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弱小国の王子だったので、近隣都市を制圧します  作者: レモンティー


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第二十二話:流入 ― 金の行き先

レヴァンティア王城。

石の床に、硬い音が響く。

――ガシャン

「以上、捕虜三百二十名!」

「貴族階級、十二名!」

「身代金、半数支払い済み!」

文官が声を張る。

別の文官が続ける。

「残りも時間の問題です!」

「既に使者が三度、金を運び込んでおります!」

王がゆっくりと口を開く。

「……総額は」

一瞬の静寂。

「金貨にして――昨年税収の六割相当」

ざわ……と空気が揺れる。

副官が笑いを堪えきれない。

「はは……おいおい」

「戦争のほうが、税より稼ぐということか」

王が低く言う。

「笑い事ではない」

だが、その口元はわずかに緩んでいた。


・金庫

重い扉が開く。

――ギィィ……

「運び込め!」

「丁寧に扱え、傷つけるな!」

兵たちが箱を運ぶ。

――ドン、ドン、ドン

蓋が開く。

「……っ」

アルベルトが息を呑む。

「これが……全部」

文官が淡々と説明する。

「捕虜の身代金です」

「それに加え、鹵獲物資の売却益」

「さらに、敵商人による買い戻し金」

アルベルトが眉をひそめる。

「敵が、金を払って取り戻すのか?」

「はい」

「自国では不足している物資です」

「高値でも買うしかない」

レオンが口を開く。

「必要だから払う」

「単純な話だ」

アルベルトが言う。

「……それを、我々が売るという話ですか…。」

「そうだ」

「嫌か?」

「……」

答えられない。


・分配

王が椅子に深く座る。

「で、どう動かす」

レオンは一拍も置かない。

「止めない」

「全部、流す」

副官がニヤリとする。

「貯めねぇのか?」

「死蔵は損だ」

「金は動かして価値になる」

王が頷く。

「続けろ」

レオンが指を折る。

「傭兵」

「報酬を上げる」

「前線維持の要だ」

副官が笑う。

「逃げられたら困るしな」

「逃げる理由を消す」

「次、兵士」

「給金増額、家族への補償強化」

文官が確認する。

「戦死者にも、ですか」

「ああ」

「死んでも得になる構造にする」

アルベルトが思わず声を上げる。

「それは……!」

レオンが遮る。

「現実だ」

「誰も無償では戦わない」

沈黙。

レオンは続ける。

「鍛冶職人」

「最優先で囲え」

「資金、設備、住居、全部与えろ」

親方の言葉を思い出したように、少しだけ口元が動く。

「技術は裏切らない」

副官が肩をすくめる。

「人は裏切るがな」

「だから縛る」

レオンの声は淡々としている。

アルベルトが低く言う。

「……国が、変わっていく」

レオンが返す。

「もう変わっている」


・市街

「おいおい、見たか!?」

「給金、増えてるぞ!」

「嘘だろ!?」

「ほら見ろ、銀貨五枚だ!」

「五枚!? 前は三枚だぞ!?」

酒場がざわめく。

「飲め飲め!!」

「今日は俺が奢る!!」

「やめとけ、明日泣くぞ!」

「明日ももらえるかもしれねぇだろ!」

笑いが弾ける。

別の席。

「……戦争様様だな」

「不謹慎だが、否定できねぇ」

「俺たち、負けてたら今頃どうなってた」

誰も答えない。

だが、全員わかっている。


・商人

「全部買う、とおっしゃいましたね?」

商人が慎重に聞く。

レオンは即答する。

「ああ、全部だ」

「値は?」

「言え」

「……二倍になります」

一瞬の間。

副官が笑う。

「吹っかけたな」

レオンは頷く。

「いい」

商人が目を見開く。

「……本当に?」

「ただし条件がある」

「は、はい!」

「流通を止めるな」

「市場に回せ」

「滞らせるな」

商人は深く頭を下げる。

「必ずや!」

外に出た商人が息を吐く。

「……勝った国は違う」

別の商人が言う。

「いや」

「回してる奴が違う」


・遊郭

灯りがともる。

人の波。

笑い声。

「いらっしゃいませ!」

「今日は顔がいいですねぇ」

「金があるからな!」

「正直でよろしいこと」

笑いが起きる。

一人の兵が言う。

「なぁ」

「これ、いつまで続くと思う?」

女が杯を傾けながら言う。

「続く間は、楽しめばいいのよ」

別の女がぽつりと。

「……誰かが負け続ける限りね」

兵が黙る。

そして、酒を飲む。


・鍛冶工房

「報酬だ」

袋が置かれる。

――ドサッ

「おい……」

若い職人の声が震える。

「これ……本物か?」

親方が笑う。

「偽物でどうする」

レオンが言う。

「足りるか」

親方が袋を持ち上げる。

「……足りるどころか、多すぎる」

「なら働け」

「次もある」

親方がニヤリと笑う。

「だろうな」

「こんな戦、やめられるかよ」

若い職人が呟く。

「……俺たちも、戦ってるのか」

親方が答える。

「当たり前だ」

「ただし、火と鉄でな」


・アルベルト

城の窓。

街が明るい。

人が動く。

笑っている。

「……これが」

副官が横に立つ。

「不満そうですね」

「……いや」

少し間。

「兄上のお考え…理解はできる」

「でも?」

「……正しいとは思えない」

副官が笑う。

「正しさで腹は膨れません」

アルベルトが静かに言う。

「間違いで満たされるのも、違う」

副官は少しだけ黙る。

「……面倒なお考えはお捨てください」


・王

「いい流れだ」

王が言う。

「止めるな」

レオンは頷く。

「止めません」

「止めたら?」

王が問う。

レオンは即答する。

「飢えます」

「民が」

「兵が」

「国が」

王が笑う。

「なら、止める理由はない」


金は流れる。

「回せ!」

血の上を。

「止めるな!」

武器の上を。

「もっとだ!」

死の上を。

だが――

「乾杯!!」

街は明るくなる。

「売れたぞ!!」

商人は笑い、

「もう一杯!!」

兵は飲み、

「叩け!!」

職人は打つ。

レオンは静かに言う。

「戦争は消費だ」

一拍。

「そして――投資だ」

アルベルトが目を閉じる。

「……それでも」

小さく呟く。

「間違っている気がする」

誰にも届かない声。

だが――

確かにそこにあった。

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