第二十五話:逃げ道 ― 仕掛けられた死
夜明け前。
レヴァンティアの城壁の外側では、すでに軍が動き始めていた。
敵国軍――潜入者の報告を信じた三国連合の中で唯一戦うことを諦めなかった国。
その進軍は迷いがない。
「ここだ」
「この突破路で一気に崩す」
「レヴァンティアは内部が壊れている」
将軍たちは、確信していた。
それが“与えられた確信”だとも知らずに。
・逃げ道の選択
敵軍は二手に分かれる。
一つは正面戦力。
もう一つは――
「逃げ道からの奇襲部隊」
将軍の一人が言う。
「逃げ道から侵入すれば終わる」
「あの投石器も城の内部からでは使いようがない」
「城の内側と外側からの挟み撃ちにより混乱した兵は統率できまい」
「ここで首を落とし先の戦いで死んでいった将兵の仇を取る」
だが、その判断すら――
すでに“誘導された思考”だった。
・レヴァンティア・外周林
副官が報告を受ける。
「予定通り、逃げ道に敵伏兵」
レオンは地図を見たまま答える。
「予定通りだ」
副官が笑う。
「じゃあ、潰すか?」
レオンは首を振る。
「違う」
「迎える」
その一言で、空気が変わる。
・伏兵戦
逃げ道の森。
将軍たちが逃げ道に将兵を引き連れ入る。
残りの将兵は待機に入る。
敵兵は息を殺していた。
「まだだ……」
「合図を待て」
しばらく経過してから合図が出る。
――カチッ
上から小さな音。
「……?」
次の瞬間。
森の影から声。
「そこだ」
「動くな」
敵兵が顔を上げる。
「なっ……!」
すでに――
囲まれていた。
傭兵団。
レヴァンティア傭兵軍。
いつの間にか背後を取られている。
「ば、バカな……ここは逃げ道のはずだ!」
傭兵の隊長が笑う。
「逃げ道?」
「いや」
「狩場だ」
・クロスボウ一斉射
「撃て」
乾いた声。
――ババババッ!!
森が光る。
悲鳴が一瞬で途切れる。
盾を構える暇すらない。
「くそっ!距離が読めない!」
「上だ!!上から――!」
言い終わる前に倒れる。
一人、また一人。
「撤退!撤退だ!!」
叫んだ瞬間。
背後から軽く切れ味の鋭い剣。
「遅い」
捕縛。
制圧。
伏兵部隊は、数分で“消えた”。
正確には――
捕虜として積み上がっていく。
・本隊 ― 逃げ道に入る
別ルート。
敵本隊。
「ここが安全だ」
「伏兵は逃げ道側にいるはずだ」
「急げ!」
だがその“安全”こそが罠だった。
森を抜けた瞬間――
静かすぎる空間。
「……何か、おかしい」
一人の兵が呟く。
その瞬間。
地面が沈む。
「っ!?」
落とし穴。
その下には――
槍ではない。
クロスボウの射線。
「撃て」
――ババッ!!
「ぐあああ!!」
「罠だ!!完全な罠だ!!」
混乱が広がる。
だが逃げ場はない。
左右から傭兵。
正面から剣兵。
背後は崩壊。
「なぜだ!!ここは退路のはずだ!!」
「誰が守っている!!」
その問いに答える者はいない。
ただ一つだけ。
“処理”が進んでいく。
・傭兵の声
「団長、捕縛優先でいいんですか?」
副官の声。
森の上方。
レオンの指示は短い。
「価値がある」
「生かせ」
「将を取れ」
「はいよ」
傭兵が笑う。
「戦争じゃねぇな、これ」
「作業だ」
・敵将軍
本隊の奥。
混乱の中で、将軍が叫ぶ。
「撤退だ!!撤退しろ!!」
だが――
その声は遅い。
すでに退路は傭兵団によって埋め尽くされている。
「なぜ……なぜ退路がふさがれている…」
その瞬間。
影が落ちる。
「将軍、だな」
低い声。
振り向く。
そこには――
レヴァンティアの旗。
ではない。
傭兵の印。
「捕縛だ」
「抵抗すれば死ぬ」
将軍は剣を抜く。
だが――
一斉射。
クロスボウ。
膝が崩れる。
「……ば、馬鹿な……」
地面に倒れる。
その目に映るのは――
“戦場ではなく設計図の完成形”。
・王都・レオン
報告が届く。
「逃げ道部隊、壊滅」
「本隊、包囲完了」
「敵将軍、捕縛」
副官が笑う。
「全部、読まれてたな」
アルベルトが呟く。
「逃げ道まで……」
レオンは地図を閉じる。
「逃げ道は重要だ」
一拍。
「一番人が集まる」
副官が吹き出す。
「最悪だな、お前」
レオンは淡々と続ける。
「戦争は、動線だ」
「人の流れを設計すれば終わる」
・敵軍崩壊
森の中。
動かない兵。
武器を捨てる者。
膝をつく者。
「もう無理だ……」
「逃げても意味がない」
「どこにも出口がない」
戦意は折れるのではない。
最初から“誘導されていた”。
・捕縛された将軍
縄で縛られた将軍が言う。
「……これは戦争ではない」
レヴァンティア兵は答えない。
将軍は続ける。
「罠だろう……」
その言葉に、傭兵が笑う。
「違うな」
「お前らが勝手に入ってきただけだ」
・レオン
報告を受ける。
「終了しました」
副官が言う。
「三軍、事実上壊滅」
「将軍も確保」
アルベルトが静かに問う。
「……これで、一国は完全に崩れますね」
副官も続く。
「他の二国も、しばらくはもう動けないでしょう」




