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弱小国の王子だったので、近隣都市を制圧します  作者: レモンティー


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第二十三話:流入する者、崩れゆく国

レヴァンティア王都。

朝から門が騒がしい。

「次! 名前を言え!」

「職は!?」

「鍛冶です! 鉄は扱えます!」

「通せ!」

「次!」

列が途切れない。

農民、商人、職人、傭兵崩れ――

あらゆる人間が押し寄せていた。

「噂は本当だったな……」

「仕事がある、金が出る、飯が食える」

「それだけで十分だ」

門番が吐き捨てる。

「ここは楽園じゃねぇぞ」

男が笑う。

「地獄よりはマシだ」

門番

「スパイには注意しろ」


・市街

「部屋が足りねぇ!」

「倉庫を開けろ、寝床に使え!」

怒号と活気が入り混じる。

商人が笑う。

「売れる! 何でも売れるぞ!」

「布も! 鉄も! 酒も!」

別の商人が言う。

「人が増えれば、全部回る!」

一人の商人が小声で言う。

「……だが、変な奴も増えた」

「変な?」

「値段を探るだけで買わねぇ」

「倉庫の場所を聞いてくる」

「……それは」

「報告しとけ」


子供の声。

「お母さん、お腹いっぱい食べていいの?」

母親が一瞬だけ黙り、笑った。

「……いいのよ」


・王城

「流入者、さらに増加しています」

文官が報告する。

「治安は?」

「軽犯罪は増加」

「ですが、大きな問題はまだ」

別の文官が口を挟む。

「……不審者の報告が増えています」

王の視線が鋭くなる。

「内容は」

「倉庫、兵站、工房の場所を探る動き」

副官が舌打ちする。

「来たか」

王がレオンを見る。

「どうする」

レオンは即答する。

「炙り出す」

「泳がせろ」

「接触した者を追え」

アルベルトが言う。

「……流入者の中に?」

「当然だ」

レオンは淡々と続ける。

「崩壊している国ほど、情報に飢える」

「奪えないなら、探る」

副官が笑う。

「で、見つけたら?」

レオンは短く言う。

「使うか、消す」

アルベルトが顔をしかめる。

「……選択肢がそれだけですか」

「それで足りる」


王がレオンを見る。

「流入者についてどうする」

レオンは即答する。

「選別します」

「使える者は使う」

「使えない者は排除」

アルベルトが眉をひそめる。

「……排除、とは」

「外に出すだけだ」

「ここは慈善施設じゃない」

副官が笑う。

「冷てぇな」

「当然だ」

レオンは淡々と言う。

「維持できなければ、全部崩れる」


・城内

「警備を強化しろ!」

「出入りの記録を全て取れ!」

「身元不明は通すな!」

兵たちが走る。

「工房の見張りも増やせ!」

「設計図は外に出すな!」

一人の兵が小声で言う。

「……なんか、戦場より怖ぇな」

別の兵が返す。

「見えねぇ敵が一番厄介だ」


・工房

「人手が足りねぇ!」

「いや足りてる! 多すぎるくらいだ!」

「どっちだよ!」

新しく来た職人が叫ぶ。

「仕事はあるのか!?」

親方が顎で示す。

「山ほどある」

「ただし――」

槌を渡す。

「使えればな」

新参が歯を食いしばる。

「……やってやる」


・別の工房

「誰だ、お前」

新参の男に親方が睨みを利かせる。

「……職人です」

「手を見せろ」

男が一瞬ためらう。

「早くしろ」

手は綺麗すぎた。

親方が低く言う。

「帰れ」

「ここは遊び場じゃねぇ」

男が去る。

若い職人が呟く。

「……今の」

親方が吐き捨てる。

「鉄を触ったことがねぇ手だ」


・傭兵

「報酬がいい国に流れる」

傭兵が酒を飲みながら言う。

「当たり前だ」

「ここはいい」

「戦えば金になる」

「死んでも金になる」

別の傭兵が笑う。

「最高だな」

一人がぽつりと。

「……そのうち、戦う相手がいなくなるぞ」

沈黙。

「そしたら?」

誰も答えない。


「しかし最近、変なのが増えたな」

「どんな?」

「話を聞きたがる奴」

「戦の話、配置、数……」

一人が鼻で笑う。

「スパイか」

別の傭兵が酒をあおる。

「見つけたらどうする?」

ニヤリと笑う。

「高く売るか」

「首を持っていくかだな」


・アルベルト

「人が増えれば、国は強くなります」

アルベルトが言う。

レオンは頷く。

「そうだ」

「だが」

アルベルトは続ける。

「限界はあります」

「食料、住居、治安……」

「崩れたらどうしますか?」

レオンは即答する。

「切る」

「何を」

「不要な部分を」

アルベルトは目を伏せる。

「……人を、ですか」

レオンはすぐには答えない。

そして言う。

「疑わない方が危険だ」


・敵国

――静かだ。

かつての街。

今は、人がまばらだ。

「……人が減っている…」

痩せた兵が呟く。

「逃げたのか」

「違う」

別の男が言う。

「流れたんだ」

「どこに」

「レヴァンティアだ」

沈黙。

市場は空。

棚も空。

「売る物がない」

「買う奴もいない」

一人が笑う。

「国ってのはな」

乾いた声。

「戦で負けると、こうやって死んでいくんだよ」


・崩壊

王城。

だが、灯りは少ない。

「税が集まりません」

「当然だ」

「人がいない」

「兵も逃げています」

「止めろ!」

「どうやって!?」

怒号。

混乱。

「レヴァンティアに行けば食えるって……!」

「裏切り者どもが!!」

だが、止まらない。


・難民

「頼む……入れてくれ……」

門の外。

やせ細った人々。

「仕事なら何でもする……」

「子供だけでも……」

門番が顔をしかめる。

「……食料は渡す」

「……が…多すぎる」

上から声が飛ぶ。

「選べ!」

「若い奴からだ!」

その中に――

無言で周囲を観察する者がいた。


・レオン

報告を聞く。

「敵国、機能停止状態」

「時間の問題です」

副官が言う。

「戦わずに勝ったな」

レオンは首を振る。

「違う」

「戦った結果だ」

「戦場だけが戦争じゃない」

アルベルトが低く言う。

「……これが、兄上の望んだ形ですか」

レオンは窓の外を見る。

人が集まり、

光が増え、

街が膨らんでいく。

「望んだ結果ではある」

一拍。

「だから守る」


人は流れる。

豊かな方へ。

金のある方へ。

生きられる方へ。

そして――

空になった国は、

静かに崩れる。

誰にも気づかれず、

誰にも止められず。

レオンは呟く。

「勝つとは、奪うことだ」

一拍。

「だが、奪われる側にもなることもある」

副官が笑う。

「だから疑うのですか」

「土地だけじゃない」

「人も、金も、未来もだ」

「ああ」

レオンの目は冷たい。

「全部を」

弟アルベルトは目を閉じる。

繁栄の裏にあるものを、

はっきりと見始めていた。

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