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弱小国の王子だったので、近隣都市を制圧します  作者: レモンティー


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第二十四話:火種 ― 破壊ではなく、設計

夜明け前のレヴァンティア。

その静けさを、最初に破ったのは叫びではなかった。

――乾いた破裂音。

「爆破だ!!」

「倉庫区画がやられた!!」

「消火班を回せ!!」

王都北側の兵站区画。

黒煙が立ち上る。

木箱が弾け、穀物が炎に包まれていた。

だが――

完全な崩壊ではない。

「……未遂か」

副官が呟く。

レオンは炎を見ながら言う。

「完成してない」

「時間が足りなかったな」


・工房区画

「親方!!」

「無事か!!」

扉が破られる。

中では、鉄の匂いがまだ残っていた。

だが――

壁に黒い焦げ跡。

設計図の束が切り裂かれている。

「やられたな……」

親方が低く言う。

「何をだ」

「人だ」

「工具じゃねぇ。情報だ」

若い職人が震える。

「スパイ……?」

親方は吐き捨てる。

「混ざってた」

「最初からな」


・王城・緊急会議

「爆破未遂です!」

「被害は限定的!」

「だが再発の可能性が!」

文官が叫ぶ。

王がレオンを見る。

「……どうする」

アルベルトが先に言う。

「警備強化だ」

「全員検査を――」

レオンが遮る。

「遅い」

一言だった。

空気が止まる。

「遅い、ですと……?」

アルベルトが眉をひそめる。

レオンは地図を指でなぞる。

「もう入ってる」

「警備は“侵入を防ぐ仕組み”じゃない」

「“侵入後に機能する仕組み”だ」

副官が笑う。

「で、どうする?」

レオンは即答する。

「設計する」


・捕らえたスパイ ― 偽情報の植え付け(完成改稿)

地下の取調室。

灯りは最低限まで落とされ、影が壁に張り付いている。

椅子に縛られた男の呼吸だけが、部屋の中で浮いていた。

レオンは近づかない。

距離を保ったまま、机の上に書類を置く。

「お前が家族を人質として取られていることは把握している」

男の喉がわずかに動く。

だが表情は崩れない。

「……だから何だ」

絞り出すような声。

「こうするしかなかった」

言い切ると、男は自嘲するように笑った。

「殺すなら殺せ」

その瞬間、副官が小さく笑う。

「気が強い」

だがレオンは表情を変えない。

「殺さない」

一言だけ落とす。

空気が一段冷える。

男の目がわずかに揺れた。

「……は?」

「お前は帰る」

沈黙。

「帰る?」

男は鼻で笑う。

「嘘をつくな」

レオンは答えず、淡々と一枚の図面を机に置いた。

それは――

・偽の兵站配置図

・偽の補給拠点の脆弱点

・偽の防衛薄弱ルート

男の息が止まる。

「……これは」

「本物じゃない」

レオンは即答する。

「“本物に見えるように作られた偽情報”だ」

副官の笑みが消える。

男が縛られた腕に力を込める。

「そんなものを……持たせて帰す気か」

レオンは初めて男を正面から見た。

「そうだ」

一拍。

「そして、お前はこう報告する」

声は低く、揺れない。

「“レヴァンティアはここが弱い”とな」

男の喉が鳴る。

「……罠だ」

「当然だ」

レオンは即答した。

その即答の速さが、逆に恐怖だった。

「だが、お前は生きて帰れる」

静かに続ける。

「家族も、まだ生きている」

男の目が揺れる。

「祖国は、お前の家族を盾にする」

一拍。

「だがレヴァンティアは違う」

副官が小さく息を呑む。

レオンは淡々と続けた。

「選べ」

「死ぬか」

「生きて帰って、間違った情報を運ぶか」

沈黙。

男の呼吸が乱れる。

そのとき初めて、彼の“強さ”が揺らいだ。

「……帰ったら、どうなる」

かすれた声。

レオンは即答しない。

数秒置いてから、静かに言う。

「報酬は祖国から出るだろう」

「だが、お前の家族がどう扱われるかは保証できない」

その言葉は刃ではない。

だが確実に骨に届く。

男の顔が歪む。

「……じゃあ、俺は何のために」

レオンは初めて少しだけ間を置いた。

「生きるために、この国にこい」

沈黙が落ちる。

そして、最後にレオンが書類を一枚だけ追加で置く。

「補足だ」

男の視線が落ちる。

そこには――別の地図。

より精密で、より“本物に見える偽情報”。

だが実際には、致命的な誘導が一つだけ混ぜられている。

レオンは静かに言う。

「これは“逃げ道”だ」

「ただし、使えば死ぬ」

副官が初めて顔をこわばらせた。

男は息を飲む。

「……お前は、何者だ」

レオンは答えない。

代わりに、最後の一言だけ落とす。

「生きて帰れ」

「だが、“真実”は持ち帰るな それがお前の家族を守る唯一の方法だ」

「家族とともにレヴァンティアに逃れてこい 家族を人質として利用するような祖国に未練はあるまい 全てが終わったらお前に爵位を与え何不住なく暮らせるようにしてやる」


・敵側に戻る影

男は解放される。

外へ出る。

夜風。

自由。

だが背中には重さがある。

(……これを渡せば)

(軍は動く)

(勝てる……と思うはずだ)


・王城・レオン

副官が問う。

「どこまで信じる?」

レオンは即答する。

「全部信じる」

アルベルトが顔を上げる。

「……それは」

レオンは続ける。

「だから勝つ」

「敵が信じる情報だけで動くなら」

「敵はもう敵じゃない」

沈黙。


・敵国

「戻ったか!!」

「どうだった!」

潜入者が報告する。

「成功です。」

「レヴァンティアは内部に隙がある」

地図を示し地図を叩く。

「ここだ ここに城の内部に侵入できる逃げ道がある」

「ここから入って城の内部から突けば崩れる」

将軍が目を見開く。

「……本当にか」

「間違いありません」

「でかした。十分な報酬を与え家族も開放する。」

誰も疑わない。

いや――

“疑えないほど整っている”。

王が立ち上がる。

「侵攻準備」

「今度こそ終わらせる」

その瞬間。

戦争は決まった。


・王城・レオン

副官が笑う。

「全部飲み込んだな」

レオンは頷く。

「あとは来る」

アルベルトが低く言う。

「それは……罠ではなく」

レオンは答える。

「舞台だ」


炎は消えた。

だが火種は残った。

敵は“勝てると思って動く”。

その理由すら、与えられている。

レオンは静かに言う。

「報復じゃない」

一拍。

「設計だ」

アルベルトは、その言葉の意味をまだ完全には理解できていなかった。

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