははっ……マジかよ」
・積み出し
荷車が並ぶ。
大量の食糧それに物資。
兵士が言う。
「これ、さっきまで敵のもんだったよな」
別の兵が笑う。
「今は金の塊だ」
商人が指示を飛ばす。
「崩すな!品質を落とすな!」
「高値で売るんだぞ!」
・レヴァンティア王都・鍛冶区画
火が、唸る。
ゴウ、と炉が鳴り、赤熱した鉄が打ち据えられる。
カン――! カン――!
規則正しい音が、街の一角に響いていた。
「次だ、持ってこい!」
鍛冶職人が怒鳴る。
運び込まれてくるのは――鹵獲品の武具。
折れかけた剣。
歪んだ槍。
血の跡が残る鎧。
「……敵のもんか」
若い職人が呟く。
「質は悪くねぇな」
「だが、このままじゃ使えねぇ。全部、打ち直しだ」
年嵩の職人が吐き捨てる。
別の男が、刃を指で弾く。
「……焼きが甘い」
「急造品だな。数だけ揃えたか」
「なら、こっちで“まとも”にしてやるだけだ」
再び、槌が振り下ろされる。
カン――!!
火花が散る。
奪われたはずの武器は、今――
より強く、より鋭く、姿を変えていく。
「いいか、手を抜くなよ」
「これはもう、“俺たちの武器”だ」
誰かが言った。
その一言に、誰も異を唱えない。
火は絶えず、
鉄は唸り、
武器は生まれ変わる。
敗北の残骸は、
次の勝利の刃へと――変わっていく。
・交渉
敵国からの使者。
顔はやつれている。
「……食糧を、譲っていただきたい」
副官がにやりと笑う。
「いくら出せる?」
使者が絞り出す。
「通常価格で……」
副官が吹き出す。
「は?」
空気が凍る。
レオンが口を開く。
「三倍だ」
使者が顔を上げる。
「……なっ……」
「それでは民が――」
レオンは遮る。
「死ぬな」
一拍。
「買わなければな」
使者の拳が震える。
「……足元を見ているのか」
副官が笑う。
「違うな」
「市場だ」
レオンは続ける。
「そちらの国では需要がある」
「供給はここにある」
「価格は決まっている」
静かに。
「嫌なら断れ」
沈黙。
長い沈黙。
やがて――
「……買います」
絞り出すような声。
・敵国 ― 再び市場
パンが並ぶ。
だが――高い。
「……高すぎる」
「買えねぇ……」
一人の男が金貨を握る。
震える手で差し出す。
「……これで、どれだけだ」
商人が淡々と答える。
「半分だ」
男は歯を食いしばる。
それでも払う。
子供がパンにかぶりつく。
泣きながら。
・王都
側近が報告する。
「……食糧、確保しました」
王は何も言わない。
ただ一言。
「……屈辱だ」
・レヴァンティア
副官が笑う。
「奪って、売って、また儲けるですか」
アルベルトが呟く。
「……これが戦争」
レオンは首を振る。
「違う」
一拍。
「これは流通だ」
副官が肩をすくめる。
「言い方を変えてるだけでは?」
レオンは街を見る。
「止めなければ、勝手に回る」
静かに。
「だから止めない」
戦場は消えた。
だが、金は流れる。
飢えもまた、流れる。
そしてそれを握る者だけが――
戦わずに勝ち続ける。
「次も売る」
レオンの一言。
それは宣言ではない。
ただの“事実”だった。




