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弱小国の王子だったので、近隣都市を制圧します  作者: レモンティー


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第十七話:広がる恐怖、崩れる国家

戦場から帰った者は、もう“兵士”ではなかった。

ただの、生き残りだった。

「……やめろ……やめろ……」

男は壁に背を預け、膝を抱えて震えていた。

その口から、同じ言葉が何度も漏れる。

「来るな……来るな……あれは……戦じゃない……」

酒場の空気が凍りつく。

「おい、お前……前線にいたのか?」

誰かが恐る恐る聞く。

男は顔を上げる。

目は焦点が合っていない。

「見たのか……?」

「何をだよ」

「……矢だ」

「矢?」

「違う……違う……あんなの、矢じゃない……!」

男は頭を抱え、叫ぶ。

「雨だ……鉄の雨だ!!」

ざわ……と酒場が揺れる。

別の男が、震える声で口を開く。

「俺も見た……」

全員の視線が集まる。

「盾を構えた。完璧だった。訓練通りだ」

「……なのに?」

「貫かれた」

沈黙。

「一発で、だ。盾ごと、腕ごと、後ろの奴まで……」

「嘘だろ……」

「嘘じゃねぇ!!」

男は机を叩いた。

「何十年も戦ってきた将軍が……最初の一斉射で倒れたんだぞ!?」

誰も、笑わなかった。

「それだけじゃない……」

さらに別の声。

「空から来る」

「は?」

「石だ……いや、あれは……」

言葉が詰まる。

「……何だ?」

「分からねぇ……分からねぇが……」

男は震えながら言う。

「城壁が……“砕けた”んだ……」

一瞬、誰も意味を理解できなかった。

「……城壁が?」

「崩れたんじゃない。“弾けた”んだよ!!」

「――ッ!?」

「音がして、次の瞬間には、壁が消えてた……!」

酒場の誰かが、ぽつりと呟く。

「……なんだ、それは」

男は涙を流しながら、笑った。

「俺もそう思ったよ……」

「なんだあれは、ってな……」

その言葉に、誰も返せなかった。


「……何だ」

「――戦うなだと」

将校は叫んだ。

その一言は、重かった。

部屋の空気そのものが沈んだように、誰も言葉を発せない。

王の拳が震える。

「……誰が、そんなことを言い出した」

「前線から戻った兵です」

将校は一歩も引かずに言う。

「彼らは口を揃えて言っています。“あれは戦ではない”と」

「……黙らせろ」

王が低く言う。

「そのような戯言、民に広まれば――」

「すでに広まっています」

即答だった。

「酒場、宿屋、市場……兵士だけではない。商人も、民も、同じ言葉を口にしています

「……戦うな、と」

沈黙。

将軍の一人が吐き捨てる。

「臆病風に吹かれただけだ。弱小国など数を集めれば押し潰せる」

「不可能です」

また別の将校が口を開く。

「何を根拠に――」

「見たからです」

その声は、震えていた。

だが、逃げてはいなかった。

「盾が無意味でした」

「陣形が意味を成しませんでした」

「距離が、安全ではありませんでした」

一歩、前に出る。

「……我々の“戦い方”そのものが、通用しません」

言葉が、重く落ちる。

「やめとけ……」

老人が呟く。

「もう、あの国とは戦うな」

若者が反発する。

「でもよ、ここで引いたら舐められるだろ!」

「舐められる?」

老人は笑った。

乾いた笑いだった。

「舐められて済むなら、安いもんだ」

「……どういう意味だよ」

「死ぬんだよ」

即答だった。

「戦えば、全員な」

若者は言葉を失う。

別の場所。

商人たちが集まっていた。

「塩の値が崩れた」

「全部、あの国のせいだ……」

「安すぎる……勝てるわけがない……」

一人が小さく言う。

「……戦争なんて、してる場合じゃない」

「は?」

「分からないのか?」

男は顔を上げる。

「経済でも負けてるんだよ、もう」

沈黙。

「武器でも負けて、金でも負けて……」

「それで戦って、勝てると思うか?」

誰も、答えなかった。


・前線近郊

捕虜が座り込んでいた。

縄で縛られ、だが放置されている。

誰も近づかない。

ただ一人、兵士が水を置いた。

「……飲め」

捕虜は震えながら水を掴む。

「……なあ……」

かすれた声。

「なんだ」

「……あれは、何だ……」

兵士は少し考え、答えた。

「武器だ」

「違う……」

捕虜は首を振る。

「武器じゃない……あんなの……」

涙がこぼれる。

「……どうやって勝つんだよ、あれに……」

兵士は、答えなかった。


・王都・再軍議

「講和を進言します」

ついに、その言葉が出た。

ざわめきが走る。

「裏切りか!」

「弱腰め!」

罵声が飛ぶ。

だが、止まらない。

「講和で済むうちに、終わらせるべきです」

「これ以上の損害は、国家そのものを崩壊させます」

王が睨む。

「……では聞く」

低い声。

「戦えば、勝てるのか」

誰も答えない。

沈黙が、答えだった。

そのとき、一人の若い将校が口を開いた。

「……勝てません」

全員の視線が突き刺さる。

それでも、言い切った。

「断言します」

「このまま戦えば――」

「国が、消えます」


その日。

ついに、三国すべてで同じ言葉が確認された。

兵の間で。

民の間で。

そして、貴族の間で。

「……戦うな」

それは命令ではない。

祈りでもない。

“結論”だった。

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